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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅴ - 最強カップルと呪われし想い

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第163話 呪転最終戦場ダ・アルマゲドン:ガルファント・テリトリー突破戦


 力強く砂塵を蹴立てて、二頭の馬が荒野を突き進む。

 目指すは荒野の向こう側――古ぼけた石造りの塔。

 あの中で、メイアが待っているかもしれない。

 だが、この荒野を抜けるには、巨大な障害がひとつあった。


「先輩! 動きましたっ!」


 チェリーが叫ぶ。

 荒野の真ん中で大人しくしていた『影』が動いたのだ。

 怪鳥のシルエットをかたどるそれは、凄まじいスピードでこちらに近付いてくる。


 姿はない。

 見えるのは影のみ。


 風を切る音がどこからともなく響いてきた。

 だが、ヤツが具体的にどこにいるのか……!


「行きます!」


 チェリーが聖杖エンマを高く掲げる。

 俺たちだって、まったくの無策でやってきたわけじゃない。

 ヤツ――《幻影天統領ガルファント》の攻略を担当する《ウィキ・エディターズ》のD・クメガワから、現状、有効とされる対策のいくつかを教えてもらってきた。


 対策その1。

 目に見えないなら、見える範囲すべてを攻撃すればいい――!


「――――《ボルト・スォーム》――――ッ!!」


 簡易詠唱で放たれた奥義級魔法が、凄まじい稲妻の束を撒き散らす。

 対象を指定しない無差別攻撃。

 これならば、相手の居場所がわからなくても問題はない……!


「――クアアッ……!!」


 稲妻の一部が空中で何かに当たり、そこから甲高い苦鳴が聞こえた。

 透明な怪鳥の姿をなぞるように帯電エフェクトが現れる。

 帯電エフェクトはふらりと高度を落とした。


「はっはー! 鳥ポケモンなんざ電撃でいちころォ―――!!」


「それ違うゲームですから!」


 今のうちに馬に鞭を入れ、少しでも距離を稼ぐ。

 当然、このくらいで逃がしちゃくれない。

 帯電エフェクトは地面に落下する前に消え去り、巨大な翼が大気を叩く音が怒声めいて響く。

 影が動いた。


 こいつの厄介なところは、二次元的な位置はわかるのに三次元的な位置がわかんねえってところだ。

 高度何メートルにいるのか。

 影が迫ってきたとして、攻撃されるのは背中か、それとも頭か。


 普通は高度を上げたり下げたりすりゃあ影が大きくなったり小さくなったりすると思うが、こいつはなぜだかそれがない。

 下手に位置がわかる分、余計に惑わされる……!


「来るぞ!」


 無差別攻撃による撃退は、そう連続して使える手じゃない。

《ボルト・スォーム》はクールタイムも長いし、MP消費も大きいのだ。

 となると、次の手は……!


 俺たちは後ろを見る。

 怪鳥の影が迫る。

 目を皿のようにして、影が落ちた地面を見た。


 間合いを測る。

 あと20メートル……15メートル……10メートル――


 ふわりと、地面から砂塵が浮いた。


「「下っ!!」」


 俺たちは手綱を引っ張り、左右に散開した。

 その間を風の塊が吹き抜ける。

 ガルファントが、俺たちを真後ろから轢き潰そうとしたのだ。


 背後から攻撃する場合、その何メートルか手前でかなり高度を下げなければならない。

 そうすれば、荒野のわずかな砂が宙に舞うことは避けられない。

 それが見て取れなければ頭上からの攻撃だということだ。少しタイミングを遅らせて避ければいい。


 前方に飛び去る影を見やりつつ合流する。


「ここまでは今までの荒野越え挑戦者の皆さんにもできたこと――問題はこの先です!」


「直接攻撃を躱されたなら、次はもちろん――」


 影の移動が停止した。

 滞空しているのだ。

 それを見るなり、俺たちはストレージからあるアイテムを取り出した。

 それは短冊状の、いわば護符。

 その紙切れを馬の前に投げながら叫んだ。


「「展開(シールド)!!」」


 半円状の光の壁が、護符を中心に展開した。

 緊急防御用のアイテム、その名もずばり《防護の符》。

 防御力こそ折り紙付きだが、効果時間も展開範囲にも限りがある――


 ――ザザザザクッ!! と光の壁から音がした。


 何も見えない。音だけだ。

 見えない何かが、光の壁に刺さっている……!


「ぐっ……!?」


 左肩に衝撃が走った。

 見れば、赤いダメージエフェクトが散っている。

 当たった……!


「ちくしょう……! 思ったより上にいた!」


「伏せてください、先輩っ!!」


 これはおそらく、ガルファントが自らの羽根を飛ばしているのだ。

 だが、どのくらいの高さから飛ばしてくるのかがわからない。

 だから、羽根の弾雨がどういう角度で降ってくるのかもわからない。

 山勘で張った護符のシールドを飛び越えてくることもあるのだ。


 身を伏せながら、さっきより少し上に向けて2枚目のシールドを展開する。

 さらに何かが突き刺さる音が連続して、2枚のシールドが砕け散った。


「1発目から2枚使っちまったか……!」


「残り3枚です! 最速で行かないと……!」


 影がまた動き始める。

 向かって左側に大きく回り込み、猛然と距離を詰めてくる。


「チッ! 横からは避けにくい……!」


「クールタイム終わりました! 2発目行きます!」


 チェリーが《ボルト・スォーム》を使い、突っ込んでくるガルファントを追い払った。

 帯電エフェクトが出ているうちに距離を離すが、この程度は焼け石に水だ。


「影が止まった!」


「今度は後ろから……!」


 護符のシールドを展開する。

 不可視の羽根が突き刺さる音が連続する。

 身体に衝撃が走ることはない。

 今度はうまくいったか――!?


 ぐらり、と尻の下が傾いた。


「げっ……!」


 俺の馬の首からダメージエフェクトが出ている!

 馬が横倒しになり、俺は放り出されて地面を転がった。


「先輩っ!?」


「いい! 行けっ!!」


 起き上がりながら塔を指差す。

 今は一人でもいいから荒野を抜けることだ!


 一瞬だけ俺の全身を影が覆い、あっという間に通り抜けた。

 ガルファントはチェリーを追っている。

《ボルト・スォーム》の分、ヘイトはあっちにあるってことか……!


第四ショート(キャスト)カット発動(・フォー)!!」


《縮地》のスイッチを入れた。

 わずかな砂塵を後に残し、怪鳥の影を追う。

 一瞬のことではあれ、俺のスピードはガルファントのそれを超えていた。


 影の後ろから砂が浮く。

 高度を落としている。

 だったら!


「――と……ど……けっ!!」


 影の尻尾に向けて、俺は全力で手を伸ばした。

《縮地》のスイッチが切れるまでコンマ数秒。

 普段なら一瞬に過ぎない時間を、刹那に至るまで使い尽くす。


 俺の腕が落とした影が。

 ガルファントのそれに接し。


 瞬間、指先にふわりとした感触を掴む。


「見つけたあっ!!」


 おそらくはガルファントの体毛だ。俺はそれを全力で掴む。

 直後、《縮地》のスイッチが切れた。

 猛然と飛ぶガルファントに引きずられ、一瞬、足で地面を削る。

 置いてかれてたまるかああっ……!!


 ガルファントの体毛を両手でがっしと引っ掴み、懸垂の要領でよじ登る。

 風が壁みたいに押し寄せて、俺を吹き飛ばそうとした。

 ナメるなよ――このくらいで振り落とせると思うな!


 背中から魔剣フレードリクを抜いて、不可視の身体に突き刺した。


「――クェェァアアッ!!」


 登山家がそうするように、突き刺した魔剣を手掛かりにガルファントの背中まで上る。

 高速で過ぎ去る地面が透けて見えた。まるで俺自身が飛んでるみたいだ。


「避けろチェリーッ!!」


 叫ぶと、前を走るチェリーが左に転身する。

 ガルファントはそれを追おうとするが、


「こっちに構えよ、鳥野郎……っ!!」


 魔剣フレードリクを両手で掴み、深々とその首元にぶっ刺した。


「クエァアアアアアアッ!!!」


 甲高い悲鳴が弾けた。

 ガルファントの身体がふらりと斜めに傾ぎ、チェリーは無事に離脱していく。

 が、


「ぬおっ……!?」


 急にガルファントの身体が垂直になり、俺は突き刺した魔剣に掴まった。

 見る見る高度が上がる。

 荒野全体――いや、ダ・アルマゲドン全体が見渡せるほどになった。


「クェエアアッ!!」


「うおわっ!?」


 ガルファントが戦闘機のように旋回した。

 遠心力にぶん回され、魔剣が不可視の巨体からすっぽ抜ける。


 俺は身一つで空中に放り出された。

 高さにビビっている暇もない。

 ブオウンと大気を叩く音がする。

 圧迫感があった。

 目に見えない巨鳥が迫り来る感覚……!


 影は遙か下。

 ガルファントの二次元的な位置すら掴むことはできない。

 だが――ひとつだけ、目印があった。


 きらきらと、空中に赤い光の欠片が散っている。

 飛行機雲のように軌跡を描くそれこそは、俺がガルファントに刻んだダメージエフェクト……!


「2枚同時!」


 俺は残った《防護の符》を両方取り出した。


展開(シールド)!!」


 光の壁が二重に展開する。

 直後、そこに強大な衝撃が走った。

 まるで交通事故。

 トラックにはね飛ばされたようなショックが障壁を突き抜けてくる。


 俺はビリヤードの玉だった。

 ガルファントの突進にぶっ飛ばされて、ぐるぐる回転しながら落っこちていく。


「ぶばばばべらばびばらばばばばば!!」


 上も下もわからなくなり、もう一足先に死んだ気分。

 父さん、母さん、それにレナも。先立つ不孝をお許しください――


「――《エアーギ》!」


 そのとき、ふわっとした風の塊が、俺の身体を下から押した。

 落下速度が大部分減殺されて、次の瞬間。


「あ」

「え」


 目の前にチェリーの顔があり、次いで星が散った。


「ぬおおわっ!?」

「きゃーっ!?」


 チェリーともつれ合うようにして、地面をごろごろ転がる。

 回っていた目が回復してくると、俺は顔をしかめながら身を起こした。


「ったたた……お前、なんで下に――」


 言葉が止まる。

 息がかかるような間近で、チェリーが俺の顔を見上げていた。

 いつの間にか、俺がチェリーを押し倒したような格好に――


「……っ……」

「…………~~~~っ!」


 長い睫毛に縁取られた目を、思わずじっと見つめていたら、チェリーの目が泳ぎ始めた。

 なんか面白くなってきた。

 依然としてじーっと見つめていると、チェリーは手の甲を口に当てて表情を隠す。


「な……なんでそんなに見つめるんですかぁっ……!」


「お前が挙動不審だからだろ」


 地面についた俺の膝を、チェリーの膝がもじもじと挟む。まるで俺がつっかえ棒をしてるみたいだ。

 逃げていたチェリーの視線が、ちらっとこちらを見る。

 指の隙間から桜色の唇を垣間見せて、


「そんじゃどくわ」


 その瞬間、俺はチェリーの上からどいた。


「っぁ……あっ……~~~~っ!!」


 地面に仰向けで取り残されたチェリーが、顔を真っ赤にしていく。

 俺はにやにや笑って、


「どうした? なんかしてほしいことでもあったか?」


「ばっ……! ば……! ばかっ! 何にもありませんよっ!!」


 チェリーはスカートをぱんとはたきながら立ち上がり、憤然と鼻息を荒くする。

 俺は背中を向けて、チェリーにバレないように自分の胸を掴んだ。

 …………あっっっっっぶねええええ!!

 戦闘直後の高揚もあって、頭がどうにかなりそうだったーっ……!!


 どくどくと脈打つ心臓をなだめすかしていると、横合いに建つ建物に気付く。


「……ここは……」


 古びた塔。

 昨日の深夜に、メイアが配信をした場所だ。


 俺は背後を振り返る。

 ガルファントの影は、荒野の真ん中に戻っていた。


「抜けた……辿り着いたんだな、俺たち」


「ええ、そうです」


 チェリーと一緒に、目の前の塔を見上げる。

 ……あの配信の後、メイアがどうなったのかはわからない。

 あいつがどうしてここにいたのかもわからない。

 しかし、それでも。


「……来たぞ、メイア……!!」


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