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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第184話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:第二次結界攻略戦・捜索


 久しぶりに自分で馬に跨がり、わたしはダ・アルマゲドンを駆ける。

 周囲を固めるクランの騎士(みんな)は、いわゆる近衛に当たる数人のみ。

《巨人》クラスの火紹くんは機動性に欠けるから、イザカラのテリトリーに残してきた。


 ケージ君の居場所を探すのに回せた人員は、全体の4分の1程度。

 彼らはいずれも《聖ミミ騎士団》の古参メンバーで、プリンセス・ランドができる前からわたしの取り巻きだった。


 見た目を自由に決められるうえ、身の危険もないVRは『王国』を作るのに最適な環境だ。

 中学で痛い目に遭ったくせに、わたしは性懲りもなく自分にばかり都合のいい王国を作り直したのだ。


 そのことを、古参の騎士たち(みんな)はわかっている。

 わたしがみんなに何かを与えることはない。そのフリをしているだけで、実際にはみんなのほうが、一方的に貢いでいるだけなのだと。


 これは、一種の共犯関係だった。

 わたしはみんなにわざと片思いをさせる。

 みんなはわたしにわざと片思いをする。

 片思いというエンターテインメントをインスタントに供給する、アイドルとファンのそれにも似た共犯関係だ。


 だから彼らは、許してくれるんだろうか。

 お姫様としてではなく、人間としてのわたしが、自分たちと同じように、報われない片思いに焦がれることを。

 一人の仲間として――受け入れてくれるんだろうか。


「……っ、…………」


 ありがとう、と呟こうとして、すぐに言葉を呑み込んだ。

 わたしの役目は終わってない。

 わたしはまだ彼らの主だ。

 だから代わりに、鋭く指示を飛ばす。


「定時報告開始!」


 騎士たちがわたしの両脇を守るように陣形を変える。馬足は少しも鈍らない。

 通話機能を使うことによるヘイトの上昇に備えたのだ。


「奏上します! 1班、確認できず!」

「2班、確認できず!」

「3班、確認できず! 引き続き捜索を続行します!」


 ケージ君が連れ去られて、もう何分が経ったのか。

 見つけるのは不可能じゃないはずだった。

 ケージ君がいる場所には、彼を交戦状態にしてログアウト不能にするためのモンスターがいる。

 そしてそれは、ケージ君の索敵範囲――半径約20メートルよりも広い反応範囲を持つアクティブモンスターだ。


 これだけの条件があれば、種類はかなり限られる。

 ダ・アルマゲドン中にいるスケルトンやガーゴイルの類では絶対にない。

 高めの知性を持つ中型以上のモンスターや、そこらをランダムに闊歩する中ボス級――《神造兵器》だろう。


 特に神造兵器が怪しい、というのがわたしたちの見解だった。

 神造兵器たちは、おそらく《呪王》によるものと思われるヘイト設定改竄の影響を受けていない。

 建材アイテムに突撃していくこともないし、外部ツールを使ってもヘイトが上がることはない。


 だからこそ、ケージ君を縛る鎖とするのに最適なのだ。

 ケージ君のログアウト、および戦線復帰を防ぐためには、彼にターゲットし続けておく必要がある。

 不意のヘイト上昇によって余所に気を取られる可能性があるようでは、その役を果たすことができないのだ。


 神造兵器はどれもこれも山のような巨体だ。

 それも一歩も動かずじっとしている個体ともなれば、いくらダ・アルマゲドンが広いって言っても見つけられないはずはない。

 なのに……。


「どこに隠れてるの……?」


 わたしはダ・アルマゲドンのマップを表示して眉根を寄せる。

 草原、荒野、森林、湿地、湖沼、山岳……バラエティに富んだ地形が、砕けたガラス片のようにあちこちに散らばっている。


 草原や荒野のような平坦な地形では神造兵器の巨体は隠せないと見て、捜索範囲からは外していた。

 一番重点的に探しているのが山岳地帯……次点で森林だ。

 特に戦略十二剣将の1体《エテックス》がテリトリーにしていた森は樹木の背が高くて、巨体を隠すのに適っている。

 けれど未だに発見には至っていない……。


「――姫。意見具申をお許し願いたく存じます」


 隣を走る近衛騎士の一人が畏まって言った。わたしはマップを見たまま答える。


「ん。いいよ。教えて?」


「具申致します。山岳地帯に振り分けている捜索隊を半数ほど、湿地や湖沼地帯に振り分けるべきではないかと」


「湿地や湖沼……? なんで? 隠れるとこないよ? 湖に沈むって手もあるけど、神造兵器が潜めるほどおっきな湖ってどこにもないし……」


「ここから先は推測が入り交じります」


 そう置いて、彼は真面目な声で続ける。


「これほど探しても見つからないということは、おそらくは《呪王》が我々の捜索方針をあらかじめ想定し、その裏をかいているものと思われます。神造兵器ほどの巨体は到底隠れられそうもない――そう思える場所にあえて、何らかの仕掛けでもって隠している可能性が高くなっているものと存じます」


「ふむーん……。それもあるかも。でも、『何らかの仕掛け』って?」


「神造兵器は、いずれも何らかの自然物の集合体です。最初の《フェンコール》は石炭の塊でした。他に確認されている個体も、樹木や土――自然物を素材として作られた、一種のゴーレムのような姿をしています。

 だとすると、もし――()()()()()()()()()()()がいたとしたら」


 わたしはハッとして隣を走る彼を見た。

 彼は畏まって頭を下げる。まるで顔を隠すように。

 ……遠慮しなくていいのに。邪魔じゃないよ、全然。


「顔、上げて。――それ採用!」


 彼が顔を上げた瞬間、とびっきりのご褒美スマイルを作って言う。

 すると、彼は少し挙動不審な仕草で再び頭を下げた。


「2班と3班に連絡ね! それぞれ湿地と湖沼に向かうこと! もしそれで見つかったら、キミには、そうだなあ――よし、大盤振る舞いで『1日スクショ権』を上げちゃう!」


「えええーっ!?」

「うっ、羨ましい……!!」

「ミミ様を自由に撮って保存してもいいなんて……!!」


「ケージ君を見つけられたら、他の庶民(みんな)ももらえちゃうかもね? 頑張って探そぉーっ!」


 おおっ!! と、いや増して響く声に耳を傾けて、わたしは誰にも見えないように口元を緩ませる。


 ああ――わたし、愛されてるなあ。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 湿った地面をどかどかと馬蹄が蹴りつける。

 見つけたのだ。

 湖沼地帯に差し向けた一隊が、湖の水に擬態していた神造兵器を発見した。

 ケージ君は必ずその近くにいる。

 わたしたちも全速力で現地に急行していた。


「神造兵器を倒せばケージ君はログアウトできる……だけど……!」


「時間がありません、姫! 残してきた戦力でイザカラを相手取れるのは、せいぜいあと5分程度です!」


 こっちの戦力も少ない。

 ケージ君は一人きりで何体もの神造兵器を狩っていたらしいけど、わたしたちの得意分野は集団戦だ。

 MAO……いいや、VRゲーム界最強のPvEプレイヤーの真似事なんて、逆立ちしたってできはしない。

 だとしたら、選択肢はひとつだけだ。


「ケージ君を探すよ! 周囲に人を閉じ込められるような建物は!?」


「ひとつだけ!」

「古い塔があります!」

「例の配信が行われると予想されている場所のひとつです!」


「…………!!」


 メイアちゃんの配信予定地……!

 一昨日、昨日と続いて行われたメイアちゃんの配信が、いずれもダ・アルマゲドンに散在する古塔をロケ地としていたことから、3回目に備えてそのすべてをマークしてあったのだ。

 そこに、ケージ君が捕まっているかもしれない。

 これは偶然? ……いや。


「確か、チェリーちゃんが言ってた……。あの古い塔は上半分(・・・)だって。下半分が地下に埋まっているんだって……」


「…………!!」

「地下……!!」


 もしチェリーちゃんの予想通り、地下に巨大な構造物が埋まっているんだとしたら……。


「――行くよ、みんな! ケージ君はそこにいる!」


 わたしは手綱を引く。

 いくつもの馬蹄の音が背中を追いかけてくる。


 彼らの忠誠に、愛情に、応える義務が、わたしにはあった。

 それが、みんなへの埋め合わせ。


 彼らの大好きなお姫様が、他の誰かに傷付けられる姿を見せてしまうことの、埋め合わせだった。


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