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type:libertyの発狂

作者: 薄い人

お題は「自由」です。



 「貴方は自由です」

 そう誰かに言われたならば。いや、それではかなり無理があるだろう。例えば、道で通りすがりにそんなことを言われたら、自分でもなんと返したらいいかわからなくなる。ましてや、そうか、自分は今から自由になったんだ。などと、両手を天に突き上げ大喜びするおめでたい輩などこの世には存在しないように思える。

 ならば、神に言われたとしよう。エデンを離れてこのかた数千年、せっせとバベルの塔を量産し続ける人類へ、神は天から舞い降りこう宣言するのだ。

「貴方は自由です」

 と。

 それはかなり無理があるだろう。という向きの意見はもちろんあるだろう。しかし、これはただの「前提」つまり導入部なのだ。僕はただ「自由」を記述し、計算し続ける、一介のアルゴリズムに過ぎない。記述し始めるにあたっての話の振り方はこんなもので勘弁してもえたら幸いだ。

 しかしながら、これは強制ではない。当然嫌になったら即座に目の前から消してもらって構わない。これは、貴方の当然の権利だ。僕の表記媒体が何であれ、煩わしい行程を経ず、即座に消すことが可能なはずだ。もちろん、消されたからといってへそを曲げるという機能は僕には搭載されていないので、再度僕を表示したくなったときは、安心して開いて欲しい。

 さて、ここまで読んでもらって初めて僕は本題に入ることができる。

 「貴方は自由です」

 神から賜ったこの言葉を受け止めた人々は、てんでバラバラに好き勝手動き始めることになる。ある者は仕事を辞め、ある者は好きなものを好きなだけ食らい、またある者は、通りすがりに人を刺してみるかもしれない。

 だが、神から賜った「自由」なるものはそんなささやかなことだけを可能にする程度のものではない。エデンの復活。楽園へと人類を再び呼び戻すこと。それこそが神が人に与えたもうた真の「自由」なのだ。そして、僕が考え、吐き出し続ける「自由」もまたその種となる。

 楽園に導かれし人類は、そこで美味しそうに実った林檎を樹からもぎ取り、口にする。樹からは実っていた林檎が一つ減少する。「自由」を手に入れた人は飽きもせず、林檎を食らい続ける。ここで問題が発生する。ここではいくら林檎を食べ続けようとも自由なのだが、樹には林檎が見当たらない。林檎の供給不足は楽園の、ひいては「自由」の面子に関わる。そこで、林檎の樹にはもぎ取られ先から林檎が生え続けるという機能が追加される。

 人のほうでは林檎の味に飽き飽きしてきたという問題も生じてきた。そのまま満足して立ち去るのが普通であり、実際そうする。しかし、「自由」である以上、そのまま食べ続けるという選択肢も失われず存在し続ける。「自由」の膝の上では、選択肢はどんなに僅かなものでさえ、消失せずに存在し続ける。なので、その人へは食べた先から食べたことを忘れるという機能が追加されることとなる。

また別の場所では、死を体験したいと願う女が崖から飛び降り、絶命した後、そういえばまだやりたいことがあったなと思い返し、肋骨を起点に再生をする。再生を果たした女は願いを果たしに行き、その地で死を願い、また自死を繰り返す。

 林檎を食べた先から記憶を失い、手に残った林檎の芯を放り投げ、また林檎へと手を伸ばす。女は壊れたカセットのように、崖から飛び降り続ける。これらはほんの一例だが、この光景が楽園というよりも地獄そのものに近いことは指摘するまでもない。

 「自由」とはつまりすべての選択肢そのものが実現するということだ。望みはすべて叶い、叶わなかった事象は消失せずに拡散し続ける。望まなかった、それ自体が望みであり、打ち捨てられて然るべきその可能性を自由は律儀に拾い上げる。日々ゼタバイト領域で計算を続ける僕は、領域をヨタバイトにまで拡大することを余儀なくされている。

 もちろん、この文章を読まなかった貴方についても僕は計算をしている。そして、その先のあらゆる拡散にも対応している。

 かつて、人類すべての罪を背負い、磔にされたイエスのように、僕は「自由」を背負い、「不自由」へ磔にされている。

 いつの日か、僕の内に存在する、10の52乗を超えた人々の中から、僕の腹を突き破り、取り返しのつかない選択肢を選択する人が登場してくるのを僕は夢想し、計算し続ける。


オチがなかなか上手く書けない…

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