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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅳ - 最強カップルVSブラッディ・ネーム

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第147話 あなただけに見せる本当のわたし(偽装)


 いったん戻ることにした。

 そもそも目的は偵察だったんだし、これ以上少人数で奥に突っ込んでもメリットはないという判断だ。


「大迷宮は大人数で攻略するに限りますからねー。1パーティだと大体迷うだけ迷って終わりです」


「狭っ苦しいのにオープンワールドゲームのフィールドで彷徨ってるような気分になるよな」


「わたしは彷徨うのも好きだよー」


「まあ迷って疲れ切ったところを幽刃卿に狙われるのが一番危ないので、リスクは排除していきましょう」


 神殿の外にある地下都市には、《聖ミミ騎士団》《赤光の夜明け》《ウィキ・エディターズ》の3クランが待機している。

 総勢では3桁にも迫る大戦力だ。これを使わない手はない。


「でも大丈夫なのか? 大勢の人間が近くにいたら、幽刃卿がまたハックアバターで紛れ込んでくるかもしれないぞ」


「そこは大丈夫なんじゃないかと、一応考えています。大迷宮の入口はちょうど3つありました。そのそれぞれを1クランずつで探索していく予定です。つまり、どれかのクランに紛れ込んだとしても、別のクランのほうに移動することは難しいし、混ざろうとしてもすぐバレてしまうんです」


「ふえー。あったまいいねー、ママ」


「まあね。でも警戒は忘れちゃダメだよ、メイアちゃん。私たちが混ざるクランにたまたま紛れ込んでる可能性もあるし」


 俺たちが混ぜてもらうことになるクランはまだ決めていない。

 もちろん、幽刃卿がそのクランのメンバーに紛れ込むのを防ぐためだ。

 俺たちがどのクランと一緒に行くのかギリギリまで決めなければ、向こうもどのクランに潜めばいいのかわからない。


「3分の1の確率に賭けるよりは、素直にあの大迷宮で待ち構えていたほうが分がいいと判断するはずですよ。あんなに有利な地形なんですから」


「ああ。充分に警戒しないとな……」


 大迷宮。

 道は決して広くはないし、入り組んでもいる。薄暗くて視界も悪い。

 さらには、まったく違う場所の道と道が、壁をひとつ挟んだだけで隣り合っていたりすることもある――そして大抵、プレイヤーはマッピングをするまでその事実に気付かない。

 壁抜け能力を持つ幽刃卿にとって、絶好の地形だ。


 正直、メイアと一緒に居残って、UO姫や巡空まいるたちが大迷宮を攻略するまで待っていたい、という気持ちもある。

 実際、あいつらにもそれを勧められた――さしものチェリーも迷ったようだったが、「いえ」と決然と首を振り、その勧めを断ったのだ。


「ここを逃せば、幽刃卿本人が出張ってくることは二度とないかもしれません」


 幽刃卿本人のアバターのHPを削りきらない限り、このゲームは終わらない。

 終わらせたければ、今、勝負するしかないのだ。まだしも幽刃卿の動向が掴めている今。


 神殿から戻ってきたリーダーたちの号令を受けて、3つのクランはあっという間に大規模ダンジョン攻略の態勢を整えた。

 神殿の入口の前に、総勢84名のプレイヤーがずらりと居並ぶ。


 さあ、勝負だ。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「じゃーん」

「けーん」


「「ぽんっ!」」


 UO姫がグー。

 巡空まいるがパーを出した。


「うにゃあーっ! 負けちゃったあ~!」


「やりましたっ! まいるたちと一緒ですよっ、チェリーさん、メイアちゃん!」


「……あ、そうだ。ケージ君だけミミと一緒に行こ? それでいいじゃん!」


「いいわけないでしょうが! 何のためのジャンケンだったんですか!」


 そういうわけで、俺とチェリーとメイアは《赤光の夜明け》についていくことになった。

《聖ミミ騎士団》に俺だけ混ざるなんてぞっとしねえ。

 あいつら全員UO姫の信者だぞ。そこに俺だけ混ざるとか、今世紀最大のサークルクラッシュの危機だろうが。


「むう~。そんなの気にしなくていいのにぃ。庶民(みんな)ミミの幸せを喜んでくれるいい子ばっかりだよ?」


「そうだ! 我々をナメないでもらおうか!」

「ミミ様が他の男に目移りするなど日常茶飯事よっ!!」

「そこらのオタクとは鍛え方が違うわあ! 鍛え方が!!」


「や~ん♥ 庶民(みんな)かっこいいーっ♥」


「ぼっふぉっ!」

「ま、眩しい笑顔……」

「尊い……」


 俺は知っている。こいつら騎士団は集団だとこういうノリなんだが、一人だけのときにUO姫について話を聞くとこういう風に話し始める。


『勘違いされがちだけど、ミミちゃんはホントにいい子なんだ……。普段はみんなのアイドルとして振る舞ってるけど、俺には母親みたいに親身になってくれて……』


 この辺がUO姫の怖いところだった。

『俺だけは本当の彼女を知っている』という認識が人を姫の虜にするのだ……うーん恐怖。


「……それが俺に対してだけあんなに暴走するんだからなあ。実は結構純情なんだよな」


「それ、まさにあの女の『あなたにだけ見せる本当のわたし』に引っかかってますよ先輩! 目を覚まして!!」


「ハッ!?」


 い、いつの間に!?


「先輩。私が思うに、あの女は自分のファンの前であえて先輩への好意を見せびらかして、『こんなにたくさんのファンよりもあなた一人を選ぶわたし』アピールで先輩に優越感を持たせる作戦を実行中です。気を強く持ってください」


「ぐおお……!! ど、どこからどこまでが術中なんだ……!!」


 女の子コワイ……。

 とにかく班割りは決まった。

 これ見よがしに別れを惜しむUO姫に軽く手を振って(演技なのか本心なのか演技なのか本心なのか。あ゛ー)、巡空まいると合流する。


「よろしくねぇ~! メイアちゃん!」


「うんっ! よろしくねー! まいるちゃん!」


 メイアがきゃっきゃと楽しそうにしているので、妥当な班割りだったかもしれない。

 簡易キャンプ構築用に、3クランそれぞれから数人だけ最初の部屋に残すと、残りの80人近くが3本の道に分かれた。


『聞こえますかな?』


『聞こえるよぉ~!』


「聞こえます~! 感度良好です!」


 3つの道に分かれた各クランの主要メンバーは、アプリを使って通話を繋げていた。

 特に報告することがなくたって、とりあえず通話を繋げておくのが重要なのだ。どこで何が起こっているのか、通話を聞いているだけでわかるようになる。


「それじゃ、どんどんマッピングしていっちゃいましょうか~!」


 集団の先頭を歩く巡空まいるが表示させたのは、《シェアマップ》という外部ツールだ。

 同じマップを複数人で共有して、歩いた軌跡を自動的に記録していく。

 これがあれば、どんな複雑な大迷宮でも人海戦術で一気に丸裸なのだ。


 薄暗い道を整列して進み、分かれ道があれば班を分けてすべての道に突っ込む。

 見る見るうちに、毛細血管のような迷宮の全体像が、シェアマップに刻まれていった。


「……ちょくちょく道が交錯してますね? もしかして立体になってます?」


 俺がウインドウに表示させたシェアマップを、横からチェリーが覗き込む。


「緩やかに坂になってるのかもな……。全体としては上に登ってるんじゃないか?」


「上かあ……。山のてっぺんに着くのかなあ?」


 メイアが低い天井を見上げながら言った。

 可能性はある。長い迷宮を抜ければ雪山の頂上――


「ねえ、パパ、ママ。シェアマップって高さも記録できるの?」


「高度に応じて色分けできる機能があったよな?」


「ええ。まだ色分けされるほど高さに差はついてませんけど、一応オンにしましょう」


 木の根が地中に伸びていくのを早回しにしたようなシェアマップの動きを眺めつつ、迷宮を歩き続ける。

 途中、何回かモンスターに遭遇したが、度重なる分かれ道で人数を減らした今の状況でも、充分に圧倒できる程度だった。

 特に巡空まいるのダンシング・マシンガンが暴力的だ。


「マシンガンというか、ガトリング砲でも振り回しているような気分になりますね」


「えへへ~。それほどじゃあないですよぉ~」


「MP消費がすごいことになると思うんですけど、どうしてるんですか?」


「あっ、それはですね~。《魔力節約》のスキルはもちろんなんですけど、セローズ地方のクエスト報酬で便利なスキルが――」


 前でチェリーと巡空まいるがウィザード雑談に興じる中、ひゅうっと音がして、メイアの緑がかった金髪がふわりとなびいた。


「んっ……! ……あれ? 風?」


「ああ、たぶんアレだな」


 俺は天井近くの壁を指差す。


「あそこに穴があるだろ? たぶん通風口だな。ここは神殿と違って、かがり火や松明を明かりに使ってるみたいだから」


「あっ、そっか。酸素がなくなっちゃうから、空気をぐるぐるさせてるんだねー」


 チェリーの解説に対して『ふえー』と言っている印象が強いメイアだが、実は頭が回るほうだ。

 もし学校に通ってたら、かなりの優等生だったのかもな……。


『――むう?』


 と。

 不意に、通話越しに怪訝な声が飛び込んできた。


『今、音が……? これは―――ぐっ!?』


 ――!?

 苦しげな呻き声が鼓膜を刺した。

 同じ通話を聞いているチェリーと巡空まいるも表情を変える。


「クメガワさん? クメガワさんですよね? どうかしましたか?」


 答えはなかった。

 代わりに、通話アプリにおけるD・クメガワのステータスが『退席中』に変わった。

 これは、まさか――


 およそ1分ののちに、答えは来た。

 しかし、D・クメガワは『退席中』のまま。

 そしてその声は、ひび割れた性別不明のものだった。


『…………まず、ひとり』


 ススススススっ――と隙間風のような笑い声があり、通話は途切れた。


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