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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅲ - 最強カップルのVR子育てライフ
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第112話 ほのめかされる物語


 流された。

 それはもう、どんぶらこどんぶらこと、二人して。


 幸い、チェリーの身体は離さないでいられた。

 しかし、谷底の渓流は思ったより流れが速く、なかなか陸に上がることができなかった。


 そうこうしているうちに、辺りが真っ暗になる。


「洞窟……ですね……?」


「この渓流……どこに繋がってるんだ?」


 興味が出てきた俺たちは、下手に足掻かず、流れに身を任せた。

 そして、しばらくして、足が着くほど水深が浅くなる。

 じゃぶじゃぶと川から出たおれたちは、目の前に広がる空間を見渡した。


 ドーム状の、大きな地下空間。

 正面に見えるのは―――


「……遺跡……」


 そう。

 またしても、遺跡。

 しかも入口の両脇に、ドラゴンを模した像が設置されている―――


「……地下神殿……隠し神殿? ですか。また」


「神殿っつーか、竜殿っつーか……」


 ドラゴンが奉られた地下神殿。

 それを見るのは2回目だ。


「てっきり上流のほうに何かあるんだと思ってたんだけどな。ほら、目的を達成したあと、川を下れば早く帰れるみたいな」


「そっちにも何かあるかもしれませんけどね。意表を突いて逆、ですか……。私たちみたいに、うっかり川に落ちれば、必然的に見つけ出せますけど」


 位置的には、前線キャンプが張られた小山から見て手前側に、この隠し神殿は存在する。

 大抵のゲームは、奥に目的地があるものだ。

 手前側にあるとすれば、それは盲点を突いて隠したいもの……。


「入ってみよう。なんか重要そうだ」


「ええ。もちろんです!」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 隠し神殿の中では、《カース・スケルトン》なるモンスターが待ち受けていた。

 人型の骸骨モンスタ――の、呪転(カース)バージョン。


 死んでから呪転したのか?

 生きたまま呪転したのか?

 その判断はつかなかった。


 相変わらず手強かったが、俺とチェリーの二人ならば、撃退は可能だった。

 じわじわとポーション類を消費しつつ、探索を進めていく。


「呪竜遺跡前の地下神殿でも思いましたけど、状態がいいですね、この遺跡」


「あー。湖の古城は結構ボロボロだったもんな」


「呪竜遺跡だって、まるっきり壊滅状態でしたし。風雨に晒されてないからでしょうか……」


 少しひび割れが走っているくらいで、充分しっかりしている壁に触れながら、チェリーは呟いた。


「……そういえば、ですけど」


「うん?」


「前の地下神殿も、この隠し神殿も、入口が……狭いですよね」


「人間サイズを小さいというならそうだな。っていうか扉って大抵人間サイズだろ」


「そうじゃなくて、その扉がある空間の入口のことです。前の地下神殿は洞窟……この隠し神殿も、洞窟の中を流れてたどり着きました。

 ……入口が狭いんです。大きな身体の生き物――例えばドラゴンなんかは、入れないくらい」


 ……それは、つまり。

 あえてドラゴンが入れない場所に作られたってことか?

 あるいは……ドラゴンが入れない場所だからこそ、今日まで現存した?

 呪竜が我が物顔で闊歩していた遺跡を思い出す。


「やっぱり、そういうことなんですかね。この山の文明が滅びたのは――」


 たぶん、正解だろう。

 ドラゴンを神のように奉るこの山の文明は、しかし、ドラゴンによって滅ぼされたのだ。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 さらに奥へと探索を進めた。

 いい加減、ポーション類が心許なくなってきたから、そろそろ帰ることを考えなければならない。

 しかし、この文明の歴史がおぼろげに見えてきたことで、何もかもが気になってきて、なかなか一区切りつけることができなかった。


「先輩、これ見てください!」


「ん? ……ドラゴン像に、斧が刺さってるな」


「壊そうとしたけど、刃が通りきらなかった風に見えません?」


「壊そうとした? なんで?」


「壊したくなることがあったからでしょうね。無理だとわかってはいても、衝動のままに」


 衝動に任せた破壊。

 八つ当たり。


 こんな風な痕跡が、この隠し神殿には至るところに存在した。

 湖の古城と同じだ。

 かつて、この場所で何が起こったのか、それを一切説明せずに、ほのめかしているのだ……。


 神殿の中の結構な範囲を回ってみたが、ボスは見つからなかった。

 代わりに宝箱を見つける。

《カース・スケルトン》が3体も守りについていて、何やら重要さを感じさせた。


 それらを退けて、宝箱に手をかける。


「……あ」


「なんですか?」


「また罠外し用意すんの忘れた」


「何やってるんですか、もう!」


「お前は?」


「……………………」


「お前もじゃねえか!」


 仕方ない。

 またしても漢開封だ。

 何回繰り返せば気が済むんだ、この失敗。


 チェリーがナチュラルに一歩下がり、俺に押しつけようとしやがった。

 なのでその手をひっつかみ、宝箱に近付けていく。


「きゃあーっ! 先輩が無理矢理、乱暴に!」


「人聞きが悪い! 往生しやがれ!」


 最終的には後ろから抱きかかえるような形になり、逃げようとするチェリーを捕まえた。

 その状態でチェリーの両手を掴み――って。


 なんで俺たちはこんなに密着しているのだ。


 急に我に返った。


「…………………………」

「…………………………」


 ぎゃあぎゃあ騒いでいたのが、急に静かになる。

 とはいえ、今さら身体を離すのももったいな――ゲフンゲフン、変なので、そのままの体勢で、二人一緒に宝箱に手をかけた。


「「せーの!」」


 パカッ。

 開ける。

 ……トラップなし。


「なんだ。騒いで損しました」


「まったくだ」


「得したのは先輩だけですね?」


 胸の中から俺の顔を見上げて、にやっとするチェリー。


「はいはい。そうだな」


「にゃあっ!? お、乙女の脇腹を触りましたね!?」


 普通ならセクハラ行為扱いだが、生憎、チェリーが俺をセクハラ防止機能の例外に設定していることを、俺は知っていた。

 ……システムレベルで『触っていいですよ』と言われているという事実は、心のハードルを下げる。

 リアルならこんなことはできない。


 宝箱の中には、武器が入っていた。

 それも見たことがないタイプの武器だ。


「なんだこれ……?」


「剣、ですかね?」


 柄の両端に一つずつ刀身が付いた剣、あるいは薙刀。


「PSOのダブルセイバーみたいだな」


「寡聞にしてそれは存じ上げませんけど……とりあえず、すごく使いにくそうじゃありません?」


 宝箱の中から取り上げて、ストレージに入れてみた。

 アイテム名を確認する。


「えーと、《エルフの弓剣》……エルフ!?」


「えっ!? ちょっと見せてください!」


 チェリーも身を乗り出して、俺のストレージに表示されたその名称を確認した。


「エルフ……! 今まで設定にしか存在しませんでしたよね!?」


「おう。NPCどころか、アイテム名に出てくることもなかった……。大昔は人間と仲がよかったって話がちょくちょく出てくる程度だ」


 エルフやドワーフといった亜人系のキャラクターは、MAOプレイヤーが最も実装を待ち望んでいる存在の一つだ。

 だから狐耳美少女の六衣が人気を博したのだとも言える。


「《弓剣》っていうのも不思議な名前ですよね……。『ゆみけん』? 『きゅうけん』?」


「ちょっと装備してみ――あっ、くそ、できねえ」


 剣って書いてあるし、俺のクラスで行けるかと思ったんだが。

 俺とチェリーは二人して、《エルフの弓剣》を装備できるクラスを探した。

 しかし。

 手持ちのスキルで用意できるすべてのクラスを試してみたが、《エルフの弓剣》を装備できるものは、ただの一つとして存在しなかった。


「どうやったら装備できるんだ、これ……」


「何か別の条件があるんですかね……?」


 うーん、と行き詰まってしまった頃。

 ちょうどいいタイミングで、セツナから連絡が来た。


『ちょっといいかな? チェリーさんもそこにいる?』


「おう。渓流エリアのほうでダンジョン見つけたから、そこを探索してる」


『えっ、そうなんだ。相変わらず鼻が利くよね、君たち……。そっちも気になるけど、こっちも重要なんだ』


 セツナは言った。


『樹海エリアのボスっぽいのを見つけた。これから1回ぶつかってみるから、よかったら君たちも来てくれる?』



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