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最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ  作者: 紙城境介
3rd Quest Ⅱ - 最強カップルのリベンジ・イン・ダンジョン

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第102話 VS.第六闘神ジンケ - Round 2


 ―――その闘いは、セツナやろねりあたち配信者たちによって、リアルタイムで中継されていた。


 合計視聴者数は1万人超。

 2窓による重複を考慮に入れても、数千人という人々が、ケージとジンケの闘いを目撃していた。


 にもかかわらず。

 数千人の目撃者のただ一人として、彼らの姿を視認することができなかった。


 緋色の軌跡が宙を走る。


 蹴られた土くれがその場で弾ける。


 時おり火花のようなものが散り、衝撃と音だけがビリビリと伝播する。


「……はは……」


 観戦者たちは、呆然としながらも笑うしかなかった。

 目の前の光景が事実であることが、驚愕である以上に爽快だった。

 これは紛れもなく、仮想世界が可能とした人類の到達点のひとつ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




《魔剣再演》の発動中はAGIが三倍に膨れ上がる。

 しかし、三倍になるのはスピードだけであって、俺の感覚の方は据え置きだ。

 スポーツカーで森の中を突っ走るような、極限的な集中力でもって、俺は俺自身のスピードについていく。


「《第三魔剣・朱砲》―――!!」


 剣先から真紅の砲弾をぶっ放し、


「せぇいッ!!」


 ジンケの大振りなフックで軌道を逸らされた。


 なんて奴だと、改めて舌を巻く。

 この戦闘機みたいなスピードに、コイツは持ち前の反応力だけでついてくるのだ。


《魔剣再演》時のAGIを全開にしてもなお食らいついてくる相手は、さすがの俺も初めてだった。

 だが――

 初めてだからこそ、胸が躍る。


 どこまで行ける?

 どこまで来れる?

 試してみたい。

 挑んでみたい。

 まだ知らない世界が、この先にあるんだ―――!!


「《第五魔剣・赤槌》―――!!」


 真紅のオーラがかたどった破城槌を、ジンケが両手で受け止めた。


「オォオオオオォッ!!!!」


 地面に長い電車道を作りながら、ジンケは猛獣めいた雄叫びを上げる。

《赤槌》は血しぶきのように砕け散り、そしてジンケはまだ立っていた。


「《第二魔剣・紅槍》―――!!」


 今度はオーラを槍のように伸長させる。

 ジンケは獰猛な笑みを浮かべると、ぐっと両腕を後ろに引き絞った。


第五ショート(フィフス)カット発動(・ブロウ)!!」


 右手に風。

 左手に雷。

 ジンケはそれらを纏った両手を、鋭く前に突き出す。


 風と雷が混ざり合いながら、槍のように打ち出された。

 拳闘系体技魔法《風雷槍波(ふうらいそうは)》―――!!


《紅槍》と《風雷槍波》が正面から激突し、互いに消滅した。

 だが、フレードリク流中距離攻撃魔法《紅槍》は、黙って消えるほど甘くない。

 反動によって、ジンケの身体が後ろに泳ぐ。


 その隙に、俺は空へと飛び上がった。


「《第四魔剣・赫翼》―――!!」


 真紅のオーラが翼のように広がり、崩れて羽根となり、そして雨となって降り注ぐ。

 真紅の絨毯爆撃の中に、ジンケの姿が消え去った。

 しかし、


「オォオオオオオオオォオオオオオオオッッッ!!!!」


 獣が吼える。

《赫翼》の羽根が砕ける。

 身体のあちこちにダメージエフェクトを輝かせながら、それでもジンケは好戦的に俺を見上げていた。


第一ショート(ファースト)カット発動(・ブロウ)!!」


 突如として、空から雷が落ちた。

 それを受け止めるのは、ジンケが突き上げた右の拳。

 青白い稲妻を鎧のように纏い、翼のように広げて、第六闘神は地面を蹴る。


 拳闘系奥義級体技魔法《猛雷虎拳(もうらいこけん)》。


 鎧のようだった稲妻が、巨大な虎のように形を変えた。

 野蛮な爪が、獰猛な牙が、ただ俺の命を奪うために迫り来る。


 俺は出し惜しまなかった。

 ぶつけよう。

 ぶつかろう。

 思う存分弾け散ろう!


「―――《第一魔剣・緋剣》―――!!!」


 時間が。


 停まる。


 迫り来る雷の虎、その中で拳を振りかぶるジンケ、何もかもが静止する。

 許された時間はたったの5秒。

 その5秒で、俺は―――



 ―――第二から第五の魔剣を、すべて叩き込んだ。



《朱砲》。

《赤槌》。

《紅槍》。

《赫翼》。

《緋剣》。


 五つのフレードリク流魔法、()()()()()()()()()()()()()使()()()()


 これこそ、俺が継承した魔剣の真髄。

 切り札中の切り札。




 フレードリク流奥義(・・)・《緋剣乱舞》―――!!




 時間が戻ったその瞬間、おびただしい真紅の光芒が花火のように散る。

 踊り狂う緋色の中に、ジンケは雷虎ごと呑み込まれた。


 地面に着地すると同時に、魔剣フレードリクの刀身を染めていた緋色が抜けていく。

《緋剣乱舞》を使ったが最後、《魔剣再演》の効果も強制終了するのだ。

 あとには、MPを根こそぎ使い切った俺だけが残される。


 一瞬遅れて。

 ジンケが地面に転がった。


「……ぐ……あ……」


 まったく同時に叩き込まれる4種類もの必殺攻撃は、HPは言うに及ばず、プレイヤーの精神にすら打撃を与える。

 痛くもかゆくもないし安全だが、脳が混乱してしまうのだ。

 しばらくは目が回って、まともに立つこともできないだろう。


 ―――なのに。


「くっ……は、は……!! これ、が……これが、本気か……ははは!!」


 笑みすら零しながら。

 ジンケは、ふらふらと立ち上がってみせた。


 HPは、かすかに残っていた。

《緋剣乱舞》をまともに受けて、生き残っていられるはずがない。


《猛雷虎拳》に、威力の大部分を相殺された?

 ありうる。《緋剣乱舞》は完全同時(・・・・)攻撃。かつて火紹に《硬身》で受け止められたときのように、タイミングさえ合えばたった一つの技ですべての攻撃を相殺できる。4つ合わせれば即死級の超威力でも、1つ1つは通常魔法でもギリギリ相殺できる程度の威力なのだ。


 それとも、《猛雷虎拳》が相殺され、システムからアバターが解放された瞬間に、身を捩って急所を外したのか。

 ありうる。ジンケの人読み能力は未来視レベルだって言うし、《緋剣乱舞》も本邦初公開ってわけじゃない。たとえ時間を停止しての攻撃だって、コイツなら読んでくる可能性がある。急所を外すくらいなら間に合うかもしれない。


 ―――しかし、それにしても。

 それにしても!

 それにしても……!!


「まだ立てるのかよ、第六闘神……!!」


 思わず口元をひくつかせながら、俺は問うた。

 今にも意識が千切れそうなはずだ。

 かつて俺自身も、この奥義を喰らったことがあるからわかる!

 今、立つことがどれほどの苦痛なのか!


 なのに、ジンケは笑う。

 薄く笑いながら拳を握る。


「寝て、られるかよ……!!」


 狂気じみた戦意が、その瞳には宿っていた。


「何かに、届きそうなんだ……!! どこかに、至れそうなんだ……!! あんたもそうだろ。感じたはずだろ……!? この先にある何かに、手を伸ばしてみたいって……!!」


 極限と極限がぶつかり合った果て。

 そこに何か(・・)があると、確かに俺も感じた。


「強くなりたい。強くなりたい! 強くなりたい!!

 なあ、そうだろMAO最強!! ゲーマー(オレたち)はただ、何の目的もなく!! ひたすらに強くなりたがる変態だろうがぁ!!!」


 レベルを上げ。

 スキルを磨き。

 戦法を考案して。

 それが何になる? と訊かれたら、俺はこう答えるだろう。


 何にもならない。

 ただ、強くなることが楽しいのだと。


 目的なんてなくても。

 使い道なんてなくても。

 ただ強くなり、ただうまくなることに快感を覚える変態。

 それがゲーマーなのだと、確かに俺もそう思う。 


 だけど―――


 俺は、この場の空気を感じた。

 遠巻きに見守っているプレイヤーたちの気配を感じた。

 その中に混ざっている、特によく見知ったアイツの顔を思い浮かべた。

 俺にとっての、MAOというゲームを感じた。


 ―――俺は、首を横に振る。


「自分の強さになんて興味ねえよ」


 レベルを上げるのは楽しい。

 スキルを磨くのは楽しい。

 戦法を考えるのは楽しい。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「センスがなくても、才能がなくても、大して強くなれなくても―――

 たぶん、俺は、このゲームをやってたと思う」


 弱ければ弱いなりに、楽しみ方は必ずある。

 下手なら下手なりに、向き合い方は必ずある。

 強くて上手い奴しか楽しめないなんて、そんなゲームはクソゲーだ。


「だからさ。……きっと、俺とお前は別物だよ、ジンケ」


 ジンケは一瞬、虚を突かれたような顔をして。

 やはり、笑った。


「…………そうだ。そうだな。確かに、俺とあんたは違う」


 その視線が、ちらりと横に逸れた。

 その先には、メイド姿の銀髪の少女がいた。


でも(・・)


 視線が俺に戻り。

 ジンケは、傷だらけの拳を構える。


()()()()()()()()ッ、ゲーム馬鹿がァあぁああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」


 ジンケが地面を蹴る。

 ここに来て、ジンケのスピードは最速を記録した。

 まさに手負いの獣。

 今際の際に見せる、一瞬の火花のような獰猛さ。

 プロという肩書きも、第六闘神という異名もそこにはない。

 もはやそこにいるのは、ただの檻を失った獣ワンダリング・ビーストだった。


 その獰猛さ、迫力みたいなものに、俺の身体は一瞬、硬直した。

 強さへの渇望。

 勝利への執着。

 どっちもジンケの方が上だ。

 だからきっと、以前の俺は負けたのだ。


 一瞬の間に、獣の拳が迫る。

 何の魔法でもない、ただの拳が迫る。

 俺の剣は、明らかに出遅れていて。

 その拳には、間に合いそうに思えなかった―――




「―――先輩(・・)っ!!」




 でも、その瞬間。


 以前、ジンケと闘った闘技場では聞こえなかった、声が聞こえた。




「おぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」


 エネルギーが全身を巡る。

 強さへの渇望が、勝利への執着が―――

 今この瞬間だけ、目の前の猛獣に追いつくッ!!


 間に合わないはずだった剣が。

 迫り来る拳と、激突した。


 視線が間近で火花を散らし。

 勝利と敗北が目まぐるしく鬩ぎ合う。


 拮抗は、しかし一瞬だった。

 無限に引き伸ばされた瞬間の中で、俺は何度も負け、何度も勝利していた。


 計算、打算、公算、勝算。

 レベル、ステータス、スキル、魔法。

 何もかもが吹き飛んで、ただひたすらに心が前進する。


 求めるのは、たったひとつ。


 ―――あの日見損ねた、アイツの笑顔だけ……!!


「おぉおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぁあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」


 喉がはち切れんばかりの咆哮は、きっと頭の中でのものだった。

 何の効果もありはしない。

 脳のリミッターなんか外しちゃくれない。

 でも、その渇望の叫びが。

 最後の一歩を、踏み込ませる。


「…………ッ!?」


 ジンケの身体が、ぐらりと傾いだ。

 ほんの数センチ。

 些細な動き。



 それが、すべてを決めた。



 鮮血めいて、ダメージエフェクトの光芒が舞う。

 HPが、最後の1ドットに至るまで潰える。

 漲っていた力が不意に途切れ。

 折れた膝が、地面に落ちた。


 緊張の糸が、途切れる。

 崩れ落ちそうになる意識を、必死に支えて―――


 ―――俺は、荒い息を整えながら、ようやく告げた。


いいゲームだった(グッド・ゲーム)……!」




【YOU ARE WIN!】

【MVPおめでとうございます!】


・修正履歴(2017/07/07)

ジンケのHPが残った理由についての説明を若干追加

決着の流れを変更

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― 新着の感想 ―
[一言] 要は、装備がなかったら負けてたってことやね。 同じレベルの装備があれば負けてた。それなのに勝ち誇るのはすこし痛いかな
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