室井 香織
あ、また。菫はいつも違うこと考えてる。きっとこの話も聞いてない。
そんなに横の人が気になる?横の人は確か…
横から視線を戻しても菫は窓の外を見てる。
「すーみーれー!なーにボケッとしてんの?てか、私の話聞いてた?」
あーほら、全然聞いてないし!あれどこまで話したっけ?
本当に忘れちゃったから、あーそうそうなんて思い出したフリをして別の話題にしてみる。これはいとこの話。
うんうん言ってるし返事が返ってくるけどきっと適当だね、さっきから返答がめちゃくちゃ。
でもいいの、話すのが好きな私はおしゃべりとか、うるさいって言われてたけど菫だけは何も言わないし聞いてるフリをしてくれる。それだけで嬉しいから、これでいいんだ。
今度は正面向いたと思ったら私を通り越して黒板、それも上の方を見てる気がする。そんなに面白いものが…時計…
お弁当に視線を落とすと同時に半分以上残ったお弁当をひたすらかきこむ。
チャイムの音。突然喉にきたこれはなんていうの?外に出そうと咳が出る。顔が熱い。
焦るように差し出されたお茶を一気に飲み干す。気は利くんだよね。
「菫、ありがとう。」
笑って言えば、呆れた顔で菫は自分の頬をつつく。まったく分からないジェスチャー。
菫の指先についたご飯粒。なるほど、そいうことね!
「うわー、恥ずかしい!というよりこういうのはイケメンな彼氏にしてほしかったー!!!」
「はいはい、じゃあイケメンの彼氏ができたら紹介してねー。」
また呆れ顔な菫。こんなに良い子なのにどうして菫はモテないんだろう…。
あ、性格…かな?とっても面白い子なのに。
自分の席に戻って先生を待つ。先生の点呼が終わる。
そっと斜め後ろを見る。すでに夢の中にいる菫を確認して黒板の文字を見つめた。