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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第169話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:第一次結界攻略戦・看破


「――は!? なんだって!?」


 首尾よく《ヴォルール》を片付けた後に来た連絡に、俺は耳を疑った。


『情報共有システムが潰されました。今、司令部はダ・アルマゲドン入口付近に本陣を敷き、原始的な伝令で各地の情報を集めているところです』


「戦況観測士が軒並みやられたってのはわかる。戦闘中は気付かなかったけど、戦況評価値が軒並み動いてねえからな。でも伝令って! 通話はどうした! 今まさに使ってるだろ!?」


『これは先輩だからですよ』


「はあ?」


『甘い意味じゃありませんからね? 期待しちゃダメですよ?』


「わかってるっつの! そういうのやってる場合じゃねえから!」


『どうやらモンスターのヘイト設定を変えられたみたいです』


「ヘイト設定?」


 通話越しにぺらぺらと紙をめくる音が聞こえる。

 紙?


『戦況評価値の算出に使っていたAIや指示伝達に使っていた連絡アプリ(ディスコード)。そういった外部ツールを使っていると、モンスターのヘイトが無限に上昇するようです。これが戦況観測士がピンポイントで潰された原因ですよ』


「はあ? それを《呪王》がやったってのか!?」


『不自然ではありません。そもそもダ・アルマゲドン内に砦を築けなかった理由を忘れましたか、先輩?』


 ……建材系を筆頭としたアイテムをダ・アルマゲドン内に設置すると、モンスターが猛然と壊しに来る。

 それを利用したのが、補給路・行軍路の構築に使っているデコイ作戦だ。


「……あの仕様も、《呪王》の仕込みだったってことか?」


『私たちに前線拠点を作らせないためでしょう。《呪王》にはモンスターのヘイト設定をある程度改竄できる権限があると見て間違いありません』


 なんてボスだ。前代未聞だぞ、そんなの……!


『細かいヘイト上昇条件は検証中ですが、おそらくフレンド通話やネットブラウザの使用も対象になります。テキストエディタなんかも危険だと見て、今は各地の情報を手作業で整理しているところです』


「手作業……!? ――っていうか、フレンド通話がダメってことは、これは?」


『だから言ったじゃないですか。先輩だから通話を使ってるって』


 ぞわりと、嫌な感覚が背筋を撫でた。

《ヴォルール》が根城にしていた溶岩の湖から、少し離れた場所。

 黒ずんだ岩場の陰から、刺さるような視線がいくつも飛んでくる……!


『通話やツールがまったく使えなくなったってわけじゃありません。寄ってくるモンスターに対抗できるだけの戦闘力があれば話は別ってことですよ』


「アホかぁーっ!!」


 俺は慌てて馬に飛び乗って発進させた。

 スケルトンやら悪魔やらオークやら魔道士やらがあちこちから現れて、俺の後を追いかけてくる!


『こっちは通話するときだけ地上に戻れば安全ですし、短時間なら連絡可能です』


「不可能だよ! 殺す気か!」


『それならそれでデスルーラになるので』


 無慈悲! デスペナルティって知ってるかコイツ!

 俺は後ろに牽制の攻撃魔法を撃ち込みながら、


「それで、次はどうすればいい!?」


『最新の情報によれば《エテックス》は間もなく落ちます。ですが時を同じくして《イザカラ》の戦線が崩壊するはずです』


 UO姫のところか……! あそこが崩れれば《呪王》本人が別の戦場にも現れるようになる!


『先輩は《赤光の夜明け》の皆さんと共に《冥界葬列公デス・ルシリス》のところへ。そこが今日の決戦場です。《魔剣再演》の使用も許可します』


 チェリーは最後に狼煙通信の解読表を送って寄越した。

 現在、ブクマ石を利用した高速伝令網を構築しているところだそうだが、何せ想定外の事態なので、ブクマ石の貯蓄が心許ない。

 そこで出番になるのが原始的な狼煙通信ってわけだ。

 上がった狼煙の数や色、位置によって、どこで何が起こったのかを最速で共有する。

 まるで戦国時代だ。先人の知恵様々といったところだろう。


 解読表にざっと目を通してエディタを閉じると、後ろに群がっていたモンスターが数を減らした。

 どうやら外部ソフトに反応してヘイトが上がるってのはマジらしい。

 気の利いたことをしてくれる。同じ立場で戦えってことか!


「上等だ……!」


 俺は馬を走らせたまま飛び降りると、後ろに迫っていたモンスターたちに、抜き放ちざまの斬撃を見舞った。

 今さら雑魚程度に後れは取らない。

 一息で全滅させると、先に行かせた馬に追いついて手綱を引く。


 まずは巡空まいるたちと合流だ。

 正面対決と行こうじゃねえか!




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 ダ・アルマゲドン入口に大急ぎで構築した本陣は、まるで開幕直前のイベント会場みたいに慌ただしかった。


「これどこにやればいい!?」

「ああん!? そこでいいだろ、そこで!」

「誰かー!! 結界使える奴いないか!? 交代要員が足りない!!」


 先輩との通話を終えた私は、その中を足早に抜けると、ひときわ大きな天幕の中に飛び込んだ。


「お待たせしました! どうですか!?」


「おおよそできてる。好きに使ってくれ」


 答えたのは、後方指揮を《聖ミミ騎士団》と一緒にお願いした《ネオ・ランド・クラフターズ》のリーダー、《ランド》さんだった。

 日に焼けた肌と無精髭が特徴的な、いかにも職人っぽい風貌の男性プレイヤーで、元々は建築職の、いわゆる大工さんだ。

 けれど、有事における後方指揮や前線拠点の構築では、彼に優るプレイヤーはMAOには存在しない。

 何せ、完全な丸腰で誰も知らない無人島に漂着して、生き残るどころか逆に開拓してしまった、なんていう伝説を持っている人である。


「おれは外の防陣を見に行く。……ったく。安全な場所で基地を作ればいいだけだって話だったのに、結局こうなるとはな」


「すみません。でも、最速で狼煙通信を使うためには、どうしても現地に本陣を作る必要があったんです」


 こんなにもあからさまな本陣を築けば、当然ながらモンスターに狙われる。

 けれどそれは、デコイを利用した巧妙な防陣と、隠蔽結界魔法《ステルサイド》の重層展開でカバーしていた。

 そうまでしてでも、狼煙を見逃してしまうかもしれない可能性を最小限にしたかったのだ。


「いいさ。お前たちが好きに戦うための土台を作るのが、おれたち後方の役目だ。これはこれで、やりがいもある」


 にっと口角を上げると、ランドさんは天幕を出ていった。

 うーん、頼れる大人。

 先輩も普段からあのくらい頼りがいを見せてくれたらなー。

 でもまあ、てんで頼りない普段の先輩も、それはそれで結構かわい――いやいや、そうじゃなくて。


 私は思考を切り替えて、天幕の中心に置かれたテーブルに駆け寄った。

 テーブルには紙に描き出された簡易的な地図が広げられている。その上には部隊を意味する駒。

 ついさっきまでSFめいた司令室にいたのに、いきなり500年くらいタイムスリップした気分だ。

 私はテーブルの周囲に集まった指揮官たちに報告する。


「《赤光の夜明け》は《デス・ルシリス》の元へ移動を開始しました。想定到着時刻は約15分後」


《赤光の夜明け》を意味する大駒と、先輩を意味する小駒を、《ヴォルール》と《デス・ルシリス》を繋ぐ行軍路に置く。

 二つの戦場は東と西に分かれており、本来はこの間で部隊を行き来させる予定はなかった。

 けれど、作戦に想定外は付き物だ。

 万全だとは言いにくいけれど、一応行軍路は準備してあった。


「《聖ミミ騎士団》からの伝令は来ましたか?」


「はい。戦線の維持はもはや困難だそうです。あと10分ほどで撤退を開始すると」


「それまでに《エテックス》を倒せればいいですけど……」


「試算ではギリギリ間に合います。たとえ《呪王》に強化されたところで、ごり押しで充分倒せるはずです」


 私は駒の置かれた地図を見下ろしながら、口元に手を添えて考え込んだ。

 ……《呪王》の次の手はなんだ?

 向こうの作戦目標は、おそらくボス4体のうち2体を守り切ることだろう。

 そうなれば、私たちは明日の作戦で5体を同時に相手取ることになり、戦力が足りなくなる。


 だからもう一度、《呪王》は介入してくるはずだ。

 私はそれが《デス・ルシリス》になるように誘導しているけれど……。


 頭の中に、いくつもの可能性が閃いては消える。

 ……私の脳内では、戦いはすでに終わっている。

 結果はボス3体を討伐成功、《イザカラ》のみ失敗。

 人類軍にとって味のいい(・・・・)形だと言えるだろう。


 ここに関しては、たぶんもう揺らがない。

《呪王》もおそらくわかっているんじゃないか。

 私が冷静な対処に成功した時点で、2体守り切るのは不可能だと。


 だとすれば、後は()()()()()()()()()だ。

 同じ負けるにしても()()()()というものがある。


「…………引っ繰り返す」


 唱えるように呟いて、私は目を閉じた。

 瞼の裏に映るのは、ひとつのゲーム盤。

 そして、それを間に挟んで向かい合う対戦者――《呪王》の姿。


 イメージの中で、私は自分の席を立った。

 それから……ゲーム盤を横から回り込み……相手側の席に、座る。

 そうやって、《呪王》の視点で今の状況を見直すのだ。


《イザカラ》の戦場は獲ったも同然だけど、《ヴォルール》が落とされ、《エテックス》も陥落寸前の状態……。

 唯一、優勢なのが《デス・ルシリス》だ。


 ……この状況はもはや如何ともしがたい。覆すのは不可能だろう。

《エテックス》を守るのも《デス・ルシリス》で攻めるのもどちらも無益。作戦目標の達成には寄与しない。

 だとしたら――やりたくなるのは、敵戦力の損耗だ。

 明日の戦いを有利にするため、こちらの戦力を削ってくる……。


 そこで、《呪王》も考えるはずだ。

 私と同じように、私たちの視点に立って。

 何を削られたら一番つらいかを――


「……兵を直接殺しても、私たちは復活するから意味がない……。だったら、削ってくるのは――」


 資源(・・)

 それも、貴重な資源だ。


「…………そうか」


 答えに至ったそのとき、天幕にプレイヤーが駆け込んできた。


「伝令です! 《聖ミミ騎士団》、《イザカラ》戦線から撤退しました! 《呪王》も姿を消した模様!」


「わかりました。では、続けて伝令をお願いします」


 私は新たな駒をひとつ取った。

 攻略部隊でもなく、遊撃部隊でもない、今の今まで存在すらしていなかった駒を――

 この場所(・・・・)に、置く。


「全軍――本陣で何が起きても、ブクマ石は使わないでください」


 ちょうどそのとき、爆発音と衝撃が天幕を揺らした。


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