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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅳ - 最強カップルVSブラッディ・ネーム

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第152話 VS.呪転凍眠竜ダ・フロストローザ&《赤統連》第三席・幽刃卿 - Part2


 浮遊感が長く続いた。

 辺りは真っ暗。一面の闇。射していた日光は、とっくの昔に遙か頭上に消えた。


 どこまで落ちるんだ……?


 いやに長く感じた落下感の果て、足元にぼんやりとした光が広がり始める。

 こんな地下で光だって?

 俺のそんな疑問は、その空間の全貌が露わになるにつれ、氷解していった。

 そう、氷解。

 文字通り、ってやつだ。


 そこには、赤々とした溶岩が煮えたぎっていたのだ。


 俺たちは溶岩の中に浮かぶ黒い地面に着地する。

 これは黒曜石か? コケたらただじゃ済みそうにない硬さだ。もう床が抜けることはなさそうだった。


 シャラン――という、ハープにも似た幽玄な音が、頭上から響いた。

 呪転凍眠竜ダ・フロストローザ――青白い巨竜が持つ氷細工の翼が、空気を叩く音だった。


「ァ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」


 壮麗な咆哮がドーム状の空間を満たす。

 それに恐れたか、畏れたか。そういう風にも見える現象が始まった。


 煮えたぎる溶岩が、真っ白な氷に包まれてゆくのだ。


 俺たちの足場である黒曜石も諸共に凍り、ラストダンジョン感満載だった溶岩空間は、あっという間に一面の氷に覆われた。

 然る後、満を持して、ダ・フロストローザが舞い降りる。

 ――HPゲージは残り2段。

 チェリーやメイアたちが1段削ってくれたようだが、どうやら本番はこれからのようだ。


「先輩! 幽刃卿は!?」


 遠くからチェリーに言われ、俺はハッと視線を上げた。

 ダ・フロストローザのどこか女性的な顔の上に、黒い影が佇んでいる。

 暗いフードの奥から、黒々とした双眸が俺を見下ろしていた。


 ――こっちも第二ラウンドといこうか、殺人鬼!


「ァ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」


 咆哮が氷の結晶を乱舞させる。それが開戦の合図だった。

 シャラン、シャラン、と鳴るのは氷の翼。着地したばかりの巨竜が、再び空へと舞い上がる。

 薔薇の茎めいた長い首が、背中側に反らされた。


「ッ! 避けろおッ!!」


 直感は正しかった。

 ダ・フロストローザは、その口から巨大な氷塊を吐き出したのだ。

 隕石めいて落下した氷塊は、凍った溶岩とぶつかって砕け散る。


 チッ、破片にもダメージ判定がありそうだ。かなり大きく避けないとHPを削られる!


 ――なんてことは、小さな心配だった。

 本当に厄介なのは次の現象。

 厚く張った氷がひび割れた。

 亀裂から火の粉が小さく溢れた。

 と思ったときには、()()()()()が出現していた。


「ばッ……! 氷の下の溶岩が!?」


 ダ・フロストローザはさらに続けて、巨大な氷塊を吐きかけていく。

 それらは次々に氷の床を打ち砕き、あちこちに溶岩の間欠泉を作った。

 噴き出した溶岩は、周囲の氷を徐々に溶かしている。

 このまま行けばどうなるか、想像する必要もなかった。足場がなくなる前にどうにかしねえと!


「――翼ですっ!!」


 と、聞き慣れた声がした。

 見やれば、チェリーが上空のダ・フロストローザを指差していた。


「氷の翼が溶けてますっ!! 《ファラゾーガ》で狙ってください!!」


 なるほど……!

 俺を含めたプレイヤーたちから、次々と特大の火球が飛んだ。

 その半分ほどが、羽ばたく氷細工の翼に見事命中する。

 溶けていた。見るからに溶けていた。

 その証拠に、ダ・フロストローザの高度が下がる……!


「これで……どうだあっ!」


 メイアが叫びながら《エルフの弓剣》につがえたのは、細く逆巻く炎の矢。

 弓剣系体技魔法《スパイラル・ファイアー・アロー》。


 螺旋の軌跡を空中に残しながら、メイアの火矢が正確に氷の翼を射貫いた。

 さすがのエイミング。痛いところをやられたようで、ダ・フロストローザは無様にばたばたと暴れながら、浮力を完全に失う。


 墜落と同時、氷が割れた。

 氷の竜は、赤々と煮えたぎる溶岩に沈んだ。

 美しかった氷細工の翼がどろどろと溶ける。溺れるように暴れながら、優雅とは言い難い苦鳴が弾けた。

 その末に、長い首がぐったりと氷の床に投げ出される。

 HPは大幅に減じていたが、まだまだ残っていた。


「チャンスです!」


 チェリーの号令一下、俺たちは一斉に弱った巨竜に群がる。

 剣が、槍が、弓が、魔法が、ボスのHPを刈り取るべく魔力の輝きを帯び――


 黒い影が忍び寄った。


「――させるかよ!」


 一斉攻撃のどさくさに紛れようとした幽刃卿に、俺は魔剣フレードリクを振るう。

 白刃と白刃が火花を散らし、幽鬼のようなボロマントは3歩距離を取って2本のナイフを構えた。


「わかって、きた、な……《緋剣乱舞》」


「もうそろそろ飽きてきたよ、お前の芸風には」


「ススス、ス――ス!」


 幽刃卿が猛然と氷の床を蹴る。

 ほとんど倒れているような低い姿勢から、2本のサバイバルナイフがカマキリの鎌のように首を狙ってくる。

 足場は悪い。滑って転ぼうもんなら命取り。

 ただしそれは、()()()()()()()()だけに課されたリスクだ。


第三ショート(キャスト)カット発動(・スリー)――!」


 魔剣フレードリクが、半月を描くように足元から頭上まで立ち上る。その軌跡を追って、紅蓮の炎が駆け抜けた。

 体技魔法|《焔昇斬》。


「―――ッ!」


 幽刃卿は一瞬身体を硬直させ、俺の体技魔法を避けようとした。

 おそらくは、壁抜けスキルで床に潜って。

 それは幽刃卿の身に染みついた、基本的な回避アクションなのだろう。

 だが、今だけはその手は使えない。


 厚く張った氷の下は、極悪に煮えたぎった溶岩でいっぱいだ――!


「ぐッ……!」


 幽刃卿は自ら横に倒れるような形で、俺の《焔昇斬》を躱した。

 しかし、その肩口に切っ先が届く。

 刃と炎による二段ダメージが、幽刃卿のHPを減らす。


 幽刃卿は氷の上を滑りつつも、マントを大きく翻しながら、体勢を立て直した。

 肩口に散る赤いダメージエフェクトに触れ、手のひらに付着したポリゴンの光芒を見る。


「……我、は……『殺す者』、だ」


 手のひらの赤い光芒を、強く握りつぶした。

 そして、眼光がギラリと輝く。

 俺をまっすぐに射貫くそれには、紛れもない殺気があった。


「こうして、ダメージを、受け……『殺されるかもしれない』……と、思わされること……それ自体、屈辱!」


「暗殺者の矜持ってやつかよ。だったらなんで殺人予告状なんてものを出す?」


「知れた、こと。――プライド、を懸け、なければ……ゲェムでは、ない」


「よくわかってんじゃねえか」


 ゲームで負けたところで死にはしない。

 何も失わない。

 損をしない。

 痛くも痒くもない。


 ただひとつ、自尊心(プライド)を除いては。


「だったら喜んで付き合うぜ、幽刃卿――ただし、勝つのは俺だけどな」


「ほざけ、《緋剣乱舞》、MAO最強の男――対人戦闘に、おいては……我に、一日の長が、ある!」


 のそりと、巨大な何かが動き始める気配がした。

 視界の端で、ダ・フロストローザが起き上がっている。

 溶け落ちた氷の翼がパキパキと音を立てて再生した。

 それを大きく羽ばたき、溶岩の中から脱しながら、何度も聞いた壮麗な咆哮が再び響き渡る。


「ァ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!」


 氷の床の穴がすべて塞がった。

 溶岩の間欠泉がなくなり、再び一面の氷景色に戻った。


「散開! 散開っ!!」


 チェリーが声を張り上げた直後、高く舞い上がったダ・フロストローザの周囲に、無数の氷塊が出現する。

 上層で俺と幽刃卿が足場にしたアレだ。だとすると……!


 氷の弾雨が降った。

 雹なんて生易しいもんじゃない。ひとつひとつが殺人的。まるで流星群だ。隕石の群れだ!


「影をよく見て! ひとつひとつ丁寧に避けてくださいっ! 大丈夫です、避けられますっ!!」


 氷の弾雨はほどなく治まったが、その傷跡は溶岩の間欠泉として残された。

 足場が減る。逃げ場が狭くなる。

 それ以上に――死角が増える!


 ぞわりと首筋が寒くなった。

 勘に従って首を横に振った直後、溶岩の間欠泉を回ってきた黒い影がナイフを振るう。


「…………!!」


「よくぞ、避けた」


 俺が反撃する前に、幽刃卿は再び溶岩の陰に消える。

 さっき氷の下に潜らなかったことと言い、ヤツの壁抜けスキルは地形ダメージまでは無効化できないと見える。

 しかし、ダ・フロストローザは別だ。

 今のところ、あのボスの攻撃は氷塊による物理攻撃が中心。俺たちが逃げ惑っている間も、幽刃卿は自由に動き回れる……!


 俺は柱のように乱立した溶岩の間隙を走った。

 幽刃卿を見失うわけにはいかない。

 向こうも壁抜けスキルが使えない状態なのだ、以前ほど逃げるのは容易じゃない……!


 視界の端で金属が光った。


「ぐわっ!?」


 あえて足を滑らせて転倒する。

 と、髪の先をナイフが走り抜けた。

 黒い影が一瞬見えたが、すぐに間欠泉の後ろに消えてしまう。

 追いかけてたはずなのに……!? 動きを読まれてるのか!


「むおわっ!」

「だわわあーッ」

「ぎえッしゃらあ!」


 不意に謎の奇声が聞こえてくる。

 見れば、何人分もの青白い人魂が、氷の上に浮かんでいた。

 戦力に損耗が出始めている……!


 元より人数は心許なかった。氷の迷宮で幽刃卿に大部分を削られたせいだ。

 そのうえ――


「だあッくそっ! また守られた!」

「邪魔だなあの氷!」


 上空を飛ぶダ・フロストローザは、周囲に無数の氷塊を侍らせている。

 前例に倣えば、その翼を炎系の魔法で攻撃すれば、飛べなくなって溶岩に落ちるはずだ。

 しかし、周囲に浮かぶ氷塊が障害物になっている。さっきほど簡単に翼を攻撃できないのだ。


 メイアが放つ矢だけはその隙間を通り抜けているが、いかんせん火力が足りない。

 必要なのは弾幕だ。守りをぶち抜ける物量だ。

 人数が足りない。

 このままじゃジリ貧になる……!


「――ス、ススス、ス、ススススススス――!!」


 隙間風のような笑い声が、どこからともなく聞こえた。

 幽刃卿はもう、積極的にメイアを狙う必要すらない。

 俺という戦力を引きつけておくだけで、あとはダ・フロストローザが勝手に(みなごろし)にしてくれるのだ。


「ちくしょうッ……!」


 撤退を考えるべきか。

 メイアだけは死なせるわけにはいかない。

 しかしその場合、幽刃卿もまた退くだろう。ヤツを倒す好機は永遠に失われる……!


 美麗に上空を舞う、氷の薔薇のような竜を見上げ、俺は歯噛みした。

 何かないのか! 足りない人数を補う方法は――!!


「――――《ドおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおン》ッ!!!」


 そのときだった。

 直上の深い闇から、眩い光線がまっすぐに降ってきた。

 それは、あたかも大地に縫い止めるように、ダ・フロストローザの片翼を正確に貫く……!


 俺は、俺たちは、一斉に頭上を見上げた。

 黒い黒い闇の向こう。

 遙か上空から落ちてくるのは、何人もの冒険者たち。


 UO姫。

 D・クメガワ。

 巡空まいる。

 そして、彼らが率いるクランの精鋭たち!


「間っに合いましたああああああああっ!!!」


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