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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第188話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:第二次結界攻略戦・聖杖


 私には才能があるらしい。

 自分だけを幸せにして、周りにしわ寄せを押しつける呪いのような才能が。


 こんな才能なら必要ない、と幾度となく思った。

 もう見たくなかったのだ。

 私のせいで好きな人が悲しむ。

 私のせいで優しかった人が恐ろしくなる。

 私のせいで、私以外の誰かが不幸になる。


 それでもなお、と自分を押し通すほどのエゴが、私にはなかった。

 将棋の才能はあっても勝負師の才能はないと、まさに師匠が言った通りに。


 だけど、彼女は言ったのだ。


 ――幸せになれ。

 ――わたしを踏み台にしてでも幸せになれ。


 その生き様をもって――それが、私の義務なのだと。

 だから、私は―――


「―――《最も(かしこ)天地(あめつち)の 母月(ぼづき)(ましま)大御神(おおみかみ)》」


《天魔大将軍イザカラ》が立つクレーターの縁で。

 月のないダ・アルマゲドンの夜空に、《聖杖エンマ》を高く掲げる。


「《(たえ)なる御霊に依りて(これ) 現世(うつしよ)生出(いで)たる身にし有れば》」


 祝詞に反応し、聖杖エンマの先端に嵌まった青い宝玉が、翡翠色の輝きを放った。


「《大き久き廣き厚き大愛を(かぶ)りて 其本(そのもと)津御恵(つみめぐみ)に報い奉らん》――――」


 余ったMPが、すべて一気に消費される。

 これはかつて、一人の巫女がその身で実現した大秘術。

 神の権能を一時借りて、全能たるを地上に証す。

 聖なる杖の神聖たる証明を、今ここに。


「――――《聖杖再臨(リ=エンマ)》――――!!」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 翡翠色の輝きが夜闇を塗り潰すようにして広がり、クレーター全体をドーム状に覆った。

 俺はその輝きを見上げ、口元が緩むのを自覚する。


「……久しぶりじゃねえかよ、これ」


 俺の《魔剣フレードリク》と並ぶユニークウエポン《聖杖エンマ》。

 魔剣フレードリクに《魔剣再演》があるように、聖杖エンマにも切り札たる魔法がある。

 ただし、残りMPのすべてを消費するという代償が、魔法使いであるチェリーにとっては重すぎるために、滅多に使用することはないのだ。


 その名を《聖杖再臨》。

 神の力をその身に降ろす、紛れもなくMAO最強の魔法――


 クレーターの縁に立つチェリーが、大きな袖を翼のように翻した。

 緩やかながらも流麗に軌跡を描くそれは、まるで神楽――神に奉ずる巫女の舞い。

 しかし、その動きに込められた意味は、もっと実際的だ。


 ピンと伸びた白い指が次々に示すのは、座標。

 具体的には、俺や騎士団の連中がいる座標。

 アバターの周囲に展開された立体ホロモニターで、俺たちを意味するアイコンを次々とタッチしているのだ。

 その動きに、あまりに無駄がなさすぎて……まるで、舞っているように見えるだけなのだ。


 頭の中に声が響く。


『――《第三杖権(じょうけん)風治(ふじ)》』


 俺たちの身体を、ふわりと風が包み込んだ。

 身体中に発生していたダメージエフェクトが、その風に一瞬で拭い去られる。

 赤く点滅していたHPゲージが、一気に右端まで回復する。


 それだけじゃない。

 あちこちにふわふわと浮かぶばかりだった、青白い人魂たちが――

 ――次々と、人の姿を取り戻してゆく。


《魔剣再演》が5種類の専用魔法を持つように、《聖杖再臨》もまた5種類の専用魔法を持つ。

 これはそのひとつ、《風治》。

 指定した対象に、蘇生、回復、状態異常解消、デバフ解消のすべてを同時に行う最強の回復魔法(・・・・・・・)―――!!


「これは……なんと……!」


 次々と復活する騎士たちを見て、イザカラの肩に立つ《呪王》が呻いた。


「届くと言うのか、この地の底まで! 憎き母月の輝きが―――!!」


 仰ぐのは翡翠色のドームに覆われた空。

 そのずっとずっと向こうにある、本物の夜空。

 そして、その中天に輝く二つの月。


《呪王》は視線を下ろすと、クレーターの縁を睨みつけた。

 その翡翠色の輝きは、きっと彼ら魔族にとって、不倶戴天の大敵……!


「イザカラ卿……! 彼女だッ、彼女を真っ先に潰せ!!」


 ズン! とイザカラがチェリーに向かって足を踏み出した。

 チッ……! まずい!

《聖杖再臨》中のチェリーは、その強力な専用魔法と引き替えに、その場から一歩も動くことができないんだ……!


 ずいぶん長く攻撃していなかったせいで、ヘイトはリセットされている。

 だったら、あれほど派手な回復魔法を使ったチェリーにヘイトが向くのは当然だ……!


 助けに入るべく走り出そうとした俺だったが、その前に、チェリーが聖杖エンマをイザカラに振り向けた。

 薄い唇が、新たなる祝詞を紡ぐ。


『――《第四杖権・水寂(すいじゃく)》!』


 青い燐光が、にわかにイザカラの巨体を覆った。

 いや、それはよく見ると、細かな水の雫だ。

 無数の雫が渦潮のように猛然と渦巻くと、イザカラの目と耳にピタリと覆い被さる!


「これはっ……!?」


 肩の上の《呪王》が、愕然と目と耳を塞がれたイザカラを見た。

《水寂》。

 一時的に対象から視聴覚を奪い去る、最強の弱体化魔法(・・・・・・・・)


『――先輩!』


 頭の中に声が響いた。

 これも《聖杖再臨》の効果のひとつ。

 展開された翡翠色の結界内にいる相手に対し、テレパシーを送ることができる力だ。


『最上級のレイドボスが相手です。《水寂》も数秒しか保ちません! 今のうちに畳みかけます!』


「でも、お前の護衛は!?」


『不要ですよ』


 顔なんか見えるはずもないのに、どうしてか俺には、不敵に笑うあいつの顔がはっきりと見えた。


『護衛なんかに頼ってるようじゃ、先輩の隣には立てませんから!』


「ん、ばッ……!?」


 と、隣って? どういうこと!?

 一人で狼狽していると突然、「オラァッ!!」と背中を蹴り飛ばされた。


「さっさとやんぞ色男コルァ!!!」

「俺たちよォ、今むしゃくしゃしてっからよォ、何でもいいからぶっ飛ばしたい気分なんだよォ~~~~!!!」


 さっきまで忠義を語っていた騎士たちが、急にチンピラになっていた。

 ひえっ、怖い……。


 俺は慌てて立ち上がり、イザカラに向き直る。

 目と耳を塞ぐ水の拘束具は、今にも雫に戻って散ろうとしていた。


 チェリーによって全回復させられたとは言っても、俺たちの戦力は決して多くない。

 それに、《風治》の回復力に頼るのにも限界がある。

 俺の《魔剣再演》と同じく、《聖杖再臨》も時間制限付きだ。そしてそれは、専用魔法を使えば使うほど目減りしていく。

 中でも《風治》はコストが大きいほうなのだ。そう何度も使わせるわけにはいかない。


「――引き続き俺が回避盾をやる……! ダメージ稼ぎは任せた!」


「「「うォおおらァ!!!」」」


 だからなんで急にガラ悪くなってんだよ!


 昭和の路地裏を生息地にしていそうな騎士たちは、それでも整然とした動きで左右に散開、イザカラの側背に回る。

 俺は正面から巨大な武士に挑んだ。


「ヌウウッ……! コシャクナッ!!」


 イザカラが忌まわしげに叫ぶ。

 同時、水の拘束具が飛沫と散った。

 その足はすぐにチェリーへと向くが、そうは問屋が卸さない。


 頭の中に、歌うような祝詞が響く。


『――《第五杖権・地衣(ちえ)》!』


 ズン! と地面が揺れるような感覚があった。

 足裏に熱を感じ、それはふくらはぎ、太股を伝って全身に巡った。


 燃えるような熱が総身に満ち、ゆらりと陽炎をまとう。

 伴い、HPゲージの下に、滅多に見られないものが現れた。

『ALL』の3文字が書かれただけのシンプルなそれは、『全ステータス上昇』を意味するバフアイコン……!


《地衣》。

 見ての通り、最大HPや最大MPに至るまでのあらゆるステータスをバフする、最強の強化魔法(・・・・・・・)……!


 ズオンッ!! と足が地を割った。

 瞬時に間合いを詰め切った俺に、巨体に対する怖じ気はひとかけらと存在しなかった。


「うおッおォおおおおおおおおおらァあぁあああああああああああああああッッ!!!!!」


 他の連中に中てられたか、獰猛に叫びながら、俺はイザカラの巨体を駆け上がる。

 腱を。

 膝を。

 横腹を。

 脇を。

 甲冑の隙間に都度都度斬撃を入れながら、あたかも竜巻のように。


「――君たちは……君たちは――」


 イザカラの頭上にまで跳び上がった俺を、《呪王》が見上げていた。

 愕然と。

 あるいは、眩しいものを見るように。


「――らあッ!!」


 重力を乗せた一撃を、イザカラの額に叩きつけた。

 体技魔法でもない力任せの一撃は、しかし、イザカラの巨体をふらりと揺らがせる!


「オオ……オオオオオ……!!」


 足元での騎士たちの攻撃が重なり、HPゲージが見る見ると減っていた。

 5段にも及ぶそれは、今――イザカラが、空を仰ぐと同時――4段目を、尽きさせる。


 HPゲージ、残り1段。


「――デアエッ!!」


 瞬間だった。

 イザカラが叫んだ。


「モノドモッ!! デアエェエイッ!!!」


 着地した俺は、クレーターのあちこちに光が溢れるのを見る。

 あれは……!?

 瀑布のように散る光の粒子の中から、人に似た影が現れた。


 刀を携えた人間大の甲冑姿。

 頭上にはHPゲージ。


「足軽ミニオン……!!」


 イザカラが召喚する雑魚モンスター!

 それがこの期に及んで――しかも、なんだこの数!

 10や20じゃ利かない。

 30? 40? 数えるのも億劫だ!

 ただでさえ戦力が足りないのに、こんな奴らの相手……!


『皆さんはイザカラに集中してください!』


 歯噛みしたとき、チェリーの声が頭に響いた。


『周りの雑魚は、私が掃除します……!』


 クレーターの縁に立つチェリーが、くるりと踊る。

 翻る白い袖は、まるで天女の羽衣。

 しかしその指は、無慈悲に神罰の犠牲者を選び出している。


『――《第二杖権・火蹟(ひせき)》!』


 紅蓮の炎が走った。

 地面を燎原の火のごとく這うそれは、炎の身体を持つ蛇にも見えた。

 炎の蛇は火の粉散らしてアギトを開き、足軽ミニオンを次々と呑み込んでいく。

 それでいて、味方だけは器用に避けた。

 言うまでもなく、チェリーの操作によるものだった。


《聖杖再臨》の専用魔法には、一貫する仕様がある。

 それは、座標指定での発動が可能だということ。

 魔法は普通、杖や手を差し向けて狙いをつける。

 しかし《聖杖再臨》の魔法だけは、『5メートル前方の高さ2メートルの位置に』といった形での発動が可能なのだ。


 展開した結界の内部に限るものの、これはすなわち、射程距離という概念が存在しないということ。

 それに加えて、攻撃範囲を限定することでパーティ入り乱れるレイド戦闘時のフレンドリーファイアを防ぐこともできる。


《火蹟》。

 無限の射程と精確無比な狙撃力を持つ、最強の範囲攻撃魔法(・・・・・・・・・)―――!!


 這い回る炎の蛇が足軽ミニオンを焼き尽くしていく。

 全滅は時間の問題だ。

 後背に憂いはない。


 俺は赤い甲冑の巨人を見上げた。


 ――ようやくだな、イザカラ。


 昨日、《呪王》の介入で敗走を喫し。

 今日もまた、俺が攫われたせいで中断して。

 明らかに足りない戦力で戦闘を再開し、一度はダメかと諦めかけ。


 ようやく、今。

 最後に残った、そのHPゲージを消し飛ばせる。


「……………………」


 大樹のような大太刀を腰だめに携え、イザカラは俺たちを睥睨した。

《呪王》を除く十二剣将に、人らしいAIが実装されている様子はない。

 元からそういう設定なのか……それとも、《呪王》に何かの細工をされているのか。


 それでも。

 そのとき、俺の目には、イザカラの口元が笑んだように見えたのだ。


「――イザッ!!」


 声と共に、大太刀が振り上げられる。

 タゲられている俺は、しかし逃げずに魔剣を握る手に力を込めた。


 MPに余裕はある。

 三度目になるが――今は、これが!


「――第五ショート(キャスト・)カット発動(ファイブ)!」


 風が翼を広げる。

 それに《地衣》の陽炎が混じり、空間をカーテンのように揺らめかせる。


 対し、

 ――ゴォウン……!

 と、およそ剣のそれとは思えない音が響いた。

 大太刀が大気を割る。

 まるで巨木が倒れるかのごとく、絶大なる圧迫感を伴って、俺に向かって振り下ろされる。


 回避盾――と、そう嘯きはした。

 だが、悪いな、今だけは!

 真っ向勝負がしたくなった―――!!




 ――――《鳥嵐烈閃》――――!!




 風が轟然と唸る。

 迸った空気の刃は、もはやひとつひとつが砲弾じみた威力。

 無数のそれらが大太刀に殺到し、次いで、


 ボウンッ!! と爆発が起きた。


 地面が放射状にひび割れる。

 ロケットが宇宙を目指すときのような粉塵がもうもうと噴き上がる。

 そのすべてを蹴飛ばし。

 そのすべてに押されて。

 俺は一直線に、振り下ろされる大太刀に突撃した。


 俺の魔剣フレードリクと、イザカラの大太刀。

 サイズも、重さも、どちらも比べるまでもない。

 しかし。

 それでも、しかし!


 ――覆りうるのが、仮想(この)世界だ!


 世界そのものが割れ砕けるんじゃないかと思うほどの衝撃が、全方位に撒き散った。

 おそらく、衝撃そのものは一瞬で、長く続いたのは残響に過ぎない。

 何十秒にも感じられたのは、錯覚に過ぎない。


 交錯の瞬間。

 衝撃に全身が震えた、その一瞬に。

 まるで、誰かに背を押されたような気がしたのも、また。




 イザカラの大太刀が、大きく弾き返された。




「「「……お……」」」


 バランスを崩して落下しながら、興奮を帯びた声を聞く。


「「「おぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」


 地面で背中をしたたかに打ちながら、俺はイザカラがノックバックしているのを確認した。


 身体は伸び切り。

 体重は後ろに寄り。

 一歩として動けはしない――完全なる硬直!


「――今だッ、チェリィィいぃいいィィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!!」


 俺が叫ぶのと時を同じくして、チェリーは聖杖エンマを天に掲げていた。

 翡翠色に輝くドーム状の結界。

 闇に染まったダ・アルマゲドンの夜空。

 その、さらに彼方から――

 ――神の威光を呼び寄せる。






『――――《第一杖権・天杖(てんじょう)》――――!!!』






 カッ!! と空の中央が輝いた。

 そう思った、その直後には。


 巨大な光の柱が、イザカラを押し潰していた。


 ヴァヂィッ!! と激しく空気が弾ける音が遅れてくる。

 光の柱の正体は、超巨大な落雷だった。

 古来、雷は神鳴りと言って、神の怒声だと信じられていたと言う。

 その伝承を証すかのように、《天杖》は雷の形を取って、敵に神の怒りを叩きつける。

 まるで神が、天上より己の杖を振り下ろしたかのごとく。


 単純明快。

 あらゆる魔法の中で最大の威力を持つ、最強の単体攻撃魔法(・・・・・・・・・)だ―――


 光の柱は徐々に細まり、ビリッとわずかな火花だけを残して消失する。

 イザカラは、まだ立っていた。

 全身を黒く焦がし、至るところから血のような光を散らし。


 ――HPさえ失ってなお、立っていた。


「フ」


 声がする。


「フ、フ、フ、フフフフフフフふふふ――――ふ」


 機械音声めいた響きだったイザカラの声が……徐々に、人間のようなそれに変わる。

 いや、戻る、なのか。

 元々の声が、今ようやく、何かから解放されて……。


「天晴れ」


 と、野太い声が告げた。


「久々に胸のすく、よい戦だった―――ああ。我は今まで、悪夢を見ていたのか」


《聖杖再臨》によって展開された翡翠色の結界が解除されてゆく。

 今の《天杖》で時間切れか。

 もし第二形態のようなものがあるのなら、俺たちに勝ち目はない。

 だが――俺はすでに、構えを解いていた。


「《呪王》よ――哀れなる我が同胞よ」


《天杖》を躱したのか、《呪王》の姿は空中にあった。

 おそらくは、自身に『悪夢』を見せていた張本人を相手に――しかし、イザカラはその声に慈悲を込める。


「そなたの呪いに、終止符が打たれることを、先に逝って願っておる――そなたに、偉大なる魔神の祝福よ、あれ」


 最期まで。

 イザカラは倒れなかった。


 その二本の足で。

 戦場に屹立したまま。

 ついぞ、一度として膝をつくことなく。


 無数の光の粒子に変じて、空へと立ち上っていった。

 主たる魔神が待つ空へ――


 それは、天晴れな、立ち往生だった。


「…………イザカラ卿」


 ただ一人。

 空中に残された《呪王》が、立ち上り消え失せる光を仰ぐ。


「貴殿も、恨まないと言うのか。500年、地獄にも似た悪夢に縛り続けた私を……呪わないと言うのか」


 呟くその男を、俺はとっくに、ただのボスモンスターとは見られなくなっていた。

 イザカラが最後に、自分自身を取り戻したように。

 その男にもまた、存在に刻まれた何かがあるのだと。


「まったく、まったく、頭に来る……。どいつもこいつも、揃いも揃って……これではまるで、私が間違っているようではないか……」


 頭を何度も振るその姿は、まるで苦悩に暮れるただの男のよう。

 俺たちは、この男と戦わなければならないのだ。

 この男を倒し、メイアを取り戻さなければならないのだ。


 さもなければ、MAOは――俺たちが出会ったこの世界は、滅びる。


「滅びるがいい」


 鬱々とした輝きを双眸に宿し、《呪王》は俺たちを睥睨した。


「君たちも、世界も、何もかも。それだけが証明だ。間違っているのは、呪われているのは私ではないという、それだけが証だ」


 自分の名前さえ封じた男は陰々と宣言する。

 まるで自分に言い聞かせるように――


「そのために、私は君たちを真っ向から討ち滅ぼそう。そのためだけに、私は臆病な自分をかなぐり捨てよう。

 ……来たまえ、異界の勇者たちよ。

 ―――我が宮殿にて、待つ」


 闇に溶けるようにして、《呪王》は姿を消した。

 これとほぼ時を同じくして、他の戦場でも戦闘が終了した。


 7体のレイドボスがついに全滅。

 結界の要が失われ、ダ・アルマゲドンの中心に鎮座する《カース・パレス》が解放される。


 呪転した竜母ナインが目覚め、世界が滅亡するまで―――残り24時間。


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