8月21日 もう泣かない
「もう 治まった?」
カスミはキクハラの肩に手を置いた。
「うん もう大丈夫」キクハラは笑って見せる。
コンビニを出た後、キクハラは友人のカスミの家に泊めてもらった。そして七時に起き午後五時時まで泣いた。なぜかはわからなかったが、とにかく涙があふれてきた。
ご飯も食べることができなかった。
カスミの部屋のかわいらしいテーブルは涙でべとべとになった。キクハラはハンカチで拭こうとしたがカスミは止めた。
「いいよこんなことしなくても」
「ごめん」
「泊めてくれてありがとう」キクハラは荷物をかばんに詰め、玄関を出ようとした。
「うん また来て」カスミは微笑んだ。
この笑顔は嘘だとキクハラは思った。こんな厄介者早くいなくなってしまえと思っているにちがいない。
キクハラはカスミの家を出た。今から佐竹という女の家に乗り込まなくてはいけない。そしてミカを奪還するのだ。私のミカを返せ。
佐竹のマンションはとてもきれいで立派だった。入り口の前には石像があるし、天井には扇風機のようなものが回っている。キクハラはそれをテレビで見たことがある。
キクハラはエレベーターで四階へと向かう。階を上がるごとに心臓が高鳴っていく。エレベーターがのろく感じた。早く四階に行きたい。
四階に着くとちゃりんという音がした。ドアが開き聖域へと踏み入れる。ダンジョンのボスの部屋に入った時のようだ。
そして佐竹の部屋を見つける。ここだ。ここでミカは監禁されているのだ。
キクハラは思い切ってインターホンを押した。聞き覚えのある音がこだまする。
しかし誰も出なかった。キクハラはもう一回押す。やはり出ない。
そのあとも5回ほど押した。
キクハラはドアを開けた。いとも簡単に開いた。喜びとともに不安も押し寄せる。
妙に静かな部屋に入っていく。外が暗くなり始めているので中も暗い。キクハラは電気をつけた。
廊下がぱっと明るくなった。
キクハラは廊下を突っ切りリビングに入った。
目に入ったものは床に転がった携帯電話と死体だった。
キクハラは悲鳴をあげた。
まさかこんなところで死体と遭遇するとは。
私はただミカに会いに来ただけなのに。
この男は誰なの?この事件にはミカは関わっているの?ミカはどこに行ったの?
キクハラの頭に次々と疑問が湧いた。
キクハラはあれほど泣いたというのにまた泣いた。
一時間ほど泣いてキクハラは佐竹の家を出た。公衆電話で通報をするのだ。
あの男が誰かはわからない。だけど放っておくわけにはいかない。
キクハラは例のコンビニ「スターコネクト」の公衆電話を使い、警察にこの事件の事を話した。
一通り話し、相手は名前を聞こうとしたがキクハラは電話を切った。
今ここで警察に関わりたくはなかった。こうしている間にもミカは丸井と遠くへ行っているのだ。
五時まで泣いたのがいけなかった。
キクハラは公園でミカに電話を掛けた。多分出ないだろうなと思いながら掛けたが、三コール目で出た。
「もしもしミカ?」キクハラは第一声を発した。
「何?キクハラ」ミカの声が返ってきた。だが声にいつもの張りが無く、疲れていた。やはりあの男が刺された事件に巻き込まれたのだ。
「今どこにいるの?」
「海の見える町にいるわ。とってもきれいな海よ」
「丸井は?」
「今は公園にいる。私はコンビニにいるの」ミカが言った。
「そっか。じゃあ私そっちに行くから待ってて」キクハラがはっきりとした口調で言った。
「そんなことしなくてもいいわよ。私は丸井を守るって決めたんだから」ミカが怒りだした。
これはどうやら本気でミカは丸井についていったようだなとキクハラは思った。
「じゃあね」切られてしまった。
もうミカに携帯では連絡がとれないとキクハラは思った。
キクハラはかばんから地図を取り出し、海の見える町を捜した。
この先二十キロ先にさざなみ市という町があった。
ミカが訪れたのはそこだろう。
こうなったらとことん捜してやるわ。待っててミカ。
キクハラはさざなみ市へ行くバスに乗り込んだ。
第6話です。
いよいよ夏休みに入ったのでどんどん書いていきたいと思います。
では楽しんでください。