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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅲ - 最強カップルのVR子育てライフ

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第110話 互いに手の内を知りすぎた相手とは決着がつかない


「ほあー……」

「ふえー……」


 フェンコール・ホールのポータルから呪竜遺跡のポータルにワープした俺とチェリーは、ぐーっと頭上を見上げて口を開けていた。


 なんか、城、できてる。


 地下神殿に繋がる螺旋階段の入口――呪竜遺跡のポータルはその傍に出現したのだが、それを覆うようにして、古城風のお城が建っていた。


「まだ昨日の今日だよなあ……?」


「さすがに上の方は工事中みたいですけど」


 確かに、上の方にはまだ高所作業用の足場が張り巡らされている。

 それでも充分立派な城なんだが……。


「人類圏外の目と鼻の先ですからねー。まずは防備をってことでしょうか」


「だろうな……」


「あっ、スカートの女の人が上に」


「えっ?」


「嘘です」


「………………」


「スケベなパパですねー? メイアちゃんに言っちゃいましょうかー。ぷくく!」


 俺は無言でチェリーの鼻を摘んだ。


「ふぎゃーっ!? ふぁにしゅるんでしゅかしぇんぱい!」


「なんか調子乗ってる風だったから」


「の、乗ってませんし? 乗るわけないじゃないですか、ママって呼ばれたくらいで……」


「誰もそれが原因だなんて言ってねえけど?」


「………………」


「うぎょっ!? ひゃめろーっ!!」


 ぎゅううううっと鼻を抓られる俺。

 もげるもげる!!


「こんなことやってないで、さっさと圏外行きますよ、先輩。このお城があるとはいえ、ポータルが危険な位置にあることには変わりないんですから! さっさと最前線を上げてしまわないと!」


「はにゃをはにゃせ!」


「はいはい。はにゃはにゃ」


「いでででで!!」


 鼻を摘まれたまま連行される俺。

 ここまでされるようなこと言ってないだろ!




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 呪竜遺跡の最奥。

 長い長い階段を上った先にある祭壇。

 かつて巨大な磨崖竜――ダ・モラドガイアがいた場所の先に、道が伸びていた。


「……この先か」


「……ですね」


 その道は、どうにも昨日突然できたもののようには見えない。

 元からあったものが姿を現したという感じだ。

 つまり、ダ・モラドガイアが、この道をその巨体で塞いでいたわけで……。


「ま、いま考えても仕方ない。さっさと行くか」


「昨日は丸々ダンジョン攻略とボス戦で疲れましたし、今日はまったりモンスターを狩りながら探索しましょう!」


 うむ、それがいい。

 あんなのは週1くらいで充分だ。


 俺たちは崖に挟まれた道を歩いていく。

 緩やかな登り坂になっているそれを、延々、延々。

 思ったより長いな……と思い始めたとき。

『それ』が眼前に現れた。


「……うおーう」


「どういう反応ですか、それ」


「いや、実際目にすると結構こえーな、と思ってさ」


 真っ黒な壁だ。

 ただ黒いってわけじゃなくて、沼のように波打ち、シャボン玉のように模様が変わる。

 あからさまな、異空間の壁。


「確かに……これに最初に突っ込んだ人は、勇気がありますよね」


「ゼタニートらしいぞ」


「……ああ……」


 チェリーは納得の声をあげると、一歩後ろに引いた。


「では、お先にどうぞ、先輩」


「いや、なんでだよ! 一緒に行けばいいだろ!」


「まーまーまー! まーまーまーまー!!」


「うおっ! お、押すなって! ちょっちょっちょおっ――――!!」


「きゃっ!?」


 チェリーに黒い壁の中に押し込まれようとした寸前、俺はチェリーの腕を掴んだ。


「ぐわははは!! お前だけ生かして帰すものか……!! 俺と同じ墓に入ってもらおう!!」


「先輩っ、それちょっと違っ―――」


 目眩のような感覚があって、視界がいったん真っ暗になった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「お……」

「……ん……」


 目を開けると、夜空だった。


「え?」


 今って、まだ夕方にもなってないはずだよな?

 おかしく思ってよくよく見てみると……。


「……黒い、空……?」


 夜空というより、それは黒い空。

 星が瞬くこともない、のっぺりとした漆黒の天蓋。


「ったたたた……もう、先輩! なんてことするんですか!」


 俺の身体の上で、チェリーが起き上がった。


「人を道連れにするなんて、ノーマナーですよ、ノーマナー!」


「ほほう。マナーか。往来の真ん中で男の腹の上に座るのも淑女のマナーというやつかね」


「あっ……!」


 ようやく状況がわかったらしかった。

 仰向けに倒れた俺の腹に、チェリーが跨っている状態なのだ。

 まあこの状態になったのは100パー俺が悪いんだが。


「……いっ、いえ。別にやましいことをしてるわけじゃありませんし、私は先輩のお腹の上に乗っていてもノットノーマナーです」


「謎の強情! 遠回しにどけって言ってんの!」


「先輩の京都人!」


 謎の罵倒を飛ばしながら、チェリーは「んしょ」と俺の上からどいた。

 俺は立ち上がり、周囲の光景を見回す。


「これはまた……」


「噂通り、おどろおどろしい場所ですね……」


《呪転領域ダ・ナイン》。

 それがこのエリアの名前だ。


 地形そのものには自然を感じられる。

 つづら折りの峠道が、ぐねぐねと延々、山のてっぺんへと向かっているのだ。


 しかし、そのすべてが黒かった。

 舗装のない地面も、ごつごつした岸壁も、ところどころに生えた草木も。

 何もかもが、カビにでも覆われたように黒ずんでいる。


 これまでもボスの名前にたびたび現れた《呪転》という言葉が、具体的にどういう現象なのかは知らない。

 しかし、この光景を見れば、ろくでもないものであることは一目瞭然だった……。


「なんだか気が滅入ってきますね……」


「葬式の会場にいるみたいだ」


「先輩、装備が黒っぽいから馴染んでますよ」


「そういうお前は死ぬほど浮いてる」


 チェリーの装備は紅白色なのだ。


「ふふん。可愛いママの姿が際立ってよかったですねー、パ・パ?」


「……お前、そういうの自分で言う?」


「先輩も、別にいいんですよ? ママって呼んでくれても」


「…………絶対やだ」


「えー? 遠慮せずに」


「絶対やだ!」


 顔を逸らして断固たる意志を示すと、チェリーはくすくすと笑った。


「たまに可愛いところありますよね、パパは」


「だからやめろ!」


「あははっ!」


 ……ダメだ。

 放っておいたら無限にからかわれる。

 早いとこ探索を始めてしまおう。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 パッと見たところ、目の前のつづら折りの峠道しか道が見つからなかったので、それをひたすらに上った。

 途中、モンスターに遭遇する。

 マウンテンゴブリン――ナイン山脈エリアじゃよく見るモンスターだったが、今回、俺たちの前に現れたそいつは少し違っていた。

 身体が黒い。


《マウンテンゴブリン・カース》。


 キャラネームにはそうあった。


「――っし! やっと死んだ……。普通のマウンテンゴブリンよりずいぶんと堅かったな」


「呪転とやらをすると強くなるんですかね?」


 エリアだけじゃなく、モンスターも呪転してるってことだ。

 おそらく、遺跡にいたドラゴンがみんな《呪竜》だったこととも無関係じゃない。

 この呪転領域に近い場所だったから、その影響を受けてみんな呪転してたってことか……。


「……先輩。この壁見てください」


「ん?」


 チェリーが横合いの岸壁を指さした。

 そこには、三本並んだ大きな溝が……いや……?


「傷跡……爪痕か?」


「そう見えますよね?」


「だとしたらかなり大きな……」


 自分で言いながら気付いた。


「……ドラゴンか?」


「でしょうね……。この山はもともと、たくさんドラゴンが住んでいた土地だったんでしょう」


「それが丸ごと呪転した、か……」


 それは、自然に起こったことなんだろうか?

 それとも……。


「……一番上まで登ってみれば何かわかるかもしれないな。とにかくさっさと上まで行こう」


「えー。疲れましたー。運んでくださーい、せんぱーい」


「……………………」


 わかっている。

 わかっているぞ。

 俺を困らせたいだけで、本当に運んでほしいなんて欠片も思っちゃいないのだ。

 だからこそ。


「わかった。ちゃんと掴まれよ」


「えっ? ……わっ!?」


 お姫様だっこにしてやった。


「ばっ、ちょっ、先輩っ! ばかばかばかっ! な、何やってるんですかあっ!? ここ、他のプレイヤーも通るんですよ!?」


「他に誰もいなきゃこれでもいいのか?」


「そ、それは……でもその、モンスターが出たら……」


「そんときは落とす」


「鬼畜! 鬼畜眼鏡!」


「こっちでは掛けてねえし、昼はお前もそうだったろ!」


 鬼畜眼鏡っ娘め。


「……ったく……」


 不満そうにぶつくさ言いながら、チェリーは俺の首に腕を回してきた。


「……降りないのかよ」


「降りてほしいんですかー? 先輩がやり始めたのにー?」


 くっ……!

 お互いに思考回路を知りすぎている。

 どういう対応をすれば相手が困るのかわかりすぎていて、決着がつきそうにない。


 やれやれ……。

 これは、俺が折れるしかないか。


 ―――と思ったときほど、折れたくなくなるんだよなあ!


「うおおおおおおおおおっ!!!」


「きゃああああああああっ!!?」


 俺はチェリーをお姫様だっこしたまま全力でダッシュした。

 そのおかげで、予想より早く峠道を登り終えたが、その先に集まっていた最前線組の一団にすっげえ変な目で見られることになり、俺たちは揃って羞恥心に悶えた。


 引き分けで手を打とう。


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