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トラブル

 太陽が昇りかけの朝の市が立つような時間に、道中精鉱石を分け合って朝食代わりにしながらアクロとシオンは街にたどり着いた。

 シオンは採掘公社支部への道すがら、手を繋いでちょっとした話をアクロと情報でやり取りしていた。

 それは報酬の分配の変更などではなく、この後待っているだろうトラブルの話をしているのだ。


 採掘公社支部のセメント造りの建物の前に立つ2人。

アクロが前に立って押して開く木造のドアを開いて中に入る。

すると、その中の顔ぶれは変わるものの常にぱらぱらと人のいるホールの奥にある受付前では3人の男女が受付嬢に対して何かを訴えていた。


 赤い髪を逆立てたひょろ長い背の敵の黒に染色されたジャケットを身に付けた、身長と同じ剣を背負った男。

 槍でとんとんと床を突く軽金属の肩当から布を垂らして最低限の胸周りを隠しただけでスカートと布の間から桜色の肌を覗かせる女。

 そして何度も背中に背負った弓の位置を直す身軽そうな半袖の服から黄土色の肌を覗かせた小柄な男。

 受付に用があるシオンとアクロは当然その集団に近づく。


「だから、石版の解読結果を渡すって言ってんだろ!?なんで報酬を出せないなんていうんだよ!」

「石版の記録フィルムは確かにお預かりしました。だから報酬は「今は」出せないと申し上げているんです。公社が監査官を派遣しますので、その護衛をしていただき、監査官が石版から読み取れる情報に抜け落ちがないか確認してからでないと報酬はお出しできないんです」

「俺らは今すぐ金が欲しいんだよ。監査官の護衛なんぞ暇な奴らを捕まえてやらせりゃいいだろ」

「そうは言われましても。石版の解読と監査官を連れての再度の石版来訪は新規採掘所への情報発見者には義務になるんです。石版の情報を提出する時にいくつか義務が発生することを申し上げようとした時に、貴方達は解っているといいましたよね?義務の不履行は債務が発生しますよ」

「あのさぁ、渡したフィルムの内容が古代語だっていうのは確認取れてんでしょ?だったらとっととフィルムの買い取り分の金だけでも出して欲しいんだけど」


 自らもいらだっているのか、槍の女が横から口をはさむ。

しかしそれでも黒曜石のような肌の受付嬢は機械的な表情を崩さない。


「それだけだと古代語がわかる人間が詐欺を働くことがあるのでフィルムの買い取りだけでも確認が必要になりますと何度も申し上げました」

「まぁまぁ姉ちゃん。俺達は金さえもらえればフィルムを渡して引っ込むっていってんの。義務とかいいじゃねえか。俺達採掘者は自由な職業!そうだろ?」

「採掘者は正確には職業ではありません。採掘公社は精鉱石を採掘者から買い上げ、大きな市場として売買を行う事を担う組織ではありますが、採掘者を雇用しているわけではありませんので」

「ああうるせえな、とにかく早いとここのぺらいのに金を払ってくれって言ってるんだよ、簡単なことだろ?」

「ですから……」


 受付の女性の女性があくまで淡々と対応するのを遮って、シオンが声を掛けた。


「失礼。なんだかお話の途中みたいだけど順路の石版の情報を持ってきたわ」


 その言葉に、正確には声にカウンターの前の3人が反応する。

いっせいに振り向き、その顔を歪ませる。


「失礼します。順路の石版の情報とのことですが、必要な物は把握していらっしゃいますか?」

「ええ、文章写し取り用のフィルムの全文に、解読内容の解る物、もしくはそれに類する情報素子ですね」

「その通りです。義務についてはご存知ですか?」

「公社の古代文字解読監察官を街から離れずに待つこと、及びその護衛をしながらの採掘場探索、そして情報が確定したと判断された場合の発掘団への参加。他にあります?」

「ありません。それでは早速フィルムと解読内容の情報を手を介して、もしくはそれ以外の媒体でも情報に残しているならそれを提出してください」

「はい、ちょっと待ってくださいね。……これがフィルム全文と、解読した内容をしたためたメモ帳です。一応情報素子のやり取りもしておきましょう」


 背嚢から、記号のような変色のあるフィルム数枚と、メモ帳を差し出して、さらに握手まで求めるシオンに脇から長身の男が声をかける。


「おい」

「かしこまりました、それでは手を」

「ちょっと待てよ!」


 無視して話を進めようとしたシオンと受付嬢の会話に、長身の男が割り込む。

シオンが見たその男の顔は焦りと怒りに歪んでいた。


「おい、お前俺達とチーム組んでただろ。何しれっと自分の手柄ですみたいな顔で割り込んできてるんだよ」

「私だけの手柄じゃないわ。彼、アクロの助けが無かったら調査は完了しなかったわ」


 ちらりとアクロに視線を向けるシオン。

彼女の動きにつられて三人組もアクロのほうに視線を流す。


「どうも。アクロです。貴方達は採掘所内にシオンを置き去りにしたそうですね。石版の情報でお金を貰うのは諦めた方がいいと思いますよ」


 視線を向けられたアクロが3人に言い放つ。

それに気色ばんだのは長身の男だ。

受付嬢やシオンの事を忘れたかのようにアクロに詰め寄る、それに合わせてシオンはさりげなくアクロの後ろまで戻る。

 槍の女の手が空を切る、シオンを捕まえようとしたのだ。


「なんで俺達に金をもらう権利がねえと思うんだ、おい」

「敵からの圧力に耐えられないから撤退するっていう状況判断まではいいと思う。むしろそこまではシオンより君達に理があると思う。でも置き去りにしてフィルムも取って行ったのは明らかにダメだ。君達は奪うのではなくて協調して一度撤退した後サイド調査に必要な準備をしてアタックするべきだった」

「そんなことしてて他の奴に獲物を掻っ攫われたらどうするんだよ、えぇっ?」

「それは実力不足だよね。受け入れるべきだ」

「ざけんな!金をそんなことで諦められるか!」

「諦められなきゃ命を代金にされるだけだ。君達は無謀だ」

「……はぁ、もういいよシグナント。こいつとあたしらで決闘しよう」

「おお!それは妙案だぜ。お互い後腐れなくケリをつけられる、昔っからの採掘者同士の解決法だなぁ」


 決闘という言葉に、ホール内に居た人々の視線が集まる。

それを見て取った小柄な男は声を張り上げる。


「そうだ!決闘だ!情報の所有者としてどちらが正当か、いますぐ決闘だ!おい皆、立会人になってくれよな!」


 この口上に周囲ががやがやと騒がしくなり始め、シオンはため息をついた。

それを見たのか槍の女が意地悪い笑みを浮かべながら言う。


「あんたらも採掘者の端くれなら当然受けるよねぇ。怖いなら受けなくてもいいけど、そうなったらこの辺りじゃ同業者に舐められるんだから」


 そういった女と仲間達はシオンに戦闘能力が無い事を知っている。

ならばアクロと名乗った新顔を3人で倒せばいい、その程度に思っているのだろう。


「シオンは戦えないから、僕が1人で受けるよ。表に出ようか」


 恐れも無く、簡単に返された言葉に三人組は口元を笑みで歪める。

そして先ほどまでの不機嫌が嘘のように意気揚々とした調子でシグナントと呼ばれた長身の男が声を張り上げる。


「よぉし、じゃあ表に出ろ。すぐにやろうぜ。こちとら長い時間そこの空気の読めない受付に時間取らされてるんだ、さっさと済ますぞ」

「坊やには悪いけど、銭の種は貰ったよ」

「はっはっは、いい度胸だ坊主!そうくるならこっちも全力でいかんとな!」


 口々に勝利を確信した言葉を発しながら採掘公社支部の前の通りに出て行く3人。

その後を追おうとするアクロにシオンは言った。


「あいつら、あんなだけど実力はそれなりだから。気をつけてね、アクロ」

「大丈夫。ボクは負けない。ところでさ、ボクの挑発、上手く行ってた?」

「バッチリ。じゃあ、信じてるから行ってきて、アクロ」

「うん」


 軽くシオンに向かって手を振ってから外に出て行くアクロ。

シオンも勝負の結果を見守る為に、その後を追うのだった。

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