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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅲ - 最強カップルのVR子育てライフ

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第106話 現代的内緒話


 翌朝。

 日曜日である。


「……ん……?」


 なんか、鳴ってる……?

 音楽……?

 なんだっけ、これ……。

 デデッデッデデン、って……。

 ああそうだ、ターミネーターのBGMだ……。

 昨日、冗談で、真理峰の奴から着信があったときはこれが鳴るように設定したら、あいつ、すげえ怒って……。


 ……ん?

 真理峰?


「……!!」


 俺は慌てて手を伸ばし、端末を掴んで耳に当てた。


『アイルビーバック』


 渋みの欠片もない声が、電波の向こうで言う。


「……悪りぃ、寝てた……」


『だと思ったからモーニングコールしたんです。2日連続で起き抜けに私の声を聞けるとは幸せ者ですね、先輩』


「そういや昨日もだっけ……」


 昨日はMAOの中で寝たんだよな。

 それで……。


「……あー」


 腕を伸ばしても、抱きしめられる場所に真理峰はいない。


『そんなに探しても、私はそこにはいませんよ?』


「……!?」


 なぜわかった!?

 くすくす、と電話の向こうの真理峰は笑う。


『病みつきになりました? 私という抱き枕に』


「……うるせー……」


『そんな私依存症の先輩に朗報があります。カーテンを開けて、窓の外を見てください』


「あー?」


 俺は端末に耳を当てたまま、グラスモードのバーチャルギアを掛ける。


「……すう……すう……」


 ちょうど俺の横の位置で、メイアがすやすやと眠っていた。

 昨日は、こいつが寝つくのを見届けてから眠ったのだ。

 ギアも着けたまま寝るつもりだったけど、無意識に外してたみたいだな……。


 窓際まで歩いて、カーテンを開ける。

 ったく、なんなんだ、朝っぱらから。

 窓の外だっけ?


 窓の外を見て。

 家の前を通る道を見下ろして。


「んなっ」


 そこで、端末を耳に当てたそいつと目が合った。

 黒い髪を朝日できらきらと輝かせるそいつは、俺の方を見上げて小さく手を振る。


『おはようございます、先輩♪』




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「いらっしゃい、桜ちゃん! 入って入って~!」


「お邪魔します」


 1階に降りると、ちょうどレナが真理峰を出迎えているところだった。

 リビング前の廊下をレナに連れられて歩いてきた真理峰は、まるで初めて気付いたような顔をして俺を見上げた。


「おはようございます、お兄さん。朝から押し掛けてすいません。……寝癖、ついてますよ?」


「あっ……ああ……」


 頭の右を押さえる。


「逆です。こっち」


 そう言って、真理峰は俺から見て左側を押さえた。

 真似をして頭の左を押さえると、真理峰は「はい」と言ってにっこりと笑う。


 レナと一緒にいるときのこいつは本当にキャラが違う。

 ユーモアも解し、誰であろうと分け隔てなく接する完璧な優等生という趣だ。

 でも、わざわざレナの前でこういうやり取りを振ってくる辺り、根底の意地悪さはまるで変わっていない。


「顔洗って着替えてきなよ、お兄ちゃん。っていうかよく起き抜けの格好で妹の友達の前に出てこられるね。我が兄ながらなかなかの図太さだよ」


「お、おう……そうだな」


 いや、なんていうか、まだ頭が追いついてない。

 なんで真理峰がここにいる?

 まあ、レナの友達として俺の家に遊びに来たことなら、1回や2回じゃあないんだが、なぜこのタイミングで……しかも一人で。


「とりあえずリビングいこっか、桜ちゃん」


「はい。……では、お兄さん、また後で」


 と言ってリビングに入っていく真理峰の手は、肩に掛けたバッグにそっと忍ばされていた。

 俺の端末が震える。


〈メイアちゃんを連れてきてください〉


 メッセージアプリを通じて、そんな指令が送られてきていた。


「……そういうことか」


 現実でメイアに会ってみたかったが、俺の家にはレナがいるから、とりあえずレナの友達として家に潜り込んだわけだ。

 ゆうべの今朝で、フットワークの軽い奴だ。


「仕方ねえなあ」


 確かに、MAOに戻る前に、現実側で調べたいこともいくつかある。

『レナの友達としての真理峰桜』がメイアのことを知っておくのには、メリットがあるかもしれなかった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「お兄ちゃん! メイアちゃんって今もいるの?」


 素知らぬ顔でリビングでパンを食っていたら、折り良くレナの方から話を振ってきた。


「ん、ああ。今パン食ってる」


 メイアは俺の膝の上に座って、コッペパンをかぷかぷ食べている。

 MAOから持ってきたパンだ。

 メイアが現実に現れて以来、俺はMAOのインベントリからいくつかのアイテムを現実側に持ってこられるようになっていた。

 もちろん、それらもARである。


「どれどれ……おー」


 レナは自分のギアを掛け、メイアを見て謎の感心をした。


「なんかいいなあ。妹ができたみたい!」


「姪っ子じゃなかったのか、レナおばさん」


「姪もいいけど妹も欲しいー!」


 そこで真理峰が口を挟んだ。


「それってバーチャルギア? レナさん持ってたっけ?」


「この前買ったんだよー! 桜ちゃんは持ってるんだっけ?」


「うん、まあ。ARグラスとして使ってるから、VRの方はあんまりだけど」


 しれっと友達に大嘘をぶっこく真理峰。

 真理峰はバッグから眼鏡ケースを取り出し、中から自分のギアを出した。


「何か見えるの?」


「きっと驚くよー! いいよね、お兄ちゃん!」


「ん、ああ、別に」


 そのために連れてきてるからな。

 真理峰はギアを掛けて、こっちを見た。

 割と珍しい眼鏡っ娘モードだ。

 ……ほんと、どんな格好しても似合いやがるな、こいつは。


「あっ! 女の子がいる!」


 まったく大した演技力で、真理峰は完全に初見のフリをしてメイアに驚いてみせる。

 その後、レナがメイアについてざっくりと説明した。

 当然、真理峰にとっては全部知ってることなんだが、これも「ふんふん」「へー」と興味深そうな相槌を打ちながら聞いていく。


 なんか怖くなってきた。

 お前、俺と喋ってるときもその演技力使ってたりしないだろうな……?


 俺が名状しがたい恐怖に怯えているうちに、レナと真理峰がこっちにやってくる。


「初めまして、メイアちゃん」


「…………?」


 俺の膝の上にいるメイアは、不思議そうに小首を傾げた。

 初めて見る人間に戸惑っている……というよりかは、『何を言ってんだろうこの人』という顔だった。


 あれ。

 もしかして。


「私は真理峰桜って言って―――」


「ちぇりー!」


 と。

 メイアは真理峰を見ながらそう言い放ち、きゃっきゃと嬉しそうに笑った。

 俺たちの空気が凍った。


 レナが首を傾げる。


「ちぇりー? ……チェリーさん?」


「――あー! チェリー! さくらんぼか! さくらんぼが食べたいんだな! ほら!」


 俺は慌ててインベントリからさくらんぼを出して、メイアに与えた。

 メイアは嬉しそうにそれをくわえる。


「……さ、さくらんぼが好きなんですね~。英語まで知ってるなんてすごいですね~、メイアちゃんは~」


 真理峰も崩れかけた演技の仮面を取り繕って、俺のフォローに乗ってきた。

 あっぶね!

 こいつ、リアルとアバターの記憶がちゃんと紐付いてるのか!

 結構わかんないもんなんだけどな、普通は……。


「メイアちゃん。私は桜。さ・く・ら。覚えてね?」


「……さくら?」


「そう。サクラ。次からはそう呼んでね?」


「う~……? ……うん」


 メイアは首を傾げながらも頷く。

 そりゃわかんないよな。こう呼べって言われたりああ呼べって言われたり。

 でもこれ、今度はMAOの中で本名呼びされるようになるんじゃねえか?


「桜ちゃん、子供の相手上手だねー」


 レナが感心した風に言った。


「チェリーさんも上手だったけど、同じくらいかな、お兄ちゃん?」


「え、あ、まあ……おう。そ、そうかな?」


 真理峰の手がバッグの中に入った。


〈挙動不審すぎです!〉


 端末と連動したバーチャルギアが、レンズ上にメッセージをAR表示する。

 俺はポケットの中で端末を操作した。


〈常人にお前レベルの演技力を求めるな、詐欺師め!〉


〈誰が詐欺師ですか! このくらい女子はみんなできます!〉


 こわっ。

 宇宙的恐怖ならぬ女子的恐怖だった。

 あまりに怖かったので、ぷるぷる震えるスライムのスタンプを連打して嫌がらせとする。


「うあっ」


「ん? どしたの、桜ちゃん?」


「う、ううん。なんでもない」


 真理峰は表情を取り繕いつつ、レナの視線が逸れた一瞬の隙にきっと俺を睨んだ。

 知りませーん。


「ふはー」


 メイアがパンを食べ終わり、息をついた。

 味が残っているのか、自分の指をぺろぺろ舐め始めたメイアを見て、真理峰が「あ、こら」と言う。


「舐めちゃダメ。はしたない。ほら、拭いて」


「んー」


 真理峰はティッシュを取って、メイアの指をぐしぐしと拭う。

 ホントに拭けるのがすげえ。

 謎の技術だ、マジで。


「綺麗になった。ごちそうさまは?」


「ん~?」


「お手てを合わせて、ごちそうさまーって」


「あう……ごちそう、さま!」


「はい、よくできました」


 真理峰の手が優しくメイアを撫で、メイアはくすぐったそうに笑う。

 それを見て、真理峰も口元を綻ばせた。

 ゆうべも思ったけど、実は子供好きなのかもしれない。


「うわーお。すごいね、桜ちゃん。まるでお母さんみたい」


「あ゛っ」


 とはいえやりすぎである。


「い、いや、これはっ! ついというか、なんとなくというかっ……!」


 レナに言い訳をしようとした真理峰の服の袖を、不意にメイアがぎゅっと掴んだ。


「んぅ~……」


 と唸って、メイアはもう一方の手でくしくしと目をこする。

 お腹いっぱいになって、また眠くなったのか?


「……眠い?」


「ん……」


 真理峰の問いに、メイアはこくりと頷く。

 その手は真理峰の袖を掴んだままだ。


「仕方ないなあ……。おいで」


 真理峰は俺の膝の上からメイアを抱き上げた。

 メイアは真理峰の首に抱きついて、ゆっくりと呼吸を落ち着かせていく。


「……もう寝ちゃった」


「あっという間に桜ちゃんに懐いちゃったね」


 本当に、パパと呼ばれてる俺よりもずっと親っぽい。

 もし俺が完全ソロで、頼れる奴が誰もいない状況でメイアと出会っていたらと思うとぞっとしないな。


「そういやお兄ちゃん、今日はどうするの? またMAO? 攻略合宿中なんだっけ」


「いや、とりあえず昼間は行くとこがある」


「へー。珍しいじゃん。どこ?」


「冒険者会館だよ。セツナとかも現実側のメイアを見てみたいって言っててさ」


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