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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第166話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:第一次結界攻略戦・開幕


「そっかぁ……メイアちゃんは見つからなかったかぁ……」


「……ああ。なんか騙されたような気分だ」


「大丈夫だよ、ケージ君。メイアちゃんはきっと、ミミたちの助けを待ってるよ。……ね?」


 UO姫は俺の手をきゅっと握ると、ほのかに微笑んで俺の目を見つめた。

 一度はママを自称したこいつのことだ。メイアのことを、俺たちと同じくらい心配しているのだ。

 俺は感謝する意味を込めて手を握り返し、


「――軍議を始めますっ!!!」


 バンッ! とチェリーがテーブルを叩いた。


「ちぇー」


 と口を尖らせて、UO姫が自分の席へ戻っていく。

 チェリーが鬼のような眼光でこちらを睨みつけてきたので、俺は目を逸らして気付かなかったフリをした。

 UO姫のいつもの手にごく自然と引っかかってしまった……。


 人類軍総司令部は、建築職プレイヤーたちによる大リフォームを受けて、すっかり正義の秘密組織めいた風情になっていた。

 今、俺たちがいるのは大会議室。

 謎のタペストリーが壁にいくつも飾られているうえ、長方形のテーブルが巨大なモニターになっているという、スペースオペラめいた空間だ。

 テーブル兼モニターの周囲には、参集した各クランの有力者を中心とした、人類軍主要メンバーが勢揃いしていた。


「……作戦開始1時間前になりました」


 最上座、お誕生日席に立ったチェリーが、少し固い声で言う。


「予想外のイベントもあって時間も押してしまいましたし、手早く最終確認を済ませてしまいましょう」


 テーブルモニターがブウンと起動する。

 映ったのはダ・アルマゲドンの全体マップだ。


「今回の第一次結界攻略戦の目的は、ダ・アルマゲドン入口ポータルから見て手前側のボス4体――《天魔大将軍イザカラ》、《炎熱海皇帝ヴォルール》、《冥界葬列公デス・ルシリス》、《猿人枢機卿エテックス》を同時に討伐することです。実際のところ、完全に同時に戦闘終了とは行かないでしょうから、時間が余ったレイドは別の戦場に加勢に行ってもらうことになります」


 ダ・アルマゲドン最南の入口から4本の線が伸びる。各ボスエリアへの行軍路および補給路だ。

 さらに、東側に位置する《天魔大将軍イザカラ》と《炎熱海皇帝ヴォルール》、西側に位置する《冥界葬列公デス・ルシリス》と《猿人枢機卿エテックス》が、それぞれ線で結ばれる。


「各自、担当ボスを早めに倒せて、かつ、一番近い場所のボス戦がまだ続いている場合は、そちらに加勢してください。その他の戦場の旗色がどれだけ悪くてもです。真反対の戦場に加勢しようと移動している間に、一番近かったはずの戦場の旗色が悪くなる、といった事態は避けなくてはなりませんから」


 東側の2エリア同士、西側の2エリア同士を繋いだ線が赤く光る。


「近場からの加勢が見込めない状況で戦況が悪化した場合は、総司令部から遊撃隊を投入します。現状、人類軍で最速の行軍速度を有した部隊を遊撃に据えているので、充分に間に合うはずです」


 チェリーがちらりとこちらを見る。

 俺も遊撃隊として勘定されているのだ。

 他にも、《セローズ宣戦王》率いる《メイラ王国平和派遣軍》が遊撃部隊に組み込まれている。

 こいつらは集団戦に慣れているため、他の部隊とは段違いの速度で行軍できるのだ。


「補給物資は、今現在、調合室をフル稼働させて急ピッチで揃えています。なのでポーションなどについての心配は基本的にありません。気にせずガンガン使っちゃってください。言うまでもないと思いますが、補給ローテだけは狂わせないように」


 歴戦のクランリーダーたちが黙ってうなずく。

《調合釜》が所狭しと設置された給食室みたいな建物が、この前線基地の一角に設けられているのだ。

 そこで製造されたポーションと各地から買い占めたポーションとを、補給部隊が各ボスエリアまで運ぶ手筈になっている。

 こうすることで、わざわざ補給に戻る手間がなくなるってわけだ。


「ただし、補給路や補給部隊に何かしらのアクシデントが起こった場合は、各レイドリーダーの判断で動いてください。総司令部でもできるだけ状況をモニターし、情報を共有します」


 そう言って、チェリーは簡単な最終確認を終えた。

 テーブルモニターに映ったマップが消えて、【NY type C4I systemを起動しますか?】というポップアップだけが残る。


「それでは、現時点よりステータス情報の共有を開始します」


 チェリーの目が将たちの顔をぐるりと見回した。


「構いませんね?」


 メンバーが一様にうなずくと、チェリーの細い指が【OK】を押した。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




『――進軍開始!!』

『進軍開始ーっ!!』


 作戦開始20分前。

 整然と隊列を組んだプレイヤーたちが、黒ずんだ草原を移動し始める。

 前提知識が何もなければ、映画のPVにしか見えない光景だった。

 しかし、これは現実だ。

 仮想とはいえ、確かに現実で起こっていることだ。

 進軍の様子を映した短い動画が、1分と経たないうちにSNSに拡散された。


〈#MAO速報 第一次結界攻略部隊、総勢600名超が各ボスに向かって進軍開始!〉


〈こんな人数の攻略部隊初めて見た…… #mao〉


〈一体何が始まるんです? #MAO〉


〈史上空前の大ボスバトル! MAOダ・アルマゲドン攻略戦を現場から生中継中! #MAO #MAO速報 #GamersGarden〉




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 闘技都市アグナポット。

 この都市には街角の様々な場所に、小さなモニターが設けられている。

 本来は《アリーナ》での対戦をランダムに放送するためのものだ。

 しかし今だけは、ほとんどのモニターがダ・アルマゲドンの中継映像に切り替わっていた。


『ご覧ください! 整然と行軍するあのプレイヤーたち! なんとあの全員がレベル100オーバー! 未だかつて、トッププレイヤーがこんなにも一堂に会したことがあったでしょうか!?』


「なんだ、あの人数……」

「ガチで戦争じゃん」

「うわー! 俺も行けばよかった!」


 黒ずんだ草原を進む、色とりどりのレア装備。

 見る者が見れば目が眩むような、この世界で最も贅沢な軍隊。

 それを見上げて羨ましそうに、あるいは悔しそうに騒ぐプレイヤーたちの後ろを、一人の少年と一人のメイドが通りすがる。

 少年はふと足を止め、モニターを見上げると、ふっと口元を緩ませた。


「頑張れよ、ヒーロー」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 俺はいろんな配信をザッピングしていたウインドウを閉じる。

 俺は隊列には混ざらず、ダ・アルマゲドンを一望できる高台で待機していた。


 ご飯粒ほどの大きさになった攻略部隊に視線を投げる。

 ダ・アルマゲドンには、沈黙と緊張感が充満していた。

 意味もなく肩を回す。それでも、肌に刺さる空気は刺々しいまま。

 これから始まろうとしている激しい戦いに、誰もが戦意と不安をない交ぜにしているのだ……。


 そんな風に落ち着けないでいると、耳元からチェリーの声がした。


『……先輩。聞こえますか?』


「ああ。電波良好だ」


 片耳を手で塞ぎながら答える。


『先輩にはひとまず補給部隊の護衛に入ってもらいます。デコイで行軍路を確保してはありますが、完全ではありませんから』


「わかってるよ。いくらでも使い倒せ」


『はい、もちろん。先輩を好き放題顎で使える機会なんて、そうそうありませんからね?』


「おかしいなあ。結構いつも顎で使われてる気がするんだけどなあ」


『気のせいです。気のせい』


 チェリーはくすくすと密やかに笑うと、不意に話題を変えてきた。


『……もうすぐホワイトデーですよ、先輩』


「あん? そうだっけ」


『お返し、期待してますから』


「ええ……」


 アレのお返しってどうすればいいの……。


『倍返しで勘弁してあげます。……私と、メイアちゃんの分で、二人分』


「……ああ、そうか。……そうだな」


 3月14日。ホワイトデー。

 その頃には、きっと――


「今のうちに考えとくよ。お前らをまとめて顔真っ赤にする方法をな」


『えー? それってつまり、先輩は私のチョコで顔真っ赤になったってことですかー?』


「……あ゛。いや、別にその――」


『気になるなー? 何を見て顔真っ赤になっちゃったんですかねー?』


 こいつ……! 相当自信持ってやがるな、あのときのやつ!

 どうやって誤魔化すか、いいや反撃するかと考えていると、


『――あー、ごほんごほん』


 不意にUO姫が、わざとらしい咳払いで割り込んできた。


『えーと、お二人ともー? ミミとしてもすっご~く言いにくいんだけど、たぶんミミ以外に言える人がいないから言っちゃうね?』


「?」

『?』


 UO姫は珍しく、歯切れの悪い声で言った。


『…………これ、オープン回線だから。今の会話、全軍に聞こえちゃってるから』


「――――!?」

『~~~~!?』


 は? え!? 嘘だろ!?

 言われてみれば、まだ進軍してない部隊がなんかざわめいているような……!? 


「げほんごほんぶぇっぶふぉん!!」

『えっふんえふんえふん!!』


『いやいやそんなに咳払いしても誤魔化せないから!! しっかりしてよ総司令官!!』


「そうだしっかりしろー!」

「というか今すぐ死ねええええ!!」


 ダ・アルマゲドン入口付近に残っている補給部隊から俺のところにビュンビュン魔法が飛んでくる。

 俺は頭を抱えてその場にうずくまった。

 し、死にたい……!

 戦う前からすでに死にたい!!


『…………し、失礼致しました…………。気を取り直して、作戦開始3分前です…………』


 さっぱり気を取り直せていない声でチェリーが言う。

 部隊から笑い声がさざめいた。

 災い転じて福と成すというか、張り詰めた緊張感が和らいだ気がした。


 メインの攻略部隊は、そろそろボスエリア前で待機している頃だ。

 あとはチェリーの指示があれば、すぐにでも戦いが始まる。


『30秒前です』


 俺は馬に飛び乗った。

 広大な戦場に静寂が漂う。

 自分の心臓の音が聞こえるほどになり――


『――作戦、開始っ!!』



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