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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅳ - 最強カップルVSブラッディ・ネーム

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第133話 雪中の幽鬼


 第二前線拠点を出て山道を登っていくと、本格的に雪深くなってきた。

 踏み固められた地面を氷が覆い始め、足元が怪しくなってくる。

 気温も『肌寒い』なんてレベルじゃなくなって、俺たち3人は分厚い防寒着を着込んでいた。

 これがないと気持ち的にも不快だし、ゲーム的にもSTRやらDEXやらにデバフがかかってしまうのだ。


 だっていうのに、先を行く大男は、上着のひとつも着ないまま元気そうだった。


「がはははははは!! 雪中行軍とは胸が躍るのう!!」


 聞いているだけで細かいことがどうでもよくなってくるだみ声は、言わずもがなゼタニートのものだ。


 コテージに残されていた、《幽刃卿》によるメイア殺害予告。

 あれが本物なのか悪戯なのかは、結局のところわからない。

 だが、メイアは普通のプレイヤーとは違って、殺されても復活できるのかわからない身だ。

 念には念を入れるべきだってことで、ストルキンの勧めでゼタニートを護衛につけることになったのだった。


「とうっ!」


 ゼタニートは突然、道の横に高く積もった雪にダイブした。

 すぐに起き上がって、自分の形に窪んだ雪を見る。


「人型ができおったわ! ぐわははははは!!」


 小学生かよ。


「……あいつが護衛で本当に大丈夫か?」


「ま、まあ、人柄がどうあれ、レベルは本物ですから」


 確かに、レベル150という数字は圧倒的だ。

 人柄がどうあれ、戦力として心強いことは間違いない。人柄がどうあれ。

 微妙な表情をしている俺たちを見て、メイアが首を傾げる。


「ニートのおじさん、面白いよ? いろんなこと知ってるし!」


「……その、完全に偏見なんですけど、一応は親として、娘があの人と仲良くしているのはちょっともにょもにょします」


「怪しい親戚のおじさんポジションだな、完全に……」


 メイアには、予告状のことは話していない。

 怖がらせてしまうと思ったのだ。

 せっかくレベルが上がって、俺たちと同じ場所に来られるようになったのだから……メイアにはちゃんと、この機会を楽しんでほしかった。

 ……赤統連だか幽刃卿だか知らないが、邪魔なんてさせるかよ。


 足元が悪い中、何度か散発的にモンスターとエンカウントした。

 しかし、俺たちが出るまでもなく、先頭のゼタニートが蠅でも叩くようにして瞬殺してしまう。

 レベルの暴力だ。


 そうして、人類圏外にもかかわらずハイキング気分でしばらく歩けば、ちらちらと降っていた雪が、だんだんと吹雪に変わっていった。

 視界も悪くなっていく。

 お互いの姿が白い闇にかすみ、おぼろな影になった。

 前のゼタニートが言う。


「おう! 大丈夫か! モンスターの出現に警戒しておけ!」


 この吹雪じゃ、まともに索敵が働かない。

 不意打ちを警戒しないとな。

 魔剣フレードリクを抜いて、いつ襲撃されても対応できるようにした。



 ――そのときだった。



「ぐむっ……!?」


 前を行くゼタニートが、唐突にぐぐもった声を漏らした。

 吹雪の中で、大男の巨体がピキリと固まり――

 ――次の瞬間、ぐらりと横倒しになる。


「は……!?」


 俺は異常に気付いて息を止めた。

 瞼の裏に映っている簡易メニュー――そこに表示されていたゼタニートのHPゲージが、一瞬で消滅した!

 な……何が起こった!?


「せ、先輩!」


「ああ……!」


 しっかりメイアの手を引きつつ、俺たちは倒れたゼタニートに駆け寄った。

 首筋に、赤い光芒のラインが走っている。

 ダメージエフェクト……。

 何かの刃物で斬りつけられた跡!


「や、やられたのか……? 何に!?」


 辺りに気を配るが、モンスターの気配は一切感じられない。

 俺の脳裏によぎったのは、コテージの壁に刻みつけられていた予告状だった。

 ――『赤名統一連盟 幽刃卿』。

 まさか……!?


「……おかしい……おかしいですよ、先輩」


 チェリーが視線を下に向けながら呟いた。


「周りの雪に、私たちのもの以外の足跡がありません。……一体、誰がどこからどうやって、ゼタニートさんの首を斬ったんですか?」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「な、なに……? パパ、ママ、何がどうなっちゃったの?」


 わからない。

 ゼタニートが『何か』に首を斬られて殺されたのは間違いない。

 だが、その『何か』がゼタニートに近づいた痕跡がどこにもない!


 吹雪で消えた?

 まさか。そんなに時間は経ってない。

 足を地面につけずに移動できるスキルかクラス?

 聞いたこともないが、可能性は否定できない……。

 いずれにせよ、俺たちを狙う敵が近くにいる!


 ――ザッ。


 吹雪の中に紛れたその足音を、俺は聞き逃さなかった。


「二人とも、掴まれッ!」


 誰何はいらない。

 俺はチェリーとメイアの腕を引いてその場を離れる。


「足音……? 足跡をつけずに済むスキルかクラスがあるなら、どうして足音が……?」


「考察は後だ! 先に安全を確保する!」


「……っはい!」


 周囲の視界が悪すぎる。

 こんな吹雪の中じゃ、ろくに敵の姿も見えやしない。

 だけど、敵のほうは正確にゼタニートを襲ってみせたのだ。

 向こうには俺たちの位置がわかっているかもしれない……!


「――あっ! 先輩! あっち!」


 チェリーが左前方を指さした。

 吹雪の中に木造の小屋がある。

 あそこに逃げ込めば、吹雪からは逃れられるか……!


「よし、行くぞ……! 来い、メイア!」


「うっ、うん……!」


 雪の上をどうにか走り抜けて、俺たちは小屋の中に転がり込んだ。

 扉をバンと閉める。

 吹雪の音が扉の向こうに遠ざかり、ふうと息をついた。


 小屋の作りは粗雑で、屋根や壁ががたがたと揺れている。

 プレイヤーメイクじゃないな……たぶん、元からあったものだろう。

 中には家具のひとつもなく、ただ虫食い穴の空いた床があるばかりだった。


「ふあ~。なんだったんだろ、今の~」


 メイアが壁際にずりずりとへたり込みながら言う。


「気ぃ抜くな。まだ見逃されたとは決まってない」


「そなの?」


「視界の悪い開けた場所よりは、こういう袋小路のほうがまだマシってだけだよ」

 チェリーが言う。

「敵が来るとしたら、扉か窓か、あるいは壁を壊してくるか……選択肢を絞れるでしょ?」


「あっ、そっか。あったまいい~」


 いまいち危機感の希薄なメイアに苦笑しつつ、俺は小屋の様子をチェックした。

 窓はひとつ。天井近くのかなり高い位置に、せいぜい手首が通るかどうかくらいの小さな隙間がある。

 扉もひとつだ。鍵はない……。よしんばあったとしても、少し蹴っただけで簡単に破れるだろう。

 壁も同じこと。壊してしまうのは難しくなさそうだ。

 さあ、どこから来る……?


 壁が風でがたがたと揺れている。

 その音がうるさくて、さっきみたいに足音を聞き取れそうにはない。

 なら、頼れるのは目だ。

 不審な情報をひとかけらたりとも見逃すな――


 窓から来るか。

 扉から来るか。

 壁から来るか。


 選択肢をこの三つにしたのが――俺のファインプレイだった。

 一見、可能性の低そうな選択肢を、先入観に陥って排除しなかった。

 だから俺は、ギリギリで気付くことができた。


「はれっ?」


 壁際に座った、メイアの首に。

 ()()()()()()()()()()()()が、ナイフを添えている……!


「メイアっ!!」


 AGIを鍛えていたことを、このときほど感謝したことはない。

 俺は電光石火でメイアに駆け寄り、彼女の首を斬り裂こうとしたナイフを左手で掴んだ。


「くっ……!?」


 左手からダメージエフェクトが散る。

 だが、HPは微減程度だ。

 どうやら、手を斬っただけじゃあ、ゼタニートみたいに即死はさせられないみたいだな!


「この野郎ッ!!」


 俺はナイフを掴んだまま、手が伸びている壁に魔剣を突き刺す。

 壁の向こうには、このナイフの持ち主がいるはずだった。

 俺が捕まえている以上、逃げることはできない……!


 はずだったが。

 ――手応えが、ない……!?


 壁をすり抜けて伸びていた手が、一瞬青く輝いて消えた。

 俺が掴んでいたナイフも消える。

 今のエフェクトは……!


「ブクマ石――《往還の魔石》のエフェクト! 逃げましたよ、先ぱ――」


 チェリーの言葉が止まる。

 その目は、上のほうに向いていた。

 俺はその視線を追う。


 天井近くにある、牢獄みたいな小さな窓。

 その向こうから――


 ――まるで感情の窺えない、闇を固めたような双眸が、俺たちを見下ろしていた。



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