百物語
ジンクスとは違いますが…
「百物語しようぜ」
暇を持て余した二雄が、そんなことを言いだした。
「は?」
一也とゲームをしていた三葉が振り返る。
その瞬間、三葉のキャラクターは谷底へと落下して行った。
「で、ウチでやるわけ」
玄関を空けた色葉がうんざりした声を出した。
「おう!もう蝋燭も買ってきたぜ」
「嫌よ」
即答する。
「こわいの嫌いだったか?」
意外そうに二雄が尋ねる。
色葉は以前、ホラーを見ていたはずだ。
「うん。最近すごいの聞いちゃって…」
思い出したのか、眉間に深い皺が刻まれる。
「お、俺が…っ」
「怖くても俺が隣にいるからさ」
一也の言葉を遮って、三葉が色葉に笑いかける。
「…わかった」
「三葉の」言葉に、色葉は渋々ながらも頷いた。
ちらり、と二雄は隣を見る。
そこには肩を落とす一也の姿があった。
「…どんまい」
「……慰めんな」
「さて、と」
夜も更けた頃、部屋の床に蝋燭を100本立て終え、四人は一息ついた。
左側の落ち着いた可愛らしい空間と、右側のシンプルで無機質な空間の中で、それらは異様な雰囲気を醸し出している。
三葉と色葉は、広い一室を家具で分けて共有している。今は家具を移動させ、真ん中に広い空間を作り出していた。
「火ぃ、つけるか」
二雄が買ってきたライターを取りだす。
「……ねぇ」
「ん?」
蝋燭の空き箱を手にした色葉が声を上げた。
「この蝋燭さ、燃焼時間3時間って書いてあるんだけど…」
「うん?」
「百物語って、百話話さなきゃいけないんだよね」
「…うん」
「無理じゃない?」
「………」
3時間=180分
180分÷100=
「……超早口で」
「無理だろ」
二雄の言葉を、三葉が一刀両断する。
「あ…」
一也もはた、と何かに気づく。
「おれ、そんなに怖い話も不思議な話も知らねー」
100話を4人で話すとなれば、単純に考えて1人25話話さなければならない。
「……」
おそらくこの場にいる誰もが、25話分の話題は持ち合わせてはいないだろう。
「……要は準備不足ってこと?」
黙りこくった二雄に、色葉の言葉が突き刺さる。
「お、思い付きだったんだよ!」
結論:百物語は、まず実行することが困難である。
「さー、片付けよ。三葉、この前のゲームやろうぜ」
「おーよ。色葉、一也と二雄俺の方で寝るから、そっちで寝ていい?」
「良いよー」
百物語
〈百本目の蝋燭が消えたときに何かが起こる〉