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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第176話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:補給基地建造作戦・行軍


 補給基地の建設予定地は四箇所だ。

 俺はそのうちのひとつに、馬に乗って向かっていた。

 隣には同じく馬に乗ったチェリー。普段は節約も兼ねて二人乗りしたりもするが、さすがに総司令官が2ケツというのは格好がつかない。


 基地建設部隊は四つに分かれ、それぞれの任地を目指し行軍している。

 その中でもこの部隊は、現場総監督であるランドと護衛責任者であるUO姫が帯同していた。

 建設作戦の実質的な指揮はこの二人が執るので(と言ってもUO姫は基本的に部下に丸投げだが)、連携を密にするために固まっているのだ。

 不測の事態が起こったときに、ただの意思統一でいちいち伝令を走らせてちゃ後手後手に回っちまうからな。


 総司令官であるチェリーまでついてきているのは、ランドとUO姫が指揮の方針を統一できなかったとき用の裁定役である。

 そして、俺はチェリー個人の護衛だ。

 だから今回は、はっきり言って見学みたいなもんだった。


「結構山の中に建てるんだな」


 辺りに鬱蒼と生い茂る森林を眺めながら、俺は言う。


「守りやすさとか、各ボステリトリーとの連絡とか、もろもろ考えると高いところに建てちゃったほうがいいんです。狼煙通信や腕木通信の中継場所も兼ねますし」


「うん? うでき?」


「えーとですね……はい、これです」


 そう言ってチェリーがストレージから取り出したのは、ヤジロベエの腕を真ん中で折り曲げたような形に木の棒を組み合わせたものだった。


「なんだ? その変な人形……」


「これはミニチュアで、もっと大きいのを屋根の上に設置します。で、この折れ曲がった腕でいろんな形を作ってですね、一種の信号にするわけです。それを望遠鏡で見て、情報を受け取ります。大がかりな手旗信号だと思ってください」


「ふうん……? それって狼煙じゃダメなのか?」


「狼煙だと、あらかじめ決めておいた情報を本数や色で送ることしかできません。が、腕木信号だと文章を送ることができるんです。この形はアルファベットのA、この形はB、っていう風に決まっているので。より正確で、しかも高速な情報伝達が可能です。話によれば、このナイン山脈からエムルまで1時間かからないらしいですよ」


「マジ? 早馬とかいらねえじゃん。……でも、そんなもん、俺読めねえけど」


「大半の人はそうですよ。だから私も採用するつもりはなかったんです。ですが昨夜、私たちがメイアちゃんの配信で大騒ぎしていた頃に、《ネオ・ランド・クラフターズ》の方が通信士の都合をつけちゃったんですよ。……ほんとネットって、変な知識持ってる人がどこからともなく湧いてきますよね……」


 いつの時代の技術か知らんが、オタクってやつはありとあらゆる分野に存在するのだ。

 そしてネトゲってやつは、なぜだかそういう連中を集めてしまう性質がある。


「その変な知識を持ってる連中をピンポイントで、しかもこの短期間でヘッドハントしてくる奴も相当変だけどな……」


「《ネオ・ランド・クラフターズ》で商人をしている方です。人脈がすごく広くて、噂ではフレンドが5アカウント分いるとか……」


 5アカウント分ってなんだよ。

 そんな単位初めて聞いたわ。


「……《ネオ・ランド・クラフターズ》か……」


 実は彼らとは今回が初めての接触ってわけでもない。

 彼らの前身は《ランド・クラフターズ》という、たった10人の小規模クランだ。

 活動開始は確かバージョン2だったと思う。

 全プレイヤーが3つの勢力に別れ、日常的に戦争を繰り返す中で、彼らは基地建設のエキスパートとして台頭した。

 俺たちはオープンベータからの古株として、3勢力のうちのひとつ、《聖旗教団》の将軍みたいなものをやっていたので、彼らに基地の建設や要地確保を依頼したことがあるのだ。


 その頃から、《ランド・クラフターズ》は異彩を放つクランだった。

 何せ建築と生産がメインのクランなのに、聞こえてくる噂がどれも物騒なのだ。

 数百匹のモンスターをテイムしてMAOの征服を狙っている男がいるとか。

 めぼしいモンスターを殺してはその死体との自撮りをインスタグラムにアップしている女がいるとか。

 たったひとつの火種で半径数十キロに渡る密林を焦土に変えた奴がいるとか――


 噂に尾ヒレがついていることは間違いないが、そのせいで当時の彼らは《MAO最凶の生産クラン》なんて呼ばれていた。

 そうしてまことしやかな畏怖を集めながらも、今から1年くらい前に、人知れず解散したのである。


 解散の理由は知らないが、たぶんメンバーの誰かが引退したんだろう。

 少人数のクランは、誰かが引退すると芋づる式に解散してしまうことが多いからな。

 しかし数ヶ月前、電撃的に復活を果たした後は、解散前以上の勢いで規模を増し、今や人類軍の一翼を担うまでに至っている。


「ランドさん、落ち着いた雰囲気の人でしたねー」


 と、チェリーが部隊の前方を見やりながら言った。


「昔、怖い噂をたくさん聞いたので意外でした。親戚のお兄さんみたいな感じですよね。クセのあるメンバーをまとめられるのもわかる気がします」


「……………………」


 俺は無言で馬を進めながら、隣で手綱を握るチェリーを一瞥する。


「……先輩? どうしたんですか? いきなり黙って」


 チェリーが不思議そうな顔をしてこちらを見たので、俺はすぐに視線を逸らした。


「別に……なんでもない」


「……ふううう~ん?」


 チェリーは何かを察したような目でかすかに笑うと、馬を俺のほうに寄せる。

 なのに前に顔を向けて、わざとらしい独り言を言うのだ。


「やっぱり頼りがいのある大人のほうがいいですよね~。すぐに意固地になったりしないし~、何かにつけゲームで決着つけようとか言い出さないし~」


「ぐっ……」


「高いところでぎゃあぎゃあ騒いだりしないし~、ホラーイベントで腰が引けたりしないし~」


「……ああもうっ! なんだよっ! 言いたいことがあるんならはっきり言えよっ!」


 チェリーはかすかに口角をあげると、首を曲げて俺の目を下から覗き込む。


「いいんですか? はっきり言って」


 大きな目がじっとこちらを見つめた。

 何かを求めるような輝きに吸い込まれそうになり、俺は逃げるように顔を逸らす。


「……好きにしろよ」


「ほんとに~?」


「だからいいって!」


「それじゃあ遠慮なく」


 チェリーがすっと身を乗り出したと思ったその瞬間、耳元で柔らかな声がした。


「(――今の、クランのリーダーにするなら、の話です)」


 ……………………。

 え?

 甘い香りと言葉の残響だけを残して身を離すチェリーを、俺は間抜け面で見る。

 そんな俺を見て、チェリーはくすくすと軽く肩を揺らした。


「あっれ~? 何の話だと思いました? あ、もしかして、こいび――」


「――やかましい! 置いてくぞ!」


 俺は馬足を速め、チェリーを後ろに置いていく。

 背中を追いかけてくる蹄の音に、ふと小さな声が紛れ込んだ。


「(……一緒にいて楽しいのは、すぐに顔を赤くしちゃうような人ですよ?)」


 振り向きたくなかったので、聞こえなかったことにした。


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