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相談屋  作者: 四季 華
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第八話

 二人は蔵に入った。いくつか箱の中身を見ると、アルバムがまとめて入れられている箱が見つかった。二人はその箱を外へ出して、アルバムを広げた。

 アルバムは全部で十二冊あり、美琴の両親がまだ結婚していない頃のものから、美琴が高校生の頃のものまであった。

「君がこの場所に行った記憶はないんだね?」

「ええ。少なくとも、物心がついてから行ったことはない」

「ご両親だけで旅行をすることもない?」

「そうね。私一人っ子だから、一人だけ置いていけなかったんだと思う」

「成程。じゃあ探す期間は、ご両親が付き合い始めてから君が生まれた頃までってわけだ」

 閃葵はアルバムの表紙に書かれている年号を確かめながら、ページを捲った。美琴も彼に倣い、昔のものからアルバムを開いて見ていく。

「色々な所に行ってるね……。これ、兼六園じゃないかな。こっちは原爆ドーム。東京タワーもあるし、これは五稜郭だね」

「二人とも、旅行が趣味だったの。私もよく家族旅行で色んな所に連れていってもらったもの」

「そんな君でも、この写真の場所は行ったことないんだ?」

「そう……。それが腑に落ちなくて」

 会話が途切れ、お互いがアルバムのページを捲っていると、美琴が「あっ」と声を上げた。

「見て、これ。この場所、写真と一緒じゃない?」

 閃葵が美琴の手元を覗くと、確かに件の写真と似たような風景が広がっている写真だった。

「うん、これ、そうだね。よし、まずは一枚見つかった。他にもあるかもしれない。探してみよう」

 その後も二人は写真を探した。すると、五枚ほど同じ場所の写真が見つかった。一つひとつ風景が微妙に違っていて、その枠の中には必ず母親の美春が立っていた。

「これだけみたいだな。これらの写真の中には必ずお母さんが立っているけど、二人で写っているのは俺達が最初に見つけた一枚だけだね。だからこんなに大切にしていたんだろう」

「私達が見つけた写真と、今見つけたこの五枚の写真、着ている服が一緒だから、同じ日に撮ったんだね」

「そうだろうね。さて、この場所は一体どこなんだろう? 場所がわかれば、お父さんの心に近づけるかもしれない」

「何か目印があればいいんだけど……」

 合計六枚の写真を並べると、ある程度の風景は見えてきた。右手には海があり、橋が架かっている。正面には低いが山がある。山の間には一本の川が流れていて、それは海に注いでいることが新たにわかった。そして、山の麓には家が建ち並んでいることもわかった。それも数件でなく、住宅地のようだ。

「ここから何かわかることはないかな? こんな風景、どこにでもあるかもしれないけど、確かに一か所ピッタリ合う場所があるはずだ」

「そうね……。……あれ? ね、これ見て」

 写真を見ていた美琴が、その内の一枚の左下を指差した。そこには、低い囲いの中に砂が敷き詰められていた。

「これ、砂場?」

「……うん、砂場みたいだね。山の中に砂場があるってことは、人工的なものだと考えられる。ということは……」

「公園?」

「恐らく」

 きっとこの少しだけ見えている砂は公園の砂場だろうと見当をつけた二人は、更なる手がかりを見つけようと他の写真も見比べた。

「こっちの海はどうかな? なかなか大きいけど」

「海かぁ……。山の下には街があるから、ここは海沿いの街ってことになるわね」

「日本海か瀬戸内海の線が強いかな」

「どうして?」

「見て。この海、波が立ってない。太平洋は大きな波が立ちやすいけど、日本海や瀬戸内海は比較的穏やかな波だからね。いや……待てよ……」

「どうしたの?」

 閃葵が顎に手を当てて真剣に考え込む。微動だにしない外見とは裏腹に、きっと彼の頭脳は高速回転をしているのだろう。美琴は何も言わずに待って、閃葵を見つめた。

「これ、海としての要素があまりないんだ」

「海としての要素?」

「普通、海と言えば、砂浜があって船着場があって、後は松並木やサーファーがいたりする。でも、ここにはそれがない。一つあるものと言えば、このかすかに写る白い影」

 閃葵は写真を摘まんで、もう片方の手でぼやけている白い影を指した。海に突き出ているそれは、大自然の中にある人工物。

「テトラポッド……?」

「そう。これ、写真のかなり端の方にあるよね。そして、そっちには若干だけど波が見える」

「どういうこと?」

「この写真の大部分に写っている水は、きっと湖だ」

 閃葵の推測に、美琴は一瞬呆けた。海だと思っていたものが、実は湖だった? だがしかし、海だという証明は今閃葵が言った通りだ。

「テトラポッドもあって、波もある。海なんじゃないの?」

「そう。奥の方に写っているのは海。そして、手前に写っているのは湖だ」

「湖が海に注いでいる……?」

「そう。そして、そんな場所は、一か所だけある」

「……浜名湖!」

 美琴ははっとして叫んだ。そうだ、浜名湖ならば、湖だが太平洋につながっている。

「もしかしたらここ……三ヶみっかびかもしれない」

「三ヶ日?」

 美琴の推測に、閃葵は聞き直した。写真から顔を上げて美琴を見ると、彼女は真面目な顔をして神妙に口を開いた。

「お父さんの、生まれ故郷」

「それだ」

 二人は頷き合った。



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