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蛍と川辺と満月と

作者: 猫居間
掲載日:2005/08/20

この話はフィクションですので、

ご理解いただけると助かります。


鵜飼を眺める事が琴名ことなにとって、楽しみの一つだった。


鵜飼は夏のはじめから終わりにかけて、ある日を除いてほぼ毎日やっている。

琴名は物心付いた時から、家の窓から見える鵜飼の様子を見てきた。

ゆっくりと夕餉ゆうげを食べながら見る鵜飼は、鵜飼舟に乗っていなくても乗った気分になれたし、

見ていて飽きるということはなかった。


「はぁ・・、今日はヒマねぇ・・・」


満月の日、それは鵜飼をやらない日、窓の外を見ても川は真っ暗・・・・

灯り一つない川を見てもつまらない。


満月は明るく静かに光っている。


琴名は満月がどうしても好きにはなれなかった。

それは夏でも、鵜飼をやらない冬でも関係はなく、ただ好きにはなれなかった。


ある夏の満月の夜、琴名は気だるそうに天井を仰いでいた。

なにをするでもなく、ただ時間が過ぎるのを待っているかのように・・・。


そして夜中、ふいに琴名は目が覚め、心なしに窓の外を覘く。

すると、満月の川の下、誰かが川のところに腰を下ろして、ただただ川を眺めている。


「今日は鵜飼やってないのに、観光客ではなさそうだし・・・どうしたのかしら。」


琴名はそんなことを思い、しばらく人影を見ていた。

よく見ると人影は自分と同い年くらいに見えて、

少年だということも分かった。

何もない日にもかかわらず、

地味めな浴衣を着ている。


琴名はやがて眠気に襲われ、そのまま寝てしまった。


次の夜、窓の外を見ていたが、その少年はいなかった。

そして、その次の満月の夜、窓の外を見てみると、

またその少年は座って川の何かをずっと眺めている。


「どうして満月の日にしか来ないのかしら・・・」


琴名はそのことが気にかかり、次の満月の夜も外を見た。

するとその少年は前と変わらず、やはり座ってなにかを眺めている。


そんなことが続き、琴名はついに満月の夜、外に出て、

少年の座っているところへ行ってみることにした。


川を見てもただ真っ暗なだけである、

そこにあるのは、水面みなもに写し出された淡く光る満月・・・。


「どうして満月の夜にだけここにいるの・・・?」


琴名は少年の後ろから話しかけた。

背丈からして、年は同じに見えたので、

意外とあっさりと話しかけることができた。

少年は後ろから聞こえてきた声に少々驚いたようだったが、

やがてゆっくりと琴名の方へ振り向いた。


振り向いたとたん、琴名は声をあげそうになった。


その少年は一瞬少女かと思うほど綺麗だった。


肌は白く、黒く長い髪は一つに束ねていて、

その瞳の色は、黄色に近いほどの銀色をしていた。


浴衣の模様さえ明るめだったなら、少女と間違えていただろう。

少年は琴名と目が合うと、琴名の問いかけに静かに答えた。


「・・・満月が好きだからかな」


少年は高く透き通った声でそう言うと、また川辺のほうに目を移す。

琴名はそれを聞くと、少年の座っているとなりに行って、腰を下ろした。


「どうして?満月、私は嫌いだわ。」


琴名は少年と同じく川の方へ目をやる。


「だって、満月の日は鵜飼をやらないし、

それに、満月って、ただ光々とひかって、

なんだか自分を自慢してるみたいなんですもの。」


少年はそれを聞くと、一瞬寂しそうな顔になり、やがて口を開いた。


「鵜飼・・・、僕、鵜飼を見たことがないんだ、生まれて一度も・・・ね。」


琴名はそれを聞くと、心底驚いたという風な顔になった。


「どうしてよ?あなたいつも満月の夜はここにいるじゃない、

その日以外にここに来れば、簡単に見れるはずよ」


そして付け足してこう言った。


「鵜飼ほど楽しいものはないわ、

夏と言ったら鵜飼よ。

それ以外に考えられないわ。」


琴名は胸を張って言う。


「そこまでいっちゃうの?」


少年は小さく笑いながら言った。


「それなら、鵜飼のこと、いろいろ教えてよ、

どんなことをするのかとかね」


琴名はそれを聞くなり、

待ってましたと言わんばかりにしゃべりはじめた。

それから、満月の日は少年に話を聞かせに通った。


話をすすめると同時に鵜飼のこと以外にもいろいろな話もした。

その度に少年は琴名の話に熱心に聞き入った。


そして、鵜飼の終わる前の満月の月の日。

琴名が川辺へ行ってみると、

少年はいつもの様に座っているのではなく、

立って川を眺めていた。


少年は琴名に気づくと、手招きをして琴名を呼んだ。


「珍しいわね、いつもは座っているのに」


琴名はいつもの口調で言うと、

少年は悲しそうな顔をして言った。


「きっと僕は次の満月にはいないと思う。

それだけを伝えたくてね。」


琴名はそれを聞くなり少年の顔をのぞきこんだ。


「どうして?家の事情とかなの?・・・寂しくなるわね」


少年はそれをきくなり琴名に問いかけた。


「前に、満月は嫌いだって言っていたよね、

今も・・・今も満月は嫌い?」


少年の問いに琴名はあることに気が付いた。


「今は・・・嫌いじゃないわ、

満月はただ光ってるだけじゃなくて、

どことなく優しい温かみがあるし・・・

それに満月の日にも楽しみができたわ」


琴名は思ったことを素直にそう言った。

それを聞くと、少年は心底嬉しそうに微笑んだ。


「好きになってもらえてなんだか嬉しいよ、

今までいろいろとありがとう、

こんな楽しい気持ちになったのは久しぶりだ」


少年はそれだけ言うと満月を見ながら


「鵜飼・・・いつか見れるかな・・・」


近くで鳴いている鈴虫の声にかき消されそうなほどの声でそう言った。


「きっと見れるわよ、夏になったらまたこればいいじゃない」


琴名はかすれた声で言う。


「だといいな・・・その時はまた会いにいけるといいんだけどね・・・、

本当にありがとう・・・」


少年がそう言ったとたん、急に激しい風に襲われ、

たまらず琴名は目をつむった。そして、

ゆっくりと目を開けると、そこには少年の姿はなく、

代わりに、月の光の様に明るく透き通った蛍が無数に飛び交っていた。


琴名はしばしそれに魅入っていたが、

やがて袖で顔をふきながら、ゆっくりと水面に背を向けた・・・・。


私は昔から鵜飼が好きで、小説に鵜飼の話があったらいいなぁと思い書いてみました。

少年は一応現代人に見えないように

してみましたが、なんだかあまり表現できなかった気も;;

最初から最後までほのぼのとした作品にしてみました。最後まで読んでいただいた方も途中で飽きてしまった方もどうもありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 ほんわかしていて結構良かったと思います。
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