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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅲ - 最強カップルのVR子育てライフ

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第108話 なりすましにはご注意を


「メイアちゃんが……」

「成長……」


 一同の視線が、真理峰の膝の上にいるメイアに注がれた。

 見た目3~4歳のメイアは、少し怯えて真理峰の胸元にしがみつく。


「たぶん、クエストを進行させたら何かイベントがあるんだと思う。だから、とりあえずメイアについては様子見かな、と俺は思ってる」


 と、俺は自分の意見を締めくくった。


「なるほどね……」


 こくこくと頷いてみせたのはセツナだ。


「じゃあ、何はともあれ、次のエリアを攻略しないとね……」


「おう。もう誰か突っ込んだのかな? 解放されたんだろ、呪竜遺跡の先」


「まあね。ゼタニートさんとかは昨夜行ってみたみたいだよ」


 ガハハと笑う巨漢の廃人が脳裏に浮かぶ。

 あのボス戦の後でかよ……。


「なかなかすごいことになってるみたいだよ、次のエリアは。スクショもあるけど……いや、お楽しみに取っておこうか」


 セツナは意味深ににやっと笑った。

 おのれ。

 その茶目っ気でさぞ多くの女性リスナーを熱狂させてあそばされているんだろう。


「皆さん、午後はログインされるんですか?」


 ろねりあが尋ねて、俺が頷いた。


「そのつもりだけど。メイアを六衣に預けて、その新エリアってやつに入ってみようと思ってる」


「チェリーさんと?」


 レナがにやにや笑って訊いてきて、真理峰がぴくっと肩を震わせる。


「……まあ、たぶん」


「ふーん? 仲良しだよね~」


 真理峰がそれとなく目を逸らした。

 異議を申し立てるのを堪えているのかもしれない。


「付き合ってるからね。当然じゃないかな」

「そうそう。お付き合いされてますからね?」

「彼氏彼女ならどこでだって一緒にいたいもんねー! っていうか彼氏彼女でもないのにいつもいつでも一緒にいるわけないもんねー!」


 こいつら……!

 こっちが反論できないと思って、ここぞとばかりにいじってきやがる!


「……へー。お兄さん、彼女さんがいらっしゃるんですか?」


 !?

 まさかの本人まで絡んできた!


「意外ですねー。どんな方なんですかー? どういうところが好きなんですかー? ねえねえねえ」


 お前それ、俺が本当に答えたら自分もダメージを被るやつだろ!

 自爆戦術やめろ!


 この窮地をどう切り抜けるか悩んでいると、カランコロン、と冒険者会館の入口が開いた。


「こんにちは」


 という控えめな声に真理峰が振り向いて、


「なっ……!?」


 腰を浮かしかけたが、メイアが膝にいるのでできなかった。

 なんだ?

 俺は不審に思って、会館に入ってきた奴を見た。


 女の子だ。

 フリル多めのワンピースを着た、しかし地味めな印象の女の子。

 掛けている眼鏡が地味に見せるんだろうか?

 それとも猫背気味だからか。


「……んー……?」


 どっかで見たような……?

 ダメだ、思い出せん。

 ゲームん中ならともかく、リアルの人間の顔は全然覚えられないタチなのだ。


 でもやっぱ見覚えあるんだよなー、と思いながら眺めていると、なんとなく胸の辺りに目がいった。

 ……でかっ!?

 なんだあのゲームのキャラみたいな胸!

 さすがに、あんな巨乳の持ち主とはそうそう会ったことが―――


「あっ!?」


 俺は思わず立ち上がった。

 思い出した。

 そうだ、前もここで会ったんだ!


 バレンタインの夜……突然ここに現れて、本命だと言ってチョコを……。


 眼鏡で巨乳の女の子は、しずしずとした足取りでこっちに近付いてくる。

 いや……こっちっていうか……。

 俺?


「ケージさん」


 女の子はにっこりと俺に笑いかけた。


「こっちで会うのは久しぶりですね?」


 こっち?

 こっちっていうのは……リアルのことか?

 いやでも、バレンタインってせいぜい2週間くらい前のことだし……久しぶりって言うほどのものでも。


「ねえねえお兄ちゃん、どちら様?」


 俺の服をくいくいと引いたレナに、女の子は「あっ!」と声を上げて向き直った。


「こっちでは初めましてです、レナさん!」


「……あれ? あたし会ったことある?」


「アバターとは全然違うので、わからないかもしれませんね」


 そして、その女の子は。

 一点の曇りもないにこやかな顔で。

 しれっと、とんでもないことを言った。




「わたしです―――チェリーです!」




 沈黙が漂った。


「「……………………は!?」」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「えっ?」


 レナはぱちくりと目を瞬いて、眼鏡を掛けた女の子を見つめた。


「……チェリーさん? リアルの?」


「はい。ケージさんからこちらにいると聞いたので、会いに来ちゃいました」


 レナの目が俺に移る。

 え、えー……?

 まったく身に覚えがないんですけど。

 っていうか誰なの、この子!?


 視界の隅で、真理峰が慌てた様子でバッグに手を入れた。


〈騙されないでください、先輩!〉


 いや、うん。

 本人そこにいるし、俺はどうやったって騙されないけど。


〈前は言いませんでしたけど〉


 続いてメッセージが飛んできた。


〈その女、媚び媚び姫のリアルです!〉


「ふおっ!?」


 驚きすぎて変な声出た。

 UO姫?

 この眼鏡掛けた子が?

 マジで?

 背もどっちかといえば高い方だし、似ても似つかん……(胸以外)。


〈ホントに今まで気付かなかったんですか!? あからさまにオタサーの姫してますってツラじゃないですか!〉


 うーむ。

 確かにそう言われてみると、地味な印象といい、そのくせフリルがついてる服といい、それっぽい部分はたくさんある。

 UO姫のアバターがファンタジーなオタサーの姫なら、こっちはリアルなオタサーの姫っていうか……。


 いや、しかし、だとしたら。

 今、UO姫がレナに対してチェリーのフリをしてるってことか?


 ……一昨日のことを思い出す。

 UO姫は、チェリーの代わりに自分が彼女のフリをすることを提案していた。

 その提案は、結局突っぱねて……その後、まあいろいろと残念な事件があったわけだが。

 まさか、諦めてなかったのか、こいつ!


「リアルでも会えて嬉しいですぅ~! レナさんはアバターと全然変わらないんですね~!」


 やべえ、チェリーを完コピしてきてる。

 喋り方とか仕草とかマジでそのまんま。


〈私あんなのじゃありませんから!〉


 いやいや、あんなのだから、お前。


「えーと……」


 レナはなぜかちらちらと目を泳がせた。


「……あー。あたしも会いたかったです、チェリーさん! 背、結構高いんですね!」


「あ、はい。よく言われます。だからアバターは小柄にしたんです。ちょっとあざとくなっちゃいましたけど」


 あたかも自嘲するかのように言っているが、俺たち視点では単なる真理峰への煽りである。

 真理峰がものすごい目でUO姫リアルを睨みつけ、膝のメイアが少し怯えていた。


 そ、そろそろ言った方がいいのでは……?

 そいつはチェリーじゃないぞって……。

 今ならまだ冗談で済ませられるのでは……?


「ケージさん」


 などと迷っているうちに、先手を取られた。

 リアルUO姫は、俺に近付くと、ちょっと恥ずかしそうにはにかむ。


「……えへ。リアルで会うの久しぶりなので、ちょっと緊張しますね」


「……お、おう」


 あ゛っ。

 しまった。

 曖昧ながらも肯定してしまった。

 真理峰から憤怒を意味するスタンプが弾幕のごとく連射されてくる。


 リアルUO姫はさらに距離を詰めてきた。

 甘い匂いが鼻をくすぐり、胸の先端が当たりそうになる。


「(……ケージ君)」


 そして、他の誰にも聞こえない声で、UO姫として囁きかけてきた。


「(バラしたら、わたしもバラしちゃうからね? そこにいるチェリーちゃんのこと)」


 ひえっ。


「(あと、今日はわたし、このままなし崩し的にケージ君の家に泊まるつもりだから。いろいろ覚悟しておいてね?)」


 ひえええええっ……!

 い、いろいろ奪われちゃう……!!


「(……ミミさん、行動力すごいな……)」

「(わたし、あんなの絶対できませんよ……)」

「(ショーコもあのくらいぐいぐい行った方がいいんじゃない?)」

「(そうそう! 案外行けちゃうよ! そのおっぱい使ってけ!)」

「(……む、無理だよぉ……!)」


 後ろで野次馬どもがひそひそ話している。

 助けてくれる気はなさそうだった。


「……あっれ~?」


 リアルUO姫はすっと俺から身を離すと、ずっと黙っている真理峰に流し目を送った。


「他の皆さんは見たことあるんですけどぉ~、そちらの方はどなたでしょうかぁ~?」


 うわあ。

 エグい。


 リアルUO姫は椅子に座ったままの真理峰に近付いて、にっこり笑顔で見下ろす。


「初めまして。()()()()()()()()()()()()です」


『ケージさんの彼女』と『チェリー』を殊更に強調して、リアルUO姫は当の真理峰にぬけぬけと名乗った。

 真理峰はひきつった笑顔を取り繕う。


「ど、どうも……。真理峰桜です……」


「レナさんのお友達ですか?」


「……はい」


「へ~。ケージさんの妹さんの、た・だ・の、お友達ですか~。へ~」


 アクセル全開だあ!!

 言葉のバーリトゥード!!

 ここぞとばかりに煽っていく!!


 真理峰はぷるぷると震えながらも、必死に表情を繕っていた。

 表面上はにこやかに挨拶を交わしただけなのが余計に怖い。


「あ」


 リアルUO姫が、真理峰の膝の上にいるメイアに気付いた。

 あの眼鏡、バーチャルギアか。


「こんにちは、メイアちゃん。現実に出てきてるって本当だったんですねー」


 ……UO姫はメイアが見つかった場面にはいなかったはずだし、名前を付けた場面にもいなかったはずだが、おおよその事情を承知しているらしい。

 なんなのその情報力。こわっ。


「ケージさんがパパってことは、私がママってことになっちゃうんですかね? ねえ、ケージさん?」


 水を向けられたが、俺は無言を通した。

 何を言っても後で殺される。

 UO姫は気にした風もなく、メイアに手を伸ばした。


「私だよ、メイアちゃん。チェリーだよ~。ママって呼んでもいいよ? なんてね! ……ほら、おいで?」


「んう~?」


 興味をそそられたのか、メイアは小さな手でUO姫の手を掴もうとした。

 しかし。


 その寸前に、チェリーがメイアを抱いて立ち上がった。


 あ、ヤバい。

 嫌な予感がする!


「まっ―――」




「―――チェリーは私ですっ!! MAOで先輩といつも一緒にいるのも私だし、同じ家に住んでるのも私だし、かっ、彼女なのも私ですっ!! 横からかすめ取ろうとするなっ、ばかあああああっ!!!」




 ……ああ……。

 まるで駄々っ子だった。

 真っ赤な顔で、半泣きで、真理峰は洗いざらいぶちまけた。


 理性の欠片もない真理峰の蛮行に、UO姫はフリーズしている。

 問題はレナの方だ。

 果たして、この混迷した事態をどう説明するべきか―――


「……ぷッ! あはっ……あっははははははははっ!!」


 と思いきや、レナはなぜか爆笑した。

 ……は?

 何、その反応?

「ひーっひーっ!」と呼吸困難になるレベルで一人笑っているレナを前に、今度は俺たちの方がフリーズする。


「ぷっはははは……!! ご、ごめんね、桜ちゃん、お兄ちゃん! あたしも白状する!」


 目尻の涙を拭いながら、我が妹は今までで一番とんでもないことを言った。


「実は、最初から気付いてた! チェリーさんが桜ちゃんだって! でも面白かったから知らんぷりしてた! ごめんね☆」


 …………………………………………………………………………………………………………は?


「「はああああああああっ!?!?」」



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