いち、花占い
秋晴れの空の下。
「好き、嫌い、好き、嫌い」
屋上でたむろする3人の男子生徒の姿があった。
「……何やってんの?」
先ほどから好きと嫌いを連呼している一也を見て、つい先ほど来たばかりの二雄が問う。
「花占いだと」
何やら懸命な一也の代わりに、答えたのは三葉だ。
「ふーん…って、はぁ?」
「さっきから何度やっても『嫌い』で終わるから、躍起になってんの」
そういいながらも、三葉の視線は弁当の中身に釘付けだ。
好物のから揚げが入っているからか、花弁を必死の形相でむしり続ける男とのかかわりを避けるためか。
一也の片思いは、仲間内では有名な話だ。
一向に進展がないその恋の鬱憤が、どうやら花に向けられたらしい。
「あぁ…周りに散らばってる花びらはそのせいか」
コンクリートの屋上で健気に生えていた花たちはほとんど犠牲になったようだ。
一也の周りには散らされた花弁が広がり、そこだけ色彩鮮やかな光景が広がっている。
「あ、くそ。まただ…!」
一也が悔しそうにつぶやきながら、手にしていた花を放る。
花弁を一枚だけ残した花は、風邪に吹かれて二雄の足もとへと転がってきた。
「嫌い」を示す最後の花弁を、むしらずに放る一也の心理はわからないわけでもない。
誰だってそんな応えは見たくないに決まっている。
新たな犠牲を求めて視線を動かす一也は、鬼気迫るものがあった。
屋上の隅に生えていた哀れな花を見つけると、すぐさま引っこ抜くのもいかがなものか。
それにしても、と二雄はぼんやり思う。
「似合わねー」
大の男が花占いなんて。
足元のむしられた花を拾う。
最後の花弁をちぎって、その花弁に掛けられるはずだった言葉を紡ぐ。
一也には聞かれないように。
「諦めればいいのにねー」
三葉の言葉は、どちらに向けられた言葉だろう。
あっれ、そこはかとなく三角関係に発展しそうだぞ。おかしいな。
納得のいく結果が出るまで粘るのがセルフでやる占いの基本だと思います(笑)