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小さな花を咲かせて

 アクロに先導され、シオンに続いて採掘所中枢に入った古代語解読者達は、事前のシオンの探知によって在り処の分かっていた起動手引書をそれぞれ読み進める。

 その後に声掛け確認をしあい、起動までの手順を確かな物にしていく。

そしてそれが全て集約された時に、発掘登録者であり優先権を持つシオンが採掘所の動力に火を入れる。

 まず文字列盤の、明らかに異質な円形のスイッチを押し込む。

すると文字列盤を囲んでいた壁面に古代文字が浮かび上がる。

浮かび上がった文字列を追いながら、シオンは次々に要求される文字列の入力を進めていく。

それは例えば第5次元動力炉開放といった単語であったり、動力伝達路順次開放といった単語であったりするのだが。

 解読してあらかた言葉の意味は分かるものの、第5次元動力と言うものがどんなモノなのか解らないままに起動手順を進めていく。

 これらの操作の最終段階として、シオンは最後の単語を入力する、新人類用燃料生産拠点稼動の一文を。


 採掘所内に居た人間全てが施設の隅々まで動力の奔流が駆け巡る音を聞いた。

それは当然アクロとシオンの耳にも届く。


「アクロ!」

「やったねシオン、おめでとう!」

「アクロ、アクロ!」


 採掘所を起動するという夢を叶えて感極まったのか、アクロに抱きつくシオンの腕は彼の首に回されて思い切り身体が触れ合う。

 アクロはそんなシオンの身体を抱きしめ返し、彼女と耳を合わせ一頻り喜びを分かち合ってはしゃいでから再び身体を離した。

 そして彼はシオンの手を握り眼を見つめながら言った。


「シオン、聞いて欲しい」

「何?今ならどんな話でも最高の気分で聞けそうよ!」


 数ヶ月の付き合いで見た中でも最高の笑顔で答えるシオンに、アクロは自分の気持ちを遠慮なく形にする。


「あの日、ボクが君に傷をつけた日から一緒に居て解った。ボクにはシオン、君が好きだ。だから、恋人になってくれないかい?」


 中枢室内に残っていた解読者達がはっきりと響くその声に思わず振り返る。

その視線の中、シオンは白磁の肌を真っ赤にして言葉に詰まる。


「なっ、なっ、なんでこんなタイミングで言うのよ!」

「言ったよね、中枢を動かすまで自分の気持ちを探しておくって。ボクはあの日からずっと思ってた。ボクはシオンを好きなのか」

「そ、そういえばそんなこと言ってたわね」

「ボク、最初は難しく考えてた。愛ってなんなのかなとか、好きってどういうことだろうとか。でも改めてシオンと一緒に採掘する毎日で気づいたんだ」

「……何に?」


 赤みの残る顔上げ、アクロの顔を見つめながらシオンが問うと、アクロは僅かに彼女に顔を近づけながら言う。


「これから先も、ずっとシオンの傍に居て、シオンの声を聞いて、その綺麗な金の髪と夢に輝く眼を見ていたいって事が好きって事にだよ!」

「アクロ……」

「シオンは、ボクの事をそんな風に思ってくれるかな」

「わ……た……し……わたし、私、同じ気持ちよ。ずっとアクロと居たい。アクロの傍が一番安心するの。アクロをテントから追い出して1人で寝てるとき寂しかった。肌を合わせるわけでもないのに、私だけで寝るのは寂しかったのよ。そこにアクロが居て欲しいって、確かに思った」

「じゃあ、ボクの恋人になってくれる?」

「うん!うん、うん……なる。今日から私はアクロの恋人よ」


 再びアクロを抱きしめたシオンの耳元でアクロが囁いた。


「じゃあ、キスしてもいいかな?」

「それは、その……こんな皆が見てる前じゃ……」


 ふたたび羞恥によって顔の赤みを強めたシオンの答えに、アクロはシオンを横抱きにして持ち上げるながら言う。


「じゃあ、皆が見てないところに行こう!」

「ちょ、ちょっとアクロ!」

「今日の所はもう上がろって、二人きりになろう、シオン」

「そ、そんなのダメよ。採掘所を起動させた事を報告しなきゃ……」

「じゃあ、ちょっとだけ。それでもだめ?」

「……ちょっと、だけなら」

「よし、そうと決まったらすぐ外にでよう!行くよシオン!」

「きゃぁぁ!ちょっとアクロ!」


 シオンが驚くのも構わずアクロは採掘所の通路を地上に向かって駆け出す。

静かだけれど採掘所の壁面の境がぶれるほどの速度に、シオンはしっかりと自分の腕をアクロの首に回してしがみつく。

 そんな事をしなくても力強いアクロの腕は彼女を落とさないだろうが、そこはシオンが感じる速度に対する恐怖心というものがある。

 しかし恐怖感は慣れればスリルに変わり、道中沸いていた敵は全て圧倒的な速度からの跳び蹴りで吹き飛ばしながらひた走るアクロの胸の中で、シオンは最後には楽しい気分になっていたのだった。




 134層の道のりをアクロは2時間半ほどで駆け抜けた。

そして、さらに発掘団の駐留地から離れた採掘所の裏手に周って完全に二人きりの状況を作る。

「あ、貴方ねぇ。こんな強引に二人っきりになって……そんなにしたいの?キス」

「うん。凄くしたい。二人が恋人になったって言う記念に、シオンのファーストキスが欲しい」


 アクロの言葉に、気まずそうに目を逸らすシオンだが、それを見てアクロはシオンの肩を軽く揺さぶった。


「も、もしかしてボクが初めてじゃないの!?誰!誰としたの!?」

「……お、お父さん……生まれた時に思いっきりされたって……」


 シオンの答えに、アクロは腹を抱えて笑い出しす。


「あ、あははははははは!おと、おとーさんって!数えない、そんなの無効だよ!」

「そ、そうよね、無効よね!」


 うんうんと頷くシオンに、ぴたりと笑うのをやめたアクロが問いかける。


「じゃ、初めてだね。キス」

「……うん」

「貰うね」

「……ん」


 貰うといってから、シオンの顎を少し引き上げながら、自分の身を少し屈めて唇を重ねる。

アクロも緊張していたが、彼は戦闘という肉体を制御して行う行動のプロと言っていい人間なので、焦りすぎて歯をぶつけるなどという笑いの種になりそうな事はしない。

 初めは柔らかく、しかし確実にシオンの唇に自らのそれの感触を馴染ませるように、何度も啄ばむ。

舌は入れずに終わったが、唇を離してからもシオンはぼうっとした様子でアクロに問いかけた。


「キス、上手いのねアクロ」

「そう?ボク初めてだからとにかく痛くならないように、でも感触はしっかり残るようにしただけなんだけど」

「うん……しっかりアクロの唇の感触伝わったよ。なんだか、胸の中が暖かいわ……」


 うっとりとしたように目を瞑るシオンに、アクロが囁きかける。


「もう一回、報告に行く前にする?」

「……もう一回だけね」


 そうして二人の影は再び重なった……のだが、結局お互いが離れたのは数十分後だった。

こうして晴れてお互いの気持ちを確認した後に、メビリムに採掘所稼動の報告をした二人は新たな採掘所を発掘した人間として発掘公社の公的な記録に残る事になり、多額の報奨金を手に入れた。

こうしては出会った2人は、1度は離れそうになりながらも、気持ちを結んで恋人になったのだった。

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