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決闘

 採掘公社支部の前の通りで100mほどの間隔を開けて向かい合ったアクロとシグナント達三人。

シオンはそんな彼らを、支部の中から出てきて観戦するつもりの人々の前で見守る。

その内審判役を買って出る者が現れ、場を仕切り始め通りの端から端まで人が脇に寄るようにして戦う場を整える。

 そして、そこここで一杯の酒を掛け金にした賭けを始める声がし始める。

シオンがすっかり戦いの準備が済んだアクロを見つめ続けた時間が10数分を過ぎた時、戦いの幕が上がった。


「へへ、先手は取らせてもらうぜ坊主!」


 シグナントと女の背を飛び越えるように連続で矢を射掛ける小柄な男。

その弓捌きは見事な物で、綺麗な曲線を描いてアクロに対して斜め上から矢が当たるような軌道を描く。

 大きな山形軌道で撃っているにも関わらず、全ての狙いはアクロに集中させている。

この援護に合わせてシグナントと槍女は即座にアクロに対して接近を試み、小柄な男の攻撃と自分達の攻撃を同期させようとする。

 だが、アクロはそれを許さなかった。


「遅いよ」


 一瞬で矢の制圧圏内を抜け、槍女に接近し、槍の柄を掴みながら彼女の鳩尾に膝蹴りを叩き込む。


「がっ!?お、おぶ……」


 消化器官の液を撒き散らしながら地面を転がり悶絶する槍女。

槍女の近くに居て「見えなかった」シグナントは、槍女が何故倒れているのか理解できない。


「な、おい!アリィ!?」


 狼狽するシグナントを置いて、アクロは小柄な男に駆け寄ろうとする。

だが小柄な男はアリィと呼ばれた女が倒された瞬間に、危ういモノを感じていた。

故に彼はもてる最大の力をもって撃った。

脇で観戦しているシオンを。

アクロはこれにも即座に反応し、手で風きり音の半分の速度で飛ぶ矢を掴み取る。

これに目を剥くも、小柄な男は執拗にシオンを狙った射撃でアクロの足を止め続ける。


「シグナント!いまだ!あの坊主が小娘をかばってる間にやっちまえ!」

「お、おう!」


 周囲からの卑怯だぞ!という野次には目もくれず、シグナントはアクロに駆け寄り大剣を大上段の振りかぶりからの一刀両断を試みる。

 しかしアクロは掴み取った矢を、スライドし開いた左腕に装填すると精砲機構で振り下ろされる大剣を下から撃ち砕いた。

 精砲機構から発射された光は朝日の中を空に向かってはっきりとした尾を引き、シグナントは腰を抜かす。


「くそっくそっ、なんだあの坊主!冗談じゃねえぞ!」


 最後につがえた矢を山なりの軌道でシオンに向けて撃ちながら、小柄な男は背中を向けて駆け出そうとする。

 しかしアクロはその矢の軌道を狙われた位置から軌道をなぞるように跳び再び矢を掴み取ると、今度は精砲機構を使わず軽く腕を振り投擲する。

 軌道を変え飛んだ矢は小柄な男の頭頂部をかすめ、その行く先の地面に突き刺さる。


「ひぃ!」


 反射的に足を止めた小柄な男の背後には、既にアクロが追いついていた。

男の腕を引き、無理やり自分の方に向かせたアクロは、男の肋骨と骨盤の間の柔らかく、重要な器官が詰まっている部分に拳を打ち込んだ。


「げっ……がぁぁ!」


 アリィのように悶絶しながら地面にくず折れる男。

彼を引きずりながら、アクロは腰を抜かしたままのシグナントの元へと戻る。

そして、男を掴んでいた腕を自由にしてから剣を抜き、シグナントの喉元へ刃を突きつけ宣言した。


「ボクの勝ち、だよね」


 圧倒的な展開についていけ無かった観客が、ようやく事態を把握して歓声を上げる。

シグナントは倒れていまだに苦しんでいる仲間と、柄しか残らなかった自らの愛剣の残骸を見て、ガクリと脂汗塗れの顔を下げて言った。


「あ、ああ。俺達の負けだ……」

「良かった。なるべく明日からの稼ぎに影響が出ないようにしたかったんだけど、剣壊しちゃってごめんね。あと、仲間の人の介抱はできるよね?」

「……くっ、できる。とっとといけ」


 アレだけの動きをして息一つ乱さぬアクロは、シグナントの屈辱に満ちた表情に背を向け、審判から勝利の判定を下されながらシオンの元へ歩み寄る。


「勝ったよ。シオン」

「うん。かっこよかったよ、アクロ」


 そして二人は手を繋ぎながら採掘公社支部に入っていく。

観客達が勝負がついたのを見て散っていく中、情報素子交換で短く会話する。

その内容は、予想通りのアクシデントが起きて予定通りに片付けた、というものだった。

シオンにとって、遅かれ早かれシグナント達と争いになるのは既定事項。

もし彼らが受け付け嬢と揉めずに、石版の情報を現金化する権利を保有していたとしても。

その後から自分達がより正確な情報をもたらす事で報酬の受取人が変わるとなれば、彼らが喧嘩を吹っかけてくることなど、火を見るよりも明らかな事だった。


 そしてアクロからシオンに提案があった。

2人とも今泊まっている宿屋を引き払い、監査官到着から発掘団が組まれるまで同室で過ごそうと言うのだ。

 これは下心無しの、シグナント達からのシオンに対する逆襲を防止する意味があったのだが。

年頃の少女が、年下とは言え既に年頃に入っている少年と部屋を同じくする。

その事には猛烈な抗議を行い、同じ宿屋に、ただし別室という所で妥協がなされたのだった。


 そんなやりとりを、すぐ傍の採掘公社支部の受付にたどり着くまでに済ませられるのが、掌を癒着させる事で行える情報素子によるやりとりのいい所である。

 ただ、味気ないと評される行動でもあるのだが……それはさておき、受付嬢に改めて話かけるシオン。


「採掘者らしく解決してきたわ。第398精鉱石採掘所の順路の石版の解読情報、確かに私シオンと、アクロが発掘者として登録します」

「了解致しました。御二人とも私の手にお触れになって個人情報素子を読み取らせてください。私を通じて公社のデータ係に記録させていただきます」

「解りました。それじゃ私からやるわね、アクロ」

「うん、解った」


 シオンがそっと受付の女性と手を癒着させ、手早く自身を個体として証明する情報を渡す。

そしてアクロに後を譲ったのだが、アクロは少し情報の整理が苦手なのか手間取っていた。

それでも無事に情報のやり取りを終えると、受付嬢は微笑みながら言った。


「順路の石版の情報の引渡し、ありがとうございました。新たな採掘場の発掘は人類全体への利益です。まことにありがとうございました」


 完璧な営業スマイルを浮かべた受付嬢に、アクロから質問が出た。


「あの、発掘登録者は監査官が来るまで公社から一定額の援助の元、街を出ないで過ごす事ってなってたと思いますけど。近くにある第398精鉱石発掘所にも行っちゃダメなんですか?」

「はい。発掘登録者が街の外に出られないという事項は全てにおいて優先されます。滞在中の公社からの支援金にご不満が?」

「いや、そういうわけじゃなくて。ボク精鉱石を自力で取って食べるのが日常なので……手持ちの精鉱石で足りるかなって心配で」

「ご不足の際は当支部でも精鉱石の販売を行っておりますので是非ご利用ください」

「そ、そうですか……」


 鋼の営業スマイルの前にアクロは気おされ、監査官を待つ間も採掘所に潜りたいという希望を引っ込める。

その様子にシオンは少し呆れたように言った。


「そのリュックサックの中に何百個も精鉱石入ってるでしょうに。それで足りないの?監査官は、最寄の大きな支部まで移動力強化系機能を持ってる人が知らせを持っていって、すぐ来ると思うから2週間も待たないと思うわよ」

「うーん、2週間かぁ。ボク結構食べるから……」

「全部の食事を精鉱石で片付けようとする貴方がおかしいの!普通のご飯も食べなさい!」

「わ、解った……でもボクだって精鉱石しか食べないわけじゃないんだよ?」

「じゃあ好きな食べ物言って見なさいよ」

「うーんと、えーっと……」


 そんな微笑ましいやり取りを始めようとした2人に、受付嬢が営業スマイルを浮かべたまま言った。


「他のお客様の迷惑になりますので、それ以上はホールに備えてある談話スペースでお願いします」


 その言葉に、アクロもシオンも、周囲に見られていることに気づく。

そして先ほどシグナント達を倒したときに浴びた視線と温度の違う注目のされ方に、2人揃って肩を小さくして移動したのだった。

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