某ソフトキャンディ
「……」
告るべきか、否か。
「…………」
……否か。
教室の喧騒を眺め、一也は延々と考えていた。
………否か。
たかが花占い。
だがその花占いの結果に、これほどダメージを受けているのだ。バカにはできない。
「元気ないね」
声をかけられた。
目を遣ると、色葉が顔を覗き込んでいた。
今まさに、自分を悩ます原因。花占いで散々自分を嫌いだと言った、その人。
「………」
告白、するか。
否か。
彼女を目の前に、また二択を考える。
「おーい。…三葉ぁ、重症じゃん。昨日なんかあった?」
色葉が反応の無い一也を見て声を上げる。
「俺らのせいじゃねー」
色葉のノートを必死に写している三葉が、顔も上げずに答えた。
ちなみに、色葉と三葉は双子の兄妹だ。
同じクラスになった二人は、非常に仲が良い。
うらやましいほどに。
うらやましいほどに!
「一也」
色葉が一也の名を呼ぶ。
三葉に向けていた、ひがみのこもった視線をあわてて色葉に戻す。
「元気のない君に、これをあげよう」
笑顔で手を出す色葉に、つられて手を出した。
掌に落とされたのは、ファンシーな包装紙のキャンディ。
「それ、同じマークが10個あるとラッキーなんだって」
笑顔と共に言われたソレに。
言外に「元気出せ」と言われているような気がして。
優しさに頬が緩む。
「じゃ、部活言ってくるよ」
そう言って教室を出ていく色葉を、幾分か元気になった声で送り出した。
掌にあるキャンディ。
一つを開いて口に入れた。
「……甘ぇ」
――同じマークが10個あるとラッキーなんだって――
色葉の言葉を思い出して、何となく数えてみる。
「……」
「お?どうした?」
突然立ち上がった一也に、二雄が声をかける。
「告ってくる!」
勢いのまま叫んで、教室を飛び出した。
目指すは、色葉のいる体育館。
「いきなり、どうしたよ」
「さぁ」
教室は突然の告白宣言にざわめいていた。
二雄と三葉も、あまりの唐突さに首を傾げる。
あの一也が、告白をしようと思い立ったことすら信じられない。
「賭けるか?」
「…可愛い妹をやりたくはない。振られるに1000円」
「ブラコン…。じゃあ、おっけーに10円」
「10?!」
少ないっ!と思わず声を上げたのは、二人の話を聞いていたクラスメイト。
勝率なんて、所詮そんなもの。
体育館への道を走る。
鼓動の乱れは全力疾走のせいにする。
手には、くしゃくしゃになったキャンディの包装紙。
体育館のドアを開く。
色葉の姿を見つけて、一也は口を開いた。
「色葉!」
色葉が振り返る。
思いの丈を、声に乗せて。
三文字の言葉を全力で。
同時に色葉が口を開いたように見えた。
「一也、よけて!」
「えっ……」
顔面を襲った衝撃に、意識は強制退場。
バスケットボールと熱い接吻を交わした一也は、真っ先に駆け寄ってきた色葉のことなど知らない。
マッチョなバスケ顧問の先生にお姫様抱っこで保健室に運ばれたことも、しばらくは知らないままだ。
後にその出来事が、額にできたたんこぶより深く、長く、一也の心を抉ることになるのだけれど。
好きだ。
この三文字が、ちゃんと届いていればいいのだけれど。
はらり、落ちたキャンディの包み紙。
小さな紙には女の子の顔が10個並んでいた。
大量生産のラッキーなんてこんなものさ、と言ってみる。
結論から言えば、告白は失敗です。
色葉は気付きませんでした。