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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い
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第179話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:補給基地建造作戦・防衛


 黒光りする4棟の金属塔。

 猛然と高さを伸ばしていく補給基地――《トラップ・キャッスル》を中心に配置された《タンク・タワー》に、無数のモンスターが攻め寄せる。


 防壁は二重。

 比較的背の低い外側の第一防壁に取り付いたモンスターたちは、雨あられと降る矢と魔法によって、紫色の死亡エフェクトに包まれていった。


「パッと見、いけそうに見えるな」


 怒声が行き交っているだろう戦場を、遠く離れた高台の野原から眺めながら、俺は言った。


「急造なのに堅牢な防壁です。さすがは《ネオ・ランド・クラフターズ》というところですか」


 そう言って、隣のチェリーがコップに注いだ紅茶に口を付ける。


「う~ん。生産系クランっていうより兵站系クランって名乗ったほうがいいんじゃねえの、あいつら」


「そもそも兵站って言葉がかなりの人に通じませんからねえ」


「ああ、それなー」


 ぽりぽりと茶菓子を囓りながら、火花のように散る命の灯火を見やった。


「でも、あいつらでさえ、昨日は《呪王》の襲撃に手も足も出なかったんだよなあ」


「突然のお願いでしたし。それに、昨日と今とでは状況が全然違いますよ。昨日は――」


 チェリーが何か言いかけたとき、戦場となった焼け野原に向かって、いくつもの影が飛ぶのが見えた。


「……んん? あれって……」


「うわ。ガーゴイルですね」


 チェリーはカメムシ見つけたくらいの軽い調子で言ったが、これはなかなか厳しい事態なんじゃないか?

 ガーゴイルは翼を持つ悪魔。鳥のように空を飛ぶ。

 つまり、航空戦力である。

 地上に築いた城壁なんて何の意味もない。


 馬防柵も城壁も何もかも無視してタンク・タワーに向かおうとするガーゴイル編隊に対し、プレイヤー側も黙っていない。

 魔法による対空攻撃はもちろんだが、それに混じって無数の石礫が飛んだ。


 投石器である。


 城壁の上や、基地建設現場の周囲に並んだ投石器から、矢継ぎ早に大量の石が投げ放たれて、原始的な弾幕を展開するのだ。

 それに顔面や翼を撃ち抜かれて、ガーゴイルは1匹、また1匹と墜落していく。


「あれ、対空攻撃としては魔法よりもいいかもな。弾はその辺の石ころでいいから経済的だし、魔法は基本的に直進しかしねえから、三次元移動する奴には結構避けられちまうし」


「いざとなったらどこかの誰かさんを戦場の真ん中に投げ込んで無双してもらうこともできますしね」


「……おい。非人道的な兵器の運用には異議を唱えるぞ」


「え~? 見たいな~? 流星の先輩」


「二つ名をつけてもダメ! お前、俺のことを上目遣いでおねだりすれば何でもやってくれるチョロい奴だと思ってねえ?」


「え? 違ったんですか? びっくり。じゃあもうやりません」


「……………………」


「……ふふふ。なんですか? その残念そうな目は? まあ? まったく響いてないと言われるよりは? 私としても嬉しいですけどね? でも上目遣いくらいで喜んでるようじゃ、いつか足元を掬われちゃいますよ? ああもう仕方ないですねえ。先輩の経験値を上げるために、もうちょっと練習させてあげましょう! じぃ~~~」


「う・ざ・い!」


「んきゃあっ!? いたっ! いたたーっ!」


 チェリーの頭を捕まえてこめかみをぐりぐりやっている間に、戦局が動いていた。

 数体のガーゴイルが固まって戦場上空に現れたかと思うと、何かを地上に投げ落としたのだ。


 それは、遠目にもわかるほどの巨躯だった。

 小山のような筋肉の盛り上がりがここからでもわかる。

 ミノタウロス……か?

 明らかに中ボス級のモンスターが、戦場の真ん中に投げ入れられたのだ。


「うわっ。向こうがやってきましたよ、先輩。先越されちゃいましたね」


「いや、俺はやらねえから!」


 冗談のように言っているが、あれはいわゆる空挺降下だ。

 剣だの弓だの言っている世界では充分なチート戦術だろう。

 ここのモンスター、あんなこともやってくんのか……。

 元は魔神軍の兵だったから、多少の戦術的行動なら個々の判断で実行可能だってことか。


 いきなり最前線に投入されたミノタウロスは、森ごと撫で切りにできそうな巨大な斧を振り回しながら、タンク・タワーの第一防壁に突進した。


 遠く離れているはずなのに、震動がここまで伝わってきそうだ。

 4~5度の攻撃で防壁にあっさりヒビが入る。


「うわっ。マジかよ」


「まだ20分かそこらですよ?」


 ランドが予告した補給基地建造時間は約1時間。

 その3分の1の時点で――4棟のタンク・タワーのうち1棟の第一防壁が突破された。


 勢いのまま、巨大なミノタウロスが第一防壁の内側に侵入する。

 このまま第二防壁もぶっ壊す気か――と思ったそのときだ。


 ばびょ~ん、と気の抜ける音がした。


「は?」

「え?」


 巨体が、空高くを舞っている。

 数瞬して、俺は起こったことを理解した。

 トラップだ。

 バネのトラップが、ミノタウロスの巨体を大きく上空にぶん投げたのだ。


 鋭い放物線を描いて、ミノタウロスは第一防壁内の別の場所に落ちていく。

 落下の衝撃で倒せるか?

 いや、そんなヤワな耐久力じゃないだろう。

 だとしたら、結局一時凌ぎでしか――


 ――ズボッ。

 と。

 着地の瞬間、ミノタウロスの姿が消えた。

 代わりにその地面には、丸い穴が空いていた。


「お――」

「――落とし穴!」


 ホールインワンだった。

 ミノタウロスの消えた穴の中からは、湯気のような白い煙がものすごい勢いで立ち上る。

 そして数秒して、ポッ、と紫の輝きが瞬いた。

 死亡エフェクトだ。


「え? どうなってんのあの中。こわっ」


「硫酸でも溜まってるんですかね……。硫酸の溜まった落とし穴なんですかね」


 こわっ。このゲームいつから影牢になったの?


 第一防壁と第二防壁の間には、ああいったトラップがいくつも設置されているようだった。

 オークやスケルトンがお手玉のようにぽんぽん上空を舞い、各所の落とし穴に吸い込まれていく。

 見てる限りじゃ面白いけど、やられるほうはたまったもんじゃねえな。


 だが、モンスターは恐れない。

 仲間がどれだけ謎の穴の中で死に絶えようと、続々と防壁の中に突っ込んでいく。

 やがてトラップもあまり機能しなくなり、第二防壁での防衛戦が本格化した。


「……怪しくなってきましたね」


「地上の雑魚だけなら何とか保っただろうけど、ああも中ボス級を放り込まれちゃあな……」


 有翼モンスターによる空挺降下は続いていた。

 10体にも達しようとする大型モンスターの猛攻により、すでに4棟のうち3棟の第一防壁が突破されている。


 時間はまだ30分。

 補給基地はようやく2階部分の骨組みが終わったところだ。

 設計図では確か4階建てだったはず。

 完成するまでタンク・タワーは保つのか……!?


「もしタワーがひとつやられたら、そこが請け負っていたモンスターが他のタワーに合流してしまいます……。崩れるときは一瞬ですよ」


「……俺たちも行くか?」


「二人で行ってどうにかなる規模じゃないでしょう。《魔剣再演》もまだクールタイムでしょう?」


「そうだよなあ」


 1匹のボスモンスターが大暴れしてるってならまだやりようもあるが、今度の敵は数百匹の軍勢だ。

 俺が変に首を突っ込んでも、味方を混乱させてしまうだけな気がする。


「信じて見守りましょう。……あ、ほっぺにビスケットの欠片がくっついてますよ」


「え? マジ?」


「逆です、逆。……ちょっと動かないでください」


 顔を捕まえられたかと思うと、チェリーの顔がぐぐっと近付いた。

 えっ? いや、ちょっ、おまっ――!

 全身がビキリと固まったその瞬間、左頬にちょんと指が触れて、チェリーの顔が離れた。


「はい、取れました」


 にっこりと笑って、チェリーは指に摘まんだビスケットの欠片を見せてくる。

 まだ固まったままの俺を見て、その笑みがにまっと勝ち誇るようなものに変わった。


「おっやぁ? もしかして、舐め取ってもらえると思いました?」


「…………あ、アホぬかせ」


「ふう~ん?」


 チェリーは俺の頬から取ったビスケットの欠片を、ちろっと小さく舌を出して舐め取る。


 ……こ、こいつ……!

 いろんな意味で舐めくさりやがって……!


 チェリーはくすくす小さく肩を揺らした。


「次は今みたいにしてあげますね?」


「いらん!」


 などとアホなことをやっているときだった。

 ――ズズウン……!!

 と、俺たちのところにまで震動がやってきた。


「えっ?」

「あっ!?」


 戦場に目を戻すと、タンク・タワーのひとつが粉塵に包まれている。

 ……いや……?

 違う。

 粉塵の中に塔の影がない。

 倒された!?


「おい! お前がアホなことでからかってくるから1棟やられちまったじゃねえか!」


「いやいや、私は関係ありませんから!」


 タンク・タワー、残り3棟。

 戦局が大きく動く。

 倒されたタワーを攻撃していたモンスターたちが、雪崩を打つようにして別のタワーに移動したのだ。


「……いま何分だ?」


「40分です……」


 基地は2階部分が完成し、3階部分に入った状態。

 これは……間に合わないぞ……?


 たとえ焼け石に水でも助太刀に入るべきか、と腰を浮かせたときだった。

 ホラ貝の野太い音色が響き渡る。


「……なんだ? もしかして撤退の合図か?」


「いえ。基地を見てください!」


 未だ半分程度しか完成していない補給基地。

 その入口から、のっそりと大きな影が次々と顔を出した。


 陽光をきらりと反射する、真っ黒な人型。

 高さはプレイヤーの倍くらいある。

 ずんぐりむっくりな丸っこいフォルムで、首と頭が見当たらなかった。


「うおっ……《ゴーレム》か!?」


 黒光りするゴーレムが、何体も戦場に送り出される。

 すると、不思議なことが起こった。

 特に何かスキルを発動した様子もないのに、磁石に引き寄せられるようにして、ゴーレムにモンスターが群がったのだ。


「そうか……。あのゴーレム、タンク・タワーと同じ素材で作ってあるんですよ!」


「……マジで? あれもデコイになんの?」


「ええ。しかも自己防衛能力を持つデコイに」


 大人二人分もあるゴーレムは、群がるモンスターを千切っては投げ千切っては投げる。

 その様は、まるで相撲取りが子供相手に戯れているようでもあったが、無数のモンスターの鬼気迫る攻撃は、子供の張り手とはわけが違う。

 徐々にダメージが蓄積し、亀裂がひとつふたつと増えていった。


 しかし、デコイの役目は果たしている。

 ゴーレムたちが注意を惹きつけている間に、残る3棟のタワーが体勢を立て直していた。

 死に戻りから復活したプレイヤーが合流し、トラップを再設置し、防壁の損傷を修復する。

 すべてのゴーレムが崩れ去る頃には、完全回復と言っても遜色ないほどの状態になっていた。


「なるほどな……。この繰り返しか」


「基本は防壁とトラップでタワーを守り、1棟やられたタイミングでデコイゴーレムを出して体勢を立て直す……。手慣れてますね。勉強になります」


「こりゃやっぱり、俺たちは手出ししねえほうがいいな」


 それから20分で、2棟目のタワーがやられ、3棟目のタワーがやられた。

 だがその間に、補給基地が見る見る高さを伸ばす。

 ついに4階――最上階の完成が見えてきた。


 だが、残るタワーはひとつ。

 モンスターの戦力のすべてが集中し、防衛戦はもはや成立していない。


 ひとつ、光明と言えるのは、モンスターのほうも後続が途切れていることだ。

 品切れである。

 ここらに設定されたモンスターのポップ数の限界が来たのだ。

 この攻撃を凌ぎきれば、こっちの勝ちだが――


「あっ!」


「やられた……!!」


 最後のタンク・タワーがぐらりと傾いだ。

 金属の塊が重々しく横倒しになり、大量の粉塵が空に舞い上がる。


 それと同時、基地がほとんど完成に至った。

 だが、モンスターたちもヘイトのくびきから解き放たれる。

 一気呵成に、完成したばかりの基地に押し寄せていく……!


 各タワーに防衛戦力を割り振った分、基地のほうは無防備のはずだ。

 せっかく完成したのに、全部ぱあになっちまうのか……!?


 無数のモンスターが容赦なく基地の中に飛び込んでいった。

 俺は絶望的な気分になったが――その瞬間だ。


 ボンッ! と。

 基地の中から、紫色の輝きが迸った。


「……え……」


「……まさか……?」


 何十秒待っても、基地が崩れ去ることはなかった。

 散発的に、紫色の輝きが瞬くだけ。

 しばらくすると、戦場は水を打ったように静かになった。


 事ここに至っては、俺も理解するしかない。

 あの紫色の輝きの正体を。


 あれは――モンスターの死亡エフェクトだ。


 完成した《トラップ・キャッスル》は、それ自体の防衛力によって、三桁に上るモンスターを全滅させてみせたのだ――


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