表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

街に戻るまでの道はお喋りで

 2人が採掘所を抜け出したときには朝日が出る所だった。

街に向かって歩きながら2人は弾んだ声で会話する。


「はは、ちょっと眠いと思ったら徹夜だったね」


「そうね、身だしなみの事も有るし、街に戻ったらお互い宿屋に戻って一旦休みましょ……といいたい所だけど、採掘公社への石版の調査結果の報告には先に付き合ってね。私の報告が入る前に、私の事を置き去りにした奴らが公社に解読結果を報告して、考証人を連れて今の状態の石版を発見されたらどうにもならなくなっちゃうから」


「解った。それにしてもいい朝日だ……キラキラとした輝きで全身に力が廻る気がする」

「貴方、太陽光で発力できるの?剣も凄腕だし、探知もできるみたいだし、多芸ね」

「まだいくつか機能はあるよ」

「へぇ、たとえばどんな?」

「うーん、簡単に見せられるのは……アレかな」

「なになに?見せてよアクロ」


 すっかり気安くなった感じのあるシオンの催促に応えるように、道端に落ちている石を拾って、左腕を真っ直ぐ近くの木の幹に伸ばすと腕が身体の外側にスライドして溝を作る。

 そこに入った石を発光と共に打ち出し、木の幹に穴をうがつ。

それを見てシオンは呆れたような声を発する。


「貴方、精砲機構までつけてるの?そんなの普通戦争くらいでしか使わない、超火力系機能じゃない」


 シオンの呆れを感じ取ったのか、アクロは慌てたように弁解をする。


「いや、第3精鉱石採掘所の深層の敵は専用の弾を使った精砲機構を使ってようやく装甲にひびが入るくらいの硬さの敵もいるんだ。あそこに深く潜る戦闘系採掘者は大抵使えるよ」


 アクロの言葉に、一転して目を輝かせるシオン。


「そんな敵でるのかなりの深層よね、ねねっ、どのくらいの深さまで潜ってたの?」

「えーっと、言ってもなんでここに来たのか聞かない?」

「うんうん、約束する。だから教えてっ」

「じゃあ言うけど、第4397層」

「43……ええ!?そんな深い所潜ってたのにこんな100層くらいしかない採掘所に来たの?うーん、でも服と装備はとってもじゃないけどそんな深層に潜ってたとは見えないし……装備を手放すような何かが……あ、ごめん。聞かない約束だったよね。忘れて」


 シオンが思わず発しそうになった詮索の言葉を自ら打ち消してくれた事にアクロは安堵しながら、ちょっとだけ疑問に答える事にした。


「ちょっと理由があってね。装備は全部処分しちゃった。それで手元に残したお金で買える装備で潜れそうな場所を探してたらここについてさ。どの位の深さまでいけるか試してたんだ」


 一旦言葉を切り、少し言いにくそうにアクロは続ける。


「あんまり楽な敵過ぎて何も無ければもう少し古い番号の、深い層のある採掘所に行くつもりだったんだけど……」

「私と出会っちゃった?」

「うーん、その言い方でいいのかな?とりあえず、新採掘場発掘なんて面白そうな事を運んできてはくれたよね」

「まだ決定じゃないわよ。でも、今持ってる情報を提出すれば参加できる自信はあるわ」

「楽しみだなぁ」

「あ、そうだ。今のうちにどの宿屋に泊まってるかとかの情報を交換しましょ。待ち合わせ場所はしばらく公社の採掘者ロビーでいいわよね」

「いいよ。はい」


 アクロが手を差し出すとシオンはその手を握る。

そして次の瞬間には2人の手は癒着し、瞬く間に戻る。


「ちゃんとやり取りできたわね。貴方石版解読の報酬が出たら装備と宿屋、ちょっと良いの買った方がいいわよ」

「そう?でもまようなぁ、懐に入るお金で買える武器より下手したら生身の方が強いよ……」

「じゃあなんでその剣ぶら下げてるの?」

「それは慣れた武器に近い形状だからかなぁ。肉弾戦しても良いんだけど、改めて装備を買ったときに感覚を狂わせないようにしてるってわけ」

「ふーん、しっかり考えてるんだ。でもやっぱり装備はなんとかしなさい。特に防具。ただの麻の上下って命知らずにもほどがあるわ」


 アクロの事を慮ったシオンの言葉も、アクロには少し効果が薄いようで、アクロは首をかしげながら言う。


「んー。ボク再生系機能もあるから、ちょっと攻撃を受けた程度なら精鉱石食べれば治っちゃうんだよね。だから防具は後回しでいいかなって」

「いくら再生系機能持ってても防具ないと痛いでしょうに」

「あそこの敵の攻撃なら受けても平気だよ。ためしにシオンと会う前に重量級の攻撃を受けてみたけど、ちょっと叩かれたかなって感じだった」

「そんなことしてたの。貴方、本当にこのあたりじゃ考えられない身体の造りしてるわ」

「ちょっと触ってみる?」

「触って欲しいの?意外とエッチなんだ」

「へ、なにが」

「んもう、ちょっとは慌てなさいよつまんないわね」

「え?なんかわからないけど、ごめん」

「……ごめ、私のほうこそ何言ってるんだろうね。ちょっとわけのわからないこと言っちゃった。……あの、触れていいの?」


 本当に何がなんだか解っていないという様子のアクロの様子に、からかおうとしていたシオンは逆になんだか申し訳ないことをしているような気分になった。

 こういった身体に触れることへのからかいはからかわれる側にある程度羞恥心がないと成立しないが、アクロは自分の身体に触れられることに対する羞恥は欠片も無いようだ。

 逆にアクロがさっぱりし過ぎていてシオンが自分だけ意識しているようで恥ずかしい、という気持ちになってしまったようだ。

 それでも、同い年の少年の身体を気兼ねなく触れる機会などそうないからなのか、彼女は触る気でいるようだ。


「うん、手で硬度計測できるなら、ボクの肉体強度わかりやすいでしょ」

「うん。じゃ、触るね?」


 若干、恥じらいを持った様子でそろそろとアクロの身体に触れるシオン。

その手は先ほどの情報交換の時のように物理的に癒着する事は無かったか、しっとりと掌に鍛えられた身体の柔軟な筋肉にどこまでも沈み込むような錯覚を覚えた瞬間。


「えい」


 何気ない声と共にそのスポンジのような柔肉は金属光沢を持つ肌色に相応しい、強固な手ごたえをシオンの触感に返してくる。

 がっちりとした感触の肌をシオンが掌の感覚器官で硬度を計測すると、金属の中でも硬度と靱性に優れている事で有名な鉱石。

 その鉱石で作られた防具は重量種アポリスタ型と呼ばれる、基本的にどんな攻撃を放っても傷がつかない傷がつかない採掘所の壁面を抉る敵の攻撃を受け止めるというそんな物質。

 そのアコカイスタリウムと同程度の性質を持つという結果がシオンの脳内に返る。

そのことに驚きながらも、その見事な感触に、始めは二の腕をつかんでいたのをわき腹、胸板、腹部と麻のシャツ越しにまさぐっていくシオン。

 その行動に透明な歯を見せながら笑い声を上げるアクロ。


「あはは!くすぐったいよシオン!」

「え?へ、へぁ!ご、ごめんなさい!調子に乗りすぎたわ!」


 金属のような身体でも触覚は鈍らないのか、余韻に任せてくすくす笑っているアクロの姿にシオンは正気に戻る。

腕はともかく胸とか腹とかはやりすぎでしょ!と内心叫ぶシオン。

しかし、そんな叫びを上げる一方で、あの身体の感触は頼もしかったな、とも感じた。

見た感じは太すぎず細すぎずといった感じだったが、力を篭められて硬化した筋肉は何故か太いと感じさせるものだった。


「あのっ」

「なあにシオン」

「私がアクロに触ったし、アクロも……触ってみる?も、勿論腕、腕の話だけど」

「うーん、ボクがシオンの肉体強度を知っておくのも悪くないかな?じゃあちょっと触らせてもらうね」

「うん。はいどうぞ」


 おずおずと手を差し伸べるシオンの腕を、その感触を確かめる為に、やわやわと握りこんだり摩ったりするアクロ。

その感触に何かを感じたのか、真白い顔の頬を紅く染めているシオンにアクロは言った。


「力入れてる?ふにゃふにゃだよ」


 白塗りの陶器のような肌の色とは裏腹に、シオンの肌はまるで綿のように柔らかかった。

それはアクロにとって新鮮な柔らかさだった。

 彼にとっては男性も女性も、過酷な採掘所内での生活を行う為に強固な肉体を形成しているものが当然だったからだ。


「力、いれたわよ」

「これで?うーん。解読者特化って大変そうだね。これじゃ深層の敵の攻撃が掠っただけで腕が飛んだりしちゃいそう」

「私そんな物騒な深さまで潜ったことないもの……というか、私はあくまで階層ごとの敵の位置を探ったり、石版や採掘所の動力を入れる為の読解をするのがお仕事だから、そういうの考えなくていいの。今日の石版だってスラスラ読んだ様に見えるかもしれないけど、私の家系秘伝の古代文章読解法を記した教本の知識が無かったら読めなかったわ」


 力を入れたとシオンが言った後の腕の感触も柔らかいなぁという感想を抱いたアクロは腕からそっと手を外す。

 そしてその感触よりも、シオンの言った教本が気になった。


「その教本ってどの位の厚さがあるの?」

「1冊が貴方の腕くらいの厚さがあるの、それが30万巻くらいあるのね。それで今のところ発見されてる殆どの古代文字の解読は網羅してるわ」


 どこか自慢げにいうシオンに、アクロは凄い事を聞いたという輝く瞳を向けながら言った。


「へぇ、もしかしてその記憶を自由に引き出すために記憶の付箋機能使ってるんだね」

「私に出来る限り機能を強化してるわ」

「そういうの、公社の順路の石版を確認する監査官とか、事務仕事に就いてる人が取ってるイメージだったよ」

「公社の監査官は私も目指したわ。でも感知系機能も選択したせいで新しく古代語が発見された時に選択的な記憶の整理と消去をする機能がつけられなくて、機能の有無ではねられちゃった」


 軽く肩をすくめて頭を振るシオンを横目にしながらアクロは口を開いた。


「そうなんだ。それは残念だったね」

「ありがとうね、慰めてくれて。でも今は仕方ないかなーって思ってるの。結構人が機能を選ぶ時って周囲の環境に流されるって言うか……そういうのあるわよね。家族にあわせて機能選んじゃったりするの」

「そうだね。ボクも自分の好きなように機能を構築してたら精砲機構じゃなくて武装変異機構とか取ってたと思うよ」

「なんでよ。剣でアレだけ強いなら武装変異機構なんて扱いにくい機能取る必要ないでしょ?」


 シオンの疑問にアクロは大仰に手を振りながら言った。


「順序が逆なんだよね。ボク小さい頃は身体を変化させて色んな武器を扱うのに憧れてたんだけど、周りの人に色んな武器を使わせてもらったら剣の才能しかないから武装変異機構を諦めさせられたって所があるんだ。あーあ、憧れてたんだけどなぁ、腕と足を剣にして肢体剣術で戦うの」

「あはは、武装変異機構でも剣なんだ」

「あれ?そういえばそうだね。結局剣なら確かに武装変異機構の機能を獲得する意味は無いね。すごいや、皆の言ってた事は正しかった!あははは!」


 今わかったというように笑うアクロを見ながら、シオンは彼が何歳なのか気になった。

見た目はそんなに自分と離れていないように見える。

 でもちょっとこの子は外見以上に幼い面が多すぎるように見えるから、気になるのだ。


「そういえばさ、私14歳なんだけど、アクロは何歳?」

「ボク?ボクは12歳」

「年下!?」


 紅い瞳を丸く見開くシオンに、アクロは不本意そうな少し膨れた顔を向ける。


「なんで驚くのさ。ボクのほうが大きいから?」

「だ、だってそんな体つき……あ、でも背はまだそんな高くないか」

「これから伸びると思うよ。あ、体つきがどうかした?」

「だって、あんな逞しいっていうか、かっちかちな身体で年下だなんて……貴方が精鉱石を食べ続けた身体だからって、信じられない」

「ボクの周りって皆こんな感じだったよ。採掘集落って知ってるかな」

「えっと、確か採掘所の中で産まれて採掘所の中を拠点に生活する人達だっけ。……まさかそうなの?」


 初めて見るものを観察するような、好奇心に満ちた光を紅い瞳に宿らせながらシオンは聞いた。

その問いに軽く頷いてアクロは答えた。


「うん。気づいたら精鉱石食べてたって言ったよね。あれ、精鉱石以外に食べる物が無かったって言うのもあるんだ」

「じゃ、じゃあ採掘者として活動始めたのって何歳くらいからなの?」

「んー、確か6歳くらいかな。勿論集落の大人の人に浅い層まで案内してもらってから戦うんだけど」

「は、はい!?6歳からって、いくらなんでも無茶だわ!私だって採掘者として機能の構築を指導されたりしたけど、本格的に潜り始めたのは12の頃からよ!?それで散々経験が無いからって軽い扱いされて……それを6歳からって、無茶苦茶だわ!」


 泡を食ったように慌てるシオンに、アクロは気楽に答えた。


「ははは、ボクもまだ若い奴扱いされるけど、実際は身内でチームを組んでるようなものだったからさ。シオンが思ってるほど無茶な事はしてなかったよ。むしろ集落の皆が採ってきてくれる精鉱石を食べて身体は強化されてたんだから、外の採掘者になりたての人よりは恵まれてたんだと思う」

「そうなの?貴方って凄いのね。ちょっと子供っぽいけど」

「そっかな。これでも大人っぽくしてるつもりなんだよ」

「貴方の中で大人ってどんなものなのよ」

「うんとね。思った事は真っ直ぐ言って、意見がぶつかったらしっかり話し合って、出た結論には文句を言わずに従うんだ。でも、その結論が本当に間違ったことだと思ったら、一人でも戦う。そんな人」

「……なんだか物語の主役みたい。大人ってそんな綺麗なものじゃないと思うけど」

「ボクが思う大人だからね。皆がそうとは限らないよ」

「へぇー……ちゃんと考えてるのね」

「わかんない。ボクの周りにいた大人の人がそういう人達だったってだけだよ、きっと」

「そうなんだ。じゃあ私の大人像も聞いてくれる?」

「うん。まだ街までしばらく掛かるし。聞きたいな」


 こうして2人は語る事が尽きないかのように様々な事を語りながら街の採掘公社支部へ向かう。

そんな2人の影は日が昇っていくことによって徐々に短くなっていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ