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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第177話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:補給基地建造作戦・整地


 ピクニックの時間だった。

 建設部隊から離れた俺とチェリーは、高台にある野原にやってくる。

 馬から降りてぐるりと見渡せば、補給基地の建設予定地となった森がちょうど見下ろせる位置にあった。

 それを確認すると、俺はチェリーに持たされたシートを草の上に広げる。


「はあー。有能な部下を持つと楽ができていいですねー」


 チェリーはシートの上にぺたんと女の子座りをし、早速お茶の用意をし始めた。

 一応、不測の事態のために総司令官としてついてきてはいるが、特に何も起こらない場合、チェリーにはやることがない。

 だから、作戦地域を見渡せる場所に陣を敷いてお茶でも飲んでいれば仕事をしていることになる、非常にいい身分なのだ。


「普通に考えたら、現場総監督のランドと同じ天幕にいたほうがよさげだけどなぁ」


 俺はチェリーの隣にあぐらをかきながら言う。


「仕方ないじゃないですか。巻き込まれるから建設予定地には近付かないほうがいいって言われちゃったんですから」


 と答えながら、チェリーはコップに紅茶を入れて差し出してきた。

 礼を言って、湯気の立つそれを口に運ぶ。

 はー、甘くてうまい。


「これから死闘が始まろうっていうのに、ただのどかにピクニックしてればいいってのも、なんか落ち着かねえんだけどな」


「胸を張ってくださいよ。先輩の仕事は、私の隣にいることなんですからね?」


「護衛だから仕方なくな」


「へえ? 仕方なく?」


「仕方なく」


「へえー?」


 意味深に繰り返しながら、チェリーはシートに突いた俺の手の指をつんつんつついてくる。

 俺たち以外にここにいるのは、乗ってきた二頭の馬くらいだ。

 久しぶりに周りの目がない場所に来て、のびのびとした気分になってるのかもな。

 ……夜にはまた、難しい戦いの指揮を執ることになるのだ。

 今くらいは、こいつの羽根伸ばしに付き合ってやるとするか。


「せーんぱい?」


「どうした。呼び方があざといぞ」


「先輩が萌えるかなと思って」


「萌えるって。死語だからな、それ」


「いやあ、実はレナさんから、重大な情報を入手してしまいまして」


「……もう情報源の時点で嫌な予感がするけど、何のことだ?」


「先輩の初恋の話です。なんでもギャルゲーの後輩キャラ――」


「さらば!!」


「ダッメでーす♪ 私の傍にいるのが先輩の仕事ですよ?」


 おのれ! 図られたか!

 チェリーはによによと笑いながら俺の顔を覗き込む。


「ちょっと調べてみたんですけどー、そのキャラって、年下なのに世話焼きな性格なんですよねー? ……ふふふ。そういう女の子が好きなんですね、先輩は」


「言っとくけど、お前とは全然似てねえからな! 年下ではあるけど、世話焼き要素ゼロだからな! むしろ世話を焼かされてるからな!!」


「誰も私に似てるなんて言ってないですよー?」


「ぅぐ……!」


 言葉に詰まった俺にますます気を良くして、チェリーはシートの上をにじり寄ってきた。

 桜色の髪の先で俺の首筋をくすぐりながら、耳元に唇を寄せてくる。


「(お世話、焼いてあげましょうか? そしたら完璧ですよね?)」


「い……いらん」


「えー? ほんとにぃ? ……それじゃあ」


 チェリーは誘うように正座をしてみせると、自分の膝をぽんと軽く叩いた。

 チェリーの下半身装備は桜色のプリーツスカートに白いニーソックス。

 その合間に覗く太股、いわゆる絶対領域に、意識もしていないのに(していないのに!)目が吸い寄せられる。


「あれあれ? 先輩、なんだか物欲しそうな顔をしてますね? 私は正座しただけなんですけど、おかしいな~? 先輩は何をしてほしいのかな~?」


「ぐぬ、ぐぬぬぬ……!」


「言ってくれないとわかんないな~? 言ってくれたらしてあげるかもしれないのにな~?」


 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言う。

 それと似たようなもんで、もしかすると、この機を逃せば一生後悔するかもしれない。そうならないという自信が俺にあるか?

 でも、ここで『膝枕して』と懇願するのはとても負けた気分になる!


「あと5秒したら正座やめちゃおっかな~」


 チェリーが聞こえよがしに言って、「ご~お。よ~ん」とカウントを始めた。

 こいつ! 駆け引きの何たるかを知っている!


「さ~ん。に~い。――ほら先輩、5秒経っちゃいますよ? い~~~~~~~~~~~~~~~~~ち――――」


 打開策は浮かばなかった。

 こうなったら奇襲策しかない! ええい、ままよ!

 と、俺が先手必勝でチェリーの膝に倒れ込もうとしたそのとき――


 ――ぼおぉぉおおおおぉおうん――


 という、ホラ貝の低い音が辺りに木霊した。


「あ。始まりますね」


 そう言って、チェリーはあっさりと正座を崩す。

 そこに頭を突っ込ませようとしていた俺は、ビシリと身体を硬直させた。

 チェリーは薄い笑みを口元に刻む。


「どうしました、先輩? 何かやりたいことでもありました?」


「……いや」


 さすがに、同じ軍の仲間が死力を尽くして戦うのを、年下の女に膝枕してもらいながら眺めるのは、あまりにも大富豪の戯れすぎた。

 ……ん? ということは……?


「……お前さあ」


「はい?」


「もしかして、作戦開始の時間、計算に入れてた?」


「さあ? どうでしょうね?」


 チェリーは桜色の唇を三日月に歪めると、首を傾げて上目遣いに俺を見る。

 ……こういうところじゃ一生勝てる気がしねえ。

 バレンタインもこんな感じだったし。

 そういえば、ホワイトデーのお返し、どうするかなあ……。


「それよりも、のどかなピクニックを楽しみましょうよ、先輩。六衣さんにお弁当も用意してもらったんですよ。『この悪魔!』って罵られましたけど」


「は? なんで?」


「なんででしょうね~? 先輩、あとで謝っておいてくださいよ。私もそのくらいは許します」


 なんで俺が謝らないといけないのかわからんし、なんでこいつが上から目線なのかもわからん。

 っていうか、罵りながらも弁当は用意したのか。六衣……不憫な奴……。

 まあ、用意してくれたものはありがたくいただこう。謝るかどうかはともかくとして、その感想くらいは言っておくべきかもしれない。


 チェリーがストレージからバスケットを出して、シートの上に置く。

 これから戦争が始まるはずなのに、俺たちのいる空間だけは、本当にのどかなものだった。


 穏やかな風に木々がさざめき、小鳥の声が爽やかに囀り――


 ――眼下の森から煙が立ち上り、見る見るうちに赤い炎が燃え広がる。


「……………………」

「……………………」


 のどかなピクニックってなんだっけ。

 地獄絵図の別名?




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 俺たちが高台の野原で呆然としている間に、森がひとつ消えた。

 後に残ったのは焼け野原。

 雑草の一本も生えていない不毛の地だった。


「……なに今の」


「……予定では『整地』だったと思いますけど」


 整地?

 それって、建物を建てやすくするために地面を平らに均したりするあれ?


「いや、普通、木が邪魔なら斧で切るだろ……。なんで燃やしたの……」


「そのほうが早いから、ですかね……?」


 絶対嘘だ。

 そんな常識的な理由の放火じゃねえぞ、今の。

 火の回り方が速すぎたもん。

 誰かが森を駆け回りながら炎をばら撒いたような燃え方だったもん。

 山火事になりかけたのを、他の面子がうまく食い止めたようだが……。

 あのクラン、いるぞ。

 理屈の通じない蛮族がいる……!


 焼け野原の真ん中には、ぽつりと小高い岩山が残っていた。

 その麓には深そうな洞窟が空いている。

 その奥からぞろぞろとモンスターが湧いてきた。


「うわっ。巣があったのか!」


「《穴蔵オーク》……ですかね? ボスが洞窟の中に引きこもると厄介ですよ……」


 焼け野原に出てきた穴蔵オークは、ざっと見て20程度。

 おそらく洞窟の中にはその何倍もの穴蔵オークが潜んでいるだろう。


 湧いてきたオークたちに対抗するように、《ネオ・ランド・クラフターズ》と《聖ミミ騎士団》のプレイヤーたちが打って出る。

 剣や盾、あるいは杖を持った人間たちと、異形の怪物の群れが、焼け野原の中央で正面から激突した。


「……ちょっと数が足りねえんじゃねえか?」


「そうですね……。あの戦力だと、オークを全部掃討するのに結構かかっちゃいそうですけど」


 ダ・アルマゲドンのモンスターレベルは平均して110を超える。

 たかがオーク、たかが20匹でも、その脅威は折り紙付きだ。

 護衛として《聖ミミ騎士団》がついているとはいえ、生産系クランである《ネオ・ランド・クラフターズ》で、どうやってあのオークの巣を制圧するつもりだ……?


 あるいは出番があるかもしれないと、俺たちが身構えたときだった。

 オークとぶつかった部隊の後方から、何人かのプレイヤーが戦場を大回りし、オークの巣がある岩山に向かった。


「たったあれだけで巣に殴り込む気か……!?」


「いや、無茶ですよ! 洞窟に引きこもった穴蔵オークは手強いですよ!」


 穴蔵オークの巣は、狭い、暗い、複雑怪奇の三重苦で、とても万全に戦える場所じゃない。

 何せ、蟻の巣みたいな洞窟のそこかしこから、オークがひたすら奇襲を繰り返してくるのだ。

 風来のシレンで言うと、敵が全部エーテルデビル(目に見えない特殊能力を持つ敵)みたいな感じ。


 本当に目に見えないならまだよかった。

 いきなり『ブフォッ』という鳴き声が耳元で聞こえたと思いきや、目の前にオーク特有の豚面があったときの恐怖と来たら。

 強さとか抜きにして、普通にビビる。

『ひえっ』ってなる。単純に。

 それもあって、俺やチェリーでも、穴蔵オークの巣にたった二人で殴り込むようなことはしないのだ。


 だっていうのに、部隊から離れた数人のプレイヤーは、何の躊躇いもなく洞窟の中に入っていった。

 あーあ。

 袋叩きだわ、ありゃ。

 ご愁傷様。

 俺は心の中で手を合わせた。


「…………あれ?」


 しばらくして――2分くらい経った頃か。

 穴蔵オークの洞窟から、さっきの数人が飛び出してきた。

 やっぱり無理だと悟って逃げ帰ってきたか。

 そう考えた俺の甘さは、次の瞬間、文字通り木っ端微塵になった。



 ――――ズッ、ゥンン……!!!



 地面が揺れる。

 周りの木々から、鳥たちが驚いて飛び立った。

 対して俺とチェリーは、腰を浮かすことすらできはしない。

 視線の先で起こっている現象に、目を釘付けにされているからだ。


 まるでビルの解体だった。

 小高い岩山に無数の亀裂が走ったかと思うと、見る見るうちに瓦解し、すべてが灰色の粉塵に包まれたのだ。


 粉塵がもうもうと立ち上るのを見て、俺はようやくさっきの揺れの正体を悟る。


「「ば……爆破したぁああっ!?」」


 チェリーと声が揃った。

 そう、今のは爆破だ。

 さっき洞窟の中に入っていった連中。あいつらがオークの巣の中に爆弾を仕掛け、そして起動した!

 岩山は土台を失って崩れ落ち……あわれオークの巣は、最奥に陣取っていたであろうボスごと瓦礫の下。


「ひ……ひどい……」


 思わずそう呟く俺。

 ダンジョンに対する冒涜じゃん……。


 オークの巣への侵入組が、猛然と広がる粉塵から逃げながら、ぴゅうっと鏑矢(かぶらや)を空に放った。

 間を置いて2本。

 何かの合図だろう。フレンド通話が使えない以上、ああして原始的な方法を使うしかない。


「間を置いて2本の鏑矢……確か『整地完了』の合図だったと思います」


「俺の知ってる整地と違う……」


 シャベルを持ってひたすら土を掘りまくる地味な作業じゃなかったっけかなあ、整地って……。


 しかし事実として、森が消え、岩山が消え、そしてオークも消えた。

 基地建設の障害となる要素が、これで綺麗さっぱり除けられたことになる。

 ついさっきまで鬱蒼と茂る森だった場所を眺めていると、俺の脳裏に使い古された言い回しが過ぎった。


 ――破壊と創造は表裏一体。


 かくして『破壊』が終わりを告げた。

 これより『創造』が幕を開ける。


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