7話
精神と時の部屋が欲しいぜ……
せめて寝るときだけでも使いたい……
休憩中だったが、問題が起こった以上行動を起こさなくてはいけないだろう。
そう、護衛として当然の責務なのだ。
だからカズキ、これは食い物の恨みではないことを理解しろ。
そしてお前が働け。
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事件があった前方の馬車に向かうと、馬の代わりに使われている変な奴が4体いたのが一体に減っていた。
そして周りには赤い血。
大きく穴の空いていたと思われる痕跡が残された地面。
ふむ……魔物の襲撃かな?
他の護衛は何やってたんだか……
「ああ、俺のダーバが……」
少しうるさかった男が、落ち着いてからこれしか言ってない。
気持ちは分かるが、だからといってこっちを睨むな。
恨むなら護衛してた奴ら、そして責任者のリーダーを恨め。
あ、後魔物な。
「ここで何があったんですか?」
漸くやって来たリーダーのバンダナ男。
名前は……まぁいいや。
リーダーとさえ分かってれば問題ない。
「何があったじゃないですよ! 魔物来てるじゃないですか!」
ふたたび興奮して文句言い始めるけど、まぁ確かに文句の1つは言いたいか。
雇ってる意味がないって。
「落ち着いてください。確かに護衛しているのに被害があればそう思うかもしれませんが、事前に説明されている通り、下からの襲撃は警戒出来ないんですよ。貴方のダーバ車が襲われたのは単純に数が多かったからでしょう」
今思ったのと同じことを言ってたが、即座に返されてそれ以上何も言えなくなっていた。
そういえば、この人だけ4体だったな。
というかあの馬擬きダーバと言うのか。
ダーバ車。うん、覚えておこう。
「ああ、せっかくの水が……」
どうやら水を運んでいたらしい。
砂漠だし、雨が降らないから水屋なんてのもあるのかね?
……いや、水魔法の使い手がいないわけないだろうし、そう言う人たちがやるなら納得だが、こうやって運ぶほど利益って出るものなのかな?
そこんとこどうなのかよくわかんないや。
まぁ興味もないしいっか。
「お気の毒ですが、水は持てる分は持って、持てないのは他の商人に安く売るしかないでしょう」
まぁ4体も使ってそれだけ運ぼうと欲張った結果だ。
次からは欲張らないように気をつけましょう。
……上から目線だし、この台詞は言わないでいっか。
まぁそれはともかく、もしかしてこのままで終わり?
魔物は? 討伐しないの?
というか魔物はどこ行った?
「あのー」
「ん?……ああ、今休憩じゃなかった?」
「そうなんですけど、こうやって問題が起きたら来ないわけには行かないじゃないですか」
「いい心がけだね。でも、もう終わったから休憩に戻っていいよ」
「魔物はどうするんですか?」
「え? 多分もう逃げられてるからね。放っておこう」
え? マジで?
「はい、分かりました」
「じゃ、次よろしくね」
本心とは別に肯定したのは、簡単に言うと面倒だからだ。
まぁそれは一言で言うとの話で、本当はリーダーの指示、指示に逆らうことで起きる状況、現実的に追いかけられないというのが含まれてるけどね。
俺が団体の行動を乱す真似してまで魔物を仕留めたいとは思ってないしね。
「でも、襲って来たのはなんの魔物ですかね?」
「それは多分ハイサンドとかいう魔物だろうな。地面から襲ってくるらしい」
「流石師匠、詳しいですね」
「まぁ情報収集は重要だしな」
ゴブリンキングの時は調子に乗ってたからあーなったんだろうしな。
あの時より強くなった今でも、不意打ちには対処できないだろう。
まぁそういう奴がいるって情報があったからずっと警戒してたけど。
「また来ますかね?」
「来たとしても、俺たちの方から来なければ責任は一切ないから警戒だけしておこう」
お前たち側から来たんだよ! とか責められたら嫌だしね。
自分の仕事はしっかり果たさないと。
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休憩も終わり、また退屈な護衛の時間となった。
というか本当に暇だな。
「そういえば、フラグって知ってるか?」
「どうしたんですか突然?」
いや、確かに突然だけど「ついにおかしくなった」みたいな目で見るな!
「とにかく、フラグって知ってるか?」
「一応知ってますけど……それが何か?」
「このフラグの力を使えば、この暇な時間もそれなりに退屈せずに済むんじゃないか?」
「……暑さにやられたんですね。一人で大丈夫なので休んでいてください」
いや、その扱いおかしくね?
なんでそんな哀れみの目で見るの?
「いや、おかしくなってないから。そもそもそこまで暑くないし。」
砂漠といっても暑さは東京の夏程度だからまだ平気だ。
「例えば、『俺、この仕事が終わったら結婚するんだ』っていう人がいれば、これはもうフラグの力で魔物が来るんじゃない?」
「……尚更フラグ立たない方がいいじゃないですか。その人死んじゃいますよ」
弟子に正論言われるとは……
「じゃあどうやって暇潰すんだよ」
「……別に僕は一人で魔法の練習してます」
「それももう飽きない?」
「未熟ですから飽きません」
「本当に来た時に魔力無くなったらどうするの?」
「半分は残す程度にしときます」
「……弟子が冷たい」
師弟の関係ってもっとこう、熱いものじゃないの?
「あの夕暮れに向かって走るぞ!」「はい師匠!」みたいな。
……やっぱ面倒そうだしなしだな。
というかそもそも俺体育会系じゃないから暑苦しいの苦手だったわ。
てへ☆
……大丈夫、心の中だけだからカズキには分からないはずだ。
キモいと思うのが一人だけだからセーフのはずだ。
「って気がついたらもう始めてたし。俺もやろうかな〜」
暇暇言ってたけど、俺もまだできない魔法とかあるから練習しないとね。
今いるのが右側だから、右方面にしとくか。
うーん何にしようかな。
せっかく砂漠なんだし砂を使いたいよね〜
砂の津波でもやってみる?
いや、規模が大きすぎて砂ぼこりとかこっちに来たらアレだしな。
アリ地獄っぽいの……は、対象がある時にやりたいな。
砂嵐は論外だし、砂で何か作るのももうやったし。
単純に砂を飛ばすのは芸がないし。
単純に砂を限界まで固くする。
うん、もうこれでいいや。
咄嗟に作り時は壁だろうし、固くするのは大事だよね。
まぁでも、壁を今作ると護衛中に遊んでると思われるから、いつも通りというか今も使ってる魔法を自分の中心に半径ではなく、自分の前方だけに広範囲をやってみるか。距離は二百……いや、どうせ暇だし五百メートルくらいでいっか。
そして下も二十メートルくらい伸ばすイメージで……よし。
「我が定めし領域はその身を阻み、何人たりとも侵させん。『聖域』」
聖域とか言っときながらアンデッドが浄化しないだろうし、見た目的には何も変わってないが、まぁ気分的にそんな名前が良かったのだ。
出来はそれなりにいいけど、やっぱり範囲が広いから魔力消費が激しく、凄い怠い。
少し目を瞑れば寝てしまうくらい疲れた。
もうカズキに任せて……ん?
なんか遠くから見る砂ぼこりすごいな。
「なぁカズキ、アレってどうなってるんだ?」
「いや、僕にも分かりませんって」
「身体強化で目を重点的に強化すればアレくらいなんとか見えるだろ」
「……身体強化の部分強化は難しいものなんですけど……」
あ、そうなの?
まぁとにかく、アレが害がないかどうかだけでも確かめないと。
今回使った『聖域』は発動中ずっと魔力を使って魔法を発動している維持型と、一度使えば暫くそのままの単発型があるが、今回は後者だから魔法の発動は一応可能だ。
一応なだけでやはり使いすぎて魔力量は良くても精神的にヤバイのだが、遊びのせいで仕事できなかったは不味いからな。
体に鞭打って身体強化魔法を使った。
「……鬼ごっこ?」
その目に見えたのは、ワニを大型化したやつと、そのワニよりも二倍以上大きい蛇みたいな魔物だった……
あんまり進んでないかもしれませんが、ご安心ください。
次で護衛はラストです。
そしてそっから今回の章が幕を開けます。(もう開いてますけどね笑)
では、お読みいただきありがとうございました。




