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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅲ - 最強カップルのVR子育てライフ

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第115話 パパ、よわーい


 翌日は忌まわしき月曜日だった。

 一介の高校生である俺は当然、真面目に登校して、しっかりと授業を聞き流していた――

 いや、授業はとりあえず録画しといてテスト前に適宜見返す派なだけで、まったく無視しているわけじゃない。

 それよりも重要な会議が、グラスモードのバーチャルギアのレンズ上で行われているだけのことだ。


〈メイアちゃんは一応レベル1ですけど、人格も体格もまだ幼いですからね。何から始めるのがいいでしょう?〉


〈普通の初心者プレイヤーみたいにとりあえずスカノーヴスの森へってわけにはいかないだろうな。エルフの弓剣の性能チェックも兼ねて、アグナポットのトレーニングルームで練習するのがいいと思うが〉


〈やっぱりそんなところですか〉


〈装備も揃ってないしな。セツナたちが見つけてくれたらいいんだが〉


 メイアの育成計画に関する会議だった。

 いつか直面する戦いに備えて鍛えるって言ったって、俺たちもNPCの、それも幼い子供を育てるなんて初めてのことだから、探り探りなのだ。


〈安全性のことを考えたら、パワーレベリングもアリだと思う〉


〈うーん。普通だったら、レベルと実力に開きができちゃうので、あんまりよくないんですけどね〉


〈そこは俺たちがしっかり見ておけばいい〉


〈俺たちが、とか言ってますけど、私が、でしょう? 先輩がしっかり見ておくなんてできるわけないじゃないですか〉


〈失礼な奴だな。できるっつーの〉


〈実績が見当たりませんけど〉


〈お前というクソ面倒な奴の面倒を今まさにしっかり見てる〉


 と返すと、返信までにやや間があった。


〈先輩に面倒を見てもらった覚えはありません!〉


〈ああ、そう。それじゃ、UO姫とひっどい喧嘩してボロボロ泣いてたのを一晩中慰めてやったのは俺の思い違いか。悪い悪い〉


 しばらく待っても、返信は来なかった。

 ちょっと嫌味すぎたか?

 と思っていると、他の奴からメッセージが来る。


〈お兄ちゃん。今、もしかして桜ちゃんと喋ってる?〉


 レナだった。

 我が妹はチェリー――真理峰のクラスメイトなのだ。

 俺はすぐに返信した。


〈喋ってないぞ。授業中だろ〉


〈えー? 桜ちゃん、机の下見てすっごい楽しそうな顔してるけどなー〉


 ……コイツの言うことは当てにならん。

 カップリング厨が口走ることは8割妄想。


〈今日、クラスで、というか学年で、話題になってるんだよね。桜ちゃんが妙に機嫌良さそうって〉


〈機嫌情報が学年レベルで話題になる奴なんているか〉


〈それがいるんだなー。桜ちゃんとか、お兄ちゃんとか〉


 ……俺の機嫌情報、学年レベルで話題になってるの?


〈とりわけ桜ちゃんはね、いつも注目の的なんだよ。ほら、もう、笑っちゃうくらい可愛いからさ〉


 まあ。

 あいつが常軌を逸した容姿をお持ちなのは認めるが。


〈学園のアイドルって実在したんだーって思うよね。そして、それとこっそり付き合ってるぼっち男子も実在したんだーって思うよね〉


〈誰がぼっち男子だよ〉


〈別にお兄ちゃんのことだとは言ってないけど〉


〈じゃあ誰〉


〈引っかかった引っかかった。嫉妬してるー! キャー!〉


 んぐ。

 こんな初歩的な誘導に引っかかるとは。


〈別に嫉妬はしてない。昨日も説明したけど、本当は彼氏とかじゃないんだって〉


〈はいはい。ただのゲーム友達ね。わかってるわかってる〉


 絶対わかってねえ。

 もう一回ちゃんと説明すべきだろうが、そしたら今度は『どんな風に出会ったの?』とか『どんなことしたの?』とか根ほり葉ほり聞かれるに決まってるからな……。

 最悪、『マギックエイジ・オンライン・クロニクルって本に大体書いてあるから読め』で済みはするが、あの本もあの本で脚色があるわけで……。


〈あ〉

〈お兄ちゃん、桜ちゃんから返信来てるんじゃない?〉


 え?

 確認してみると、本当に返ってきていた。

 さっきの、俺の嫌味なメッセージに対して――


〈あのときのことは、ちゃんと感謝してます〉


 ――と。


「……っ!」


 やめろよな。

 冗談のつもりだったのに、本気で返してくんの。

 不意打ちになるから。


〈えー。こちら桜ちゃん実況席。桜ちゃんは現在、何かを激しく後悔したかのように、机に顔を突っ伏しています! 耳が赤いように見えますがこれは!?〉


 これは!? じゃねえよ。

 ただの自爆テロだ――俺だけを巻き込んだ。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「あっ! お兄ちゃん! こっちこっちー!」


 昼休み。

 南校舎の裏手にある木陰のベンチにはひと気が少ない――というのは、レナの情報だった。

 行ってみると、確かに他に人は見当たらず、さらさらと葉ずれの音だけが満たしていた。

 まあ、冬だし、寒いし、わざわざ外に出てくる奴は少ないよな。


 レナの声に呼ばれていくと、寒風の吹き抜ける木陰には、すでに真理峰も顔を揃えていた。

 黒髪になって、冬の制服になると、なんというか……いきなり儚げな印象になるよな、こいつ。

 枯れた木を悲しげに見上げるのが似合いそうな感じ。


「来てしまったんですか、先輩……」


 この台詞も、まるで結末は悲劇だと知りながらも真理峰を助けずにはいられなかった俺が、街中を方々探し回ってようやくの思いで真理峰を見つけ出したシーンのそれみたいに感じられる。

 たぶんここからなんだかんだと問答が始まって、最終的に真理峰が泣き笑いをしながら告白する流れ。

 ……まあそれも、先輩を先輩とも思わない『うげー』という表情がなければの話だが。


「まさか、先輩と学校でお昼を食べる日が来ようとは思いもしませんでした」


「まったくもって同感だな」


「そのうちさ、こんなにこそこそしたりせずに、いきなりどどんと堂々に一緒にお昼ご飯食べてみてよ。たぶん学校中大騒ぎになるよー。にゅふふ」


「「絶対嫌!」」


 学校内では没交渉。

 それが俺と真理峰との不文律だった。

 その不文律がこうして破られたのには、もちろん事情がある。


「六衣の連絡によれば、そろそろ来ると思うんだが……」


 と。

 ちょうどそのとき、『事情』が背中にぶつかってきた。


「どーんっ!」


「うおっ!?」


 後ろを見ると、背中に緑がかった金色の頭がへばりついている。

 ARモードのメイアだった。


「へへー! パパみっけー!」


「……いきなりぶつかってくるのはやめてくれ」


「やだっ♪」


 満面の笑みで拒否られた。

 子供はずるい。

 メイアは俺の向こう側を覗き込み、


「あー! ママもみっけー! どーんっ!」


 と、やはり突撃してゆく。

 バーチャルギアを掛けた真理峰は、それを優しく受け止めた。


「見つかっちゃったね。メイアちゃん、一人で大丈夫だった?」


「大丈夫だったよー! 六衣お姉ちゃんは、なんだかすごく心配そうだったけど!」


 俺たちがMAOに入れない間は、当初の予定通り、六衣に面倒を見てもらっていた。

 と言っても、六衣も四六時中ヒマなわけじゃないので、あの旅館の宿泊客たちが代わる代わる少しずつ相手をしている、という感じみたいだが。


 俺たちも任せっきりにしてばかりいられないので、昼休みくらいはメイアを引き受けよう、ということになったのだ。

 幸い、メイアはMAOからログアウトすると、自動的に俺の近くに現れるらしい。


「ふーん?」


 メイアは真理峰に抱きついたまま、きょろきょろとあちこちを見回した。


「ママ、ここどこ?」


「ここはね、『学校』だよ」


「『がっこー』?」


「そう。ママとパ……パパが、お勉強してるところ」


 真理峰が声を詰まらせると同時、俺も反射的に顔を逸らした。

 レナがにやあと笑って肘でつついてくる。


「パ・パ♪」


「……うるさい。お前に言われるとムカつく……!」


「きゃーっ! パパがいじめるー♪」


 レナが楽しそうに俺から逃げて、卑怯にもメイアに助けを求めた。


「パパがおばさんをいじめてくるよー。ひどいねー?」


「パパ、ひどーい!」


「あ、はい。ごめんなさい……」


 パパ、よわーい。


 ともあれ、昼ご飯だ。

 俺たちは並んでベンチに座り、それぞれの弁当を広げた。

 俺と真理峰、レナのはもちろん親が作ったわけだが、メイアのは――


「ふふふ……。じゃーん! ママ特製お弁当!」


「ひゃわーっ!」


 メイアが弁当を蓋を開けるなり、目をきらきらさせる。

 そう。メイアの弁当は真理峰の手作りだった。

 と言っても、もちろんMAO内の料理スキルで作ったわけだが、『メイアちゃんだけお弁当じゃないのは可哀想だ』と真理峰が言い出したのである。

 分けてやりたくても、俺たちの食い物はメイアには食べられないからな……。


「へえ~! MAOってこういうのも作れるんだねー! 凝ってるなあ……」


「そうでしょ! 毎日コツコツ熟練度を上げてきた成果だから!」


「へえ~。ところで、料理スキルの熟練度ってどうやってあげるの、桜ちゃん?」


「え? それはもちろん、料理をして……」


「作った料理はどうするの、桜ちゃん?」


「それは、自分で食べたり、食べさせたり……」


「毎日コツコツ誰に食べてもらったのかな、桜ちゃん!」


「……あーもう! 終了! もう終了! だからレナさんにはバレたくなかったのに!」


「へへへ~。ごちそうさまでした!」


「まだ一口も食べてねえだろ……」


 もはや一種の仙人だな、こいつは。


「メイアちゃん、お箸は使える?」


「おはし?」


「これを、こう持って……」


「んむむ……むずかしい……」


 そういえば、お箸って何歳くらいから使えるようになったんだっけ。

 冷静に考えると、よく使えるよな、こんなただの棒……。


 結局、お箸はおいおい練習していこうということで、メイアはフォークを握った。

 一応、真理峰も、フォークでも食べやすい献立を選んでおいたようだ。


「それじゃあ、お手てを合わせて?」


「こう?」


「そうそう。それで、『いただきます』って」


「いただきます!」


「よくできました!」


 真理峰とメイアの様子を眺めながら、兄妹でぼそぼそと囁き合う。


「桜ちゃん、見事にママが板についたね」


「ああ」


「お兄ちゃんは見事にパパが板につかないね」


「……あいつがおかしいんだよ」


 高校生が子供を押しつけられて、いきなりあんな風にできるか? 無理。

 レナはにまーっと邪悪な笑みを浮かべた。


「お兄ちゃんがパパだからあんな風にできるのかもね?」


「妄想は頭の中だけに留めとけ」


「妄想じゃないと思うけどなー」


 真理峰がメイアを甲斐甲斐しく世話するのを眺めながら、昼食の時間が過ぎた。

 非日常的な日常的光景。

 時間はあっという間に過ぎて、弁当を食べ終えて少しした頃に、予鈴が校舎のほうから聞こえてきた。


「ごめんね、メイアちゃん。ママたち、そろそろ行かないと」


「えー……」


 そうも露骨に寂しそうな顔をされると胸が痛む。

 授業くらいサボってもいいのでは? という誘惑が首をもたげるが、それをやり始めると歯止めが利かなくなるからな。

 MMORPGという世界には、バーチャルに人生を丸ごと呑み込まれたような奴がごまんと存在するのだ。


「……夕方になったら、一緒に遊ぼう」


 俺はそう言って、メイアの緑がかった金髪を軽く撫でた。


「それまで、六衣たちに構ってやってくれ。な?」


「……うん。かまってあげる!」


「よし」


 真理峰が恨みがましげな顔で俺を見上げていた。


「なんだよ」


「……別に? パパはいつもいいとこだけ持ってってずるいなーって思っただけです」


「漁夫るのは基本」


「ねー? パパずるいよねー?」


「パパ、ずるーい!」


「なんでもかんでもメイアに言わせるほうがよっぽどずるいからな!」


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