47話
あの日から十日ほど。
あの貴族に関わらないよう、休憩もそこそこにして伯爵領となっている所まで急いで来た。
貴族に関わらないようと言っときながら、他の貴族の所に向かってるなんて大丈夫かと思ったが、少し争った程度で他の貴族に言いふらしたりしないだろうし、負けたんだから恥にならないよう逆に黙っててくれそうとアウラが言ってたし大丈夫なんだろう。
……いきなり襲い掛かって来たら責任とってね?
まぁそんなこんなでやってきた伯爵領。
着いた時にはもう夜であり、門が閉まって開けてくれなかったので外で野宿は辛かった。
別に開けてくれても良いと思うが、こういう街では魔物を警戒して開ける時間帯が決まってるらしいので文句を言っても仕方ないけどさぁ。
「というわけで俺とアウラは屋敷に行かないといけないけど、グラントとカリーナはどうする? 街から出ないなら適当に何かしていていいよ」
「私たちは宿で待たせて貰います」
「はい。流石に疲れたので休んでいます」
確かに、急いで来たから碌に休んでいなかったんだよな……
更に、村とかに寄った時も食事はこっちで用意しろとのことだから二人には態々調達しに行ってもらったから余計に疲れているだろう。
「わかった。多分昼前には帰ってこれるはずだからたまにはどっかの店で食べようか」
「やった! ちゃんと大人しく待ってます!」
グラントも言葉遣いが最近丁寧になってきたが、やっぱりまだまだ子供だな。
まぁそういう俺も最近は干し肉とかだったから楽しみなんだけどね。
「じゃあ留守番よろしく~」
まぁまだ朝だし、こんな時間帯に泥棒なんてこないだろうな。
……フラグじゃないよね?
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さてさてやってきました……なんとか伯爵の屋敷に!
王都では貴族の屋敷とか王の城とかが固まってるからそこを囲って警備していたが、こういう街とかでは屋敷の門番はいても、近くには行けるようになっている。
まぁ怪しい動きしていたら問答無用で捕まりそうだから誰も不用意には近づかないだろう。
「じゃあアウラ。先陣は任せた!」
「……ん」
おお、その言葉? 言っただけだがその言葉と共に前を歩くアウラさんマジかっこいい!
そこに痺れる憧れる……って、俺も行かないとな。
「何用だ。ここは伯爵様のお屋敷だ」
「……依頼を受けてここに来た」
「依頼だと? そのような話は聞いていない。今なら見逃すから立ち去れ」
あれれ? おっかしーな?
まぁ確かにアポなし出来たのはまずいかなぁって思ったし、朝もまだ九時くらいの人によっては早いと言える時間だししょうがないけど、何か納得できない。
「えっと……依頼と言うか、冒険者ギルドで数週間前に伯爵様が依頼出されましたよね? その薬を持って来たのですが……」
冒険者ギルドも直接持っていくように言っていたが、話くらい通しておいてくれてもよくないかね?
「ああ、その事か。……嘘だった場合、この剣でお前の首を切ることになるがいいか?」
腰に差してあった剣を抜いて首に当てて来た門番。
……なんかもう帰りたいよアウラさん……
「……ん。問題ない。嘘じゃないから賭けにもならない」
「そうか。そんなに自信があるなら良いだろう。ここで少し待っていろ」
そう言って中に入っていった門番。
……俺だけでも先に帰らせてはくれないかな?
そっから待つこと20分。
流石に疲れている所にこの立ってる時間が辛いしアウラは無言だったし苦痛で仕方がなかったが、ようやく来た先ほどの門番から許可を得て中へと入る。
「おぉ……凄いな」
「……貴族ならこれくらい普通」
外からは見えなかった噴水があったり、花畑と言うほど広くはないが、それなりに広い面積に花が埋まっていてとても凄かった。
というかアウラは他の貴族の家とかにも行ったりしたことがあるのかな?
暴風とか呼ばれてるくらいだし、可能性は高そうだけど。
……ここの噴水と花畑の維持費だけで数十万飛びそうなのにこれが普通とかやっぱり庶民とは感性が違う。
俺みたいな庶民ならお金があってもやらない事だろうしな。
たまに立ち止まったりして注意されながら、ようやくやってきた屋敷。
そのドアの前に二人の男性が立ってこちらを見ていた。
「連れてきました」
「では持ち場に戻ってくれ」
「はっ」
門番が戻って行く。
「さて、ここで話すのもあれだが急を要するのも事実。歩きながらも話そう」
そのうちの綺麗な服を着た男性が話しかけて来た。
歳は四十過ぎといった所で、いかにも武人です、みたいな顔だった。
アウラ任せた!
「とりあえず自己紹介をしようか。私はチェスター・アーリハイマーだ。伯爵家の当主であり、お前たちの依頼人という事になるな」
まさかの当主様でした。
……案外暇なのかな?
確かこういう時って予定がなくても準備とかで三十分待たせる時があるってラノベで書いてたけど。
「こっちは執事長のワ―ディンだ。私の秘書も兼ねて貰っている」
「お見知りおきを」
そう言って頭を下げるワ―ディンさん。
この人は執事が着そうな服を着てるし、まぁ意外性はなかったな。
いや、そんなの求めてないけど。
「それで、お前たちは?」
……頼みますアウラさん!
貴族様と話すなんて恐れ多いんですよ!
そう目で訴えたら通じたらしい。
「……アウラです。そっちはケイ」
「初めまして」
……少し声が震えたな。
やっぱり緊張してるみたいだ。
というか、領主って大雑把に言えば王様の部下って事だろ?
現代の校長先生の下に一般教師みたいな。
まぁ規模とか位が違うとはいえ、俺は職員室に入るのさえ緊張するほどなのだ。
うん、やはり俺が緊張するのは間違ってないな。
仕方がないんだ。
だからこっちをあまり見ないでくださいお願いしますチェスターさん!
「そうか。それ以上の事も聞きたいが、続きはこの部屋でな」
やっぱり屋敷は中も広いのか、ここに来るまでに何部屋も扉を過ぎた。
ようやく着いた部屋は、それなり……というか結構広く、2人部屋でここに住めと言われても喜ばれそうなほどの広さだ。
そして入り口近くに机と椅子があったので、向こうが座ったのを見計らいこっちも座る。
……今更だけど、許可いらないですよね?
「では話を続けよう。例の物を持って来たと言っていたが、本当だな?」
嘘ならてめえら殺すぞ、みたいな目で睨まれる。
頑張ってアウラ!
お前なら出来る!
「……ん。依頼の品を持って来た」
「そうか。では確認させてくれ」
荷物持ちは俺の役目だと言ってアウラから取った例の箱を出す。
「こちらでございます」
今度は震えないで言えたな。
緊張はまだしてるけど、最低限表情をあまり変化させないようにすれば取り敢えず良いだろう。
「では中を確認させてもらおう」
そう言って箱を開けるアーリハイマー氏。
……そのチェスター氏が何やら固まっているぞ?
中身が消費期限があるとかなんとか言ってたから確認しなかったけど、まさかちゃんとしたものが入ってなかったとか?
いや、流石にそれはないか……
運んでる時も音が鳴ったりしてたしな。
「これは……何処で手に入れたのかね?」
「……欲望の洞窟」
「まさかあそこにこれ程の物があるとは……」
何が入ってたのか、私気になります!
っと、そういえば開けた後読んでほしいとか言ってた手紙を貰ったな。
この世界で流通しているものよりも随分と良い……というか現代と同等の物だろう。
……転売とかすれば儲かるんじゃね?
まぁそれより今は手紙だな。
『この手紙を読まれている頃、私は死んでいるでしょう。(死んでるの!?)そう、死ぬほどの退屈な日々にまた戻るから精神的に死んでいるのです。(なんだよそういう意味か)さて、本題に入りますが、渡したものは恐らくこの世界では貴重な物となるでしょう。効果を知れば争いが起きるほどの物です。(なんて物を渡してくれたんだ!)とはいえ、貴方なら使いこなせると信じています。(いや無理ですすみません)使い方は簡単。粉になるまで砕いて飲むだけです。(おお、俺薬は粉しか飲めないからありがたい)その石の名前はクラル石(石?石を飲めと?)たまには会いに来てくださいね?』
……石ってなんやねん。
俺が飲むわけではないし、向こうもさっきの執事があれ持ってどっかに行ったしどんな代物か分かっているんだろう。
その時チラッと見えたが、マジで石だった。
ただ、とても鮮やかな色をしていて、石というより宝石と言っても良いレベルだった。
治療も出来て宝石にも出来そうな治療石。
流石ファンタジーとしか言えないな……
俺だったら石を飲めと言われたら殺す気かと言いたくなるレベルのいじめだよ。
「さて。例の物は本物と見て間違いないだろうな。礼を言う。ありがとう」
そう言って座ったままだったが頭を下げるチェスター。
「……気にする事はない。対価は頂く。それで解決」
そう言って礼は不要と言わんばかりのアウラ。
……アウラさん大物っすね〜
貴族に頭下げられてそんな事表情を変えずに言えるとか流石としか言えないわ〜
「そうか。対価を用意した所で簡単に手には入らないものだからな。そう言ってくれるならありがたい」
貴族が、しかも伯爵というそれなりに高い爵位の人が用意する対価でも手に入らないかもしれないとかどんだけ高価なの?
私、気になるけど知りたくないです!
「準備が整いました。あとは飲ませるだけでしょう」
「そうか。それではすまないが、先に使ってあげても良いだろうか? 対価は必ず払うと約束するので待っていて貰えないであろうか?」
まぁ今も苦しんでいるという人がいるのに対価を先に寄越せと言うほど鬼ではない。
「……分かった」
アウラさんも納得の様子。
ただ、俺も鬼ではないが条件はある。
「その前に一つだけいいですか?」
「なんだ?」
「私もその場に連れて行ってもらってもよろしいでしょうか?」
「……理由を聞こうか」
「その価値が分かる伯爵様には理解してもらえると思いますが、中々手に入る物ではありません。なので、どういう味なのか、手触りとか飲みやすさとかが気になるのです。それと、飲んだ瞬間には効かないでしょうが、表情が安らかになったとしたら効果はすぐに出始めているという事でしょうし。後学のため許可させてはもらえないでしょうか?」
これらは勿論本音だ。
いくら効くと分かっているものだとしても、石を飲むというのはやはり抵抗があるのだ。
病気で苦しんでいて表情が苦痛に歪んでいても、飲んだ瞬間に安らかになったら、痛み止めとしても役立つだろう。
もしかしたら、傷を治す事さえ出来るかもしれない。
また入手する機会があれば取っておきたいし、その時に効果を知らなければ無駄に使用するだけかもしれなくなる。
更に、飲みやすさとか味とかで覚悟が出来てなければ吐き出すかもしれない。
事前に調べておくのも悪くはないのではと考えたのだ。
「……良いだろう。持ってきたのはそっちだから後学のためと言われたら許可せぬわけにはいかん」
「ありがとうございます。……アウラはどうする?」
「……ここにいる」
「分かった。じゃあ行ってくるよ」
そんなこんなで同行を認めてもらい、病気で寝ているお嬢様のお部屋に行く事になった。
……今厭らしい事を考えたやつ、表に出てこい。
奈落の底に叩き落としてやる!
9/1 21:04 修正しましたが、誤字脱字ではないのでお気になさらず。




