ホワイトデー前日に風邪を引く馬鹿
本当何処のどいつなんでしょうね、ホワイトデーに風邪引く馬鹿なんて。
明後日はホワイトデー。
カナからチョコをもらったため、返さなきゃいけない。
…めんどくさい。
今年のホワイトデーは休日だ。
だから明日渡さなければいけない。
…めんどくさい。
「あれ、もしかして全員に返さなきゃいけないのか…?」
食べたのはカナのだけだしカナのぶんだけで良いだろ。
そうしておこう。
「…余ったのはアキトのぶんで。」
そうしよう。
オーブンにクッキーを入れたところで頭がクラクラしてきた。
ん?
力が入らなくなり、その場に座り込む。
「…風邪、引いたのか。」
まずい。
これはまずい。
今は夜中の三時で今たっぷり寝たとしても治る確率は低い。
しかも学校に遅れる、それはいいのだが。
俺は風邪を引くと変になる。
…自覚はある。
今日カナにあったら何をしでかすかわからない。
「九時間で治す方法…?」
オーブンがチーン、となる。
どうやらクッキーが焼きあがったらしい。
冷蔵庫に袋に詰めたクッキーを入れたところで案が浮かぶ。
そうだ、月曜日渡せばいいじゃないか。
「なんだ…単純な事…じゃない…か…」
体力が尽きて床にそのまま寝た。
「…おい!」
思いっきり背中を蹴られる。
「ってぇ…」
「なんだよ生きてたのかよ。」
弟に起こされる。
「ゲホッ!ゲホッ!」
あ、やばい、悪化してる。
「そんなとこで寝るからだろ…。」
言い返す言葉もない。
「休むっていっといて。」
「ちゃんと休めよ…。」
カナにメールしなきゃ。
月曜日渡すって…。
部屋に戻り携帯を見る。
ああ、十三時…。
なんでアイツいるんだ。
ん?十三時?
昼休みじゃないか…。
ベッドに横たわりながらもカナに電話をする。
ワンコールででた。
「ハルトさん!?」
「ん…。」
「風邪ですか!?」
察しのはやい女だ。
「あのさ、カナ。クッキー焼いたけど月曜日焼き直したの渡すわ…。」
「え!?ク、クッキー!?ハルトさんが!?」
電話のむこうでもうるさい…。
「あ、あの、今日じゃダメなんですか…!?」
「ダメ。」
カナに何をしてしまうか、わからない。
「別に月曜日でもいいだろ、ちゃんと作ってやるから…」
「今日じゃなきゃダメなんです…!」
こいつは、俺が進んで欲しくない方向にいつも進もうとする。
「せっかくハルトさんが私の為に作ってくれたものを食べれないなんて、嫌です!!」
「焼き直したものじゃダメなのかよ。」
「今が、いいです…。そ、それに!それにハルトさんのお見舞いもついでですから!」
「だからそれがっ!」
プツッと音がして通話がきれる。
「くそ女…。」
カナがきてしまう。
…カナに会いたい。
ベッドでゆっくり寝ていると、ガチャリとドアの開く音がした。
…カナだ。
「ハルトさん、大丈夫ですか?」
「来るなって言っただろ…。」
目の前にきたカナを抱く、あったかい。
「ハルトさん、風邪引いてますね…。」
少しカナが頬を赤く染める。
可愛い。
「熱は何度ですか?」
「知らない。」
「熱、計って。」
カナの前髪をかきわけでこに自分のでこをあてる。
カナの頭が冷たくて気持ちいい。
「ハ、ハルトさん!!」
「何度?」
「え、わ、わからない、ですよ!」
戸惑っていると、もっといじりたくなってしまう。
「じゃあ冷まして。」
床に押し倒しカナの手を握る。
「ど、どうやって…」
握っている手がドンドン熱くなっていくのを感じる。
「カナが今日は冷たく感じるから、どこでも冷たいかなって。」
まるっきり嘘だ。
「へ…!?!?……そ、そういえばクッキーが欲しいです!!!何処ですかね!?!?」
足を絡めた所でカナが反論をする。
もうちょっと、続けたいんだけどな。
「冷蔵庫の中。」
「とってきます!あ、ハルトさんは病人なんだから寝ててくださいね!」
…病気は嫌いだ。
アイツを思い出す。
「カナが似てるのがいけないんだよ…。」
笑顔が綺麗な、アイツ。
少ししてカナが帰ってきた。
「ハルトさん、これハルトさんが作ったんですか!?」
「うん。」
カナが何を話しているのか、なんだか頭がぐわんぐわんとして聞き取りづらい。
「あの、今食べていいですか?」
「うん。」
俺はクッキーの入った袋をカナから奪いとり、袋からクッキーを一枚だす。
「ハルトさん、それ私のなんですけど…」
口にくわえたところで、カナの方を向く。
「はい。」
「……ん!?」
何をすればいいのかわからない、という顔をしている。
「食べたくなひなら食べなくていいよ。」
「ハルトさんその袋を私に返してください…」
はずかしそうに下を向きながら言う姿を見ると、黙っていられなくなる。
じゃあ俺からいれればいい。
カナの口へとクッキーを運ぶ。
「んっ…」
一口サイズのクッキーがカナの舌へ渡る。
「はい。」
「…っ!!!はい、じゃないです…!!」
真っ赤な顔をしたカナが可愛い。
「美味しい?」
「美味しいですけど…。」
何か言いたげな表情を見せる。
美味しいって言ってくれてよかった。
「ほら、これ以上同じ手をつかわれたら私にまで風邪がうつりますから!」
「うつったら俺が看病してやるよ。」
「ちょっと嬉しく思っちゃったじゃないですか…。」
素直に思ったことを言うところは馬鹿だ。
「俺もカナに看病されたら嬉しいよ」
腰に手を回すとビクッとして動かなくなった。
細くて簡単につぶせてしまいそうだ。
「なんか…倒れそうだ。」
身体が悲鳴をあげる。
「はやく寝てください!」
「カナと寝る…。」
俺の言葉など無視されベッドにほおりなげられる。
「寝ないと明日までに風邪治りませんよ!」
明日?明日なんて何かあったっけ
「明日は学校休みだろ…」
「明日はハルトさんがホワイトデーの返しを忘れててお詫びに私と何処かへ遊びに行くんです!!」
カナがすごく自信満々に言い始める。
そしてすぐ我に返り叫びはじめた。
「…ってもう返してもらっちゃったー!!!!!え!?じゃあ計画が無駄になる!?ああああしまった!!!」
「ただのバカじゃん」
困りように笑えてくる。
遊びに行こうって言われたらいつでも行ってやるのに。
「ハルトさん今日のは、なかったことに…いや、私がなかったことにしたくない!せっかくハルトさんにもらったのにぃ…」
「いいよ」
「え?」
カナは拍子抜けた声をだす。
「明日、遊びに行ってやるよ」
「本当ですか!?」
カナはそう言って目を輝かせてみせる。
そんなに俺と遊びに行きたかったのか。
「じゃ、じゃあ寝ましょう!風邪治さないと!」
布団を被せてくるカナの身体を引く。
俺によしかかる形でベッドの上に座った。
「…あ、あの」
「看病してくれるんだろ?」
動揺を隠せないかのようにぎこちない笑顔を作る。
「大丈夫、優しくするからさ」
「何がですか!?」
顔を赤くして叫び出す。
嫌なら逃げれば良いだろ?なんて。
「冗談じゃないから。」
俺が動くとギシッとベッドが音をたてる。
意外と本気で受け止めてるようで、その顔は青ざめ始めた。
「…冗談だよ。」
だからそんな顔するなよ。
ごめんの代わりにキスをする。
抵抗しないカナがなんとなく色っぽく見える。
「制服暑くない?」
「脱ぎませんよ!」
「何言ってんの。」
笑ってみせる。
カナのせいで熱が下がってきたみたいだ。
「明日、楽しみにしてるから。」
「私も楽しみにしてます。」
「…カナ、今日は帰るの?」
後ろから抱きしめる。
カナのはやく動く心音がこっちにまで聞こえる。
「帰って欲しいですか?」
「帰らないで欲しい。」
帰るって言っても帰さないから。
そっと、耳に囁いた。
明日遊びに行くっていうのに何をするのか…