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青春部(仮)に入りませんか?  作者: 夏野ゲン
青春部(仮)に入りませんか?
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青春部(仮)説明会(上)




 人外魔境とまではいかないが、少なくとも一般的な高等学校においてみるはずのないような光景を見たボクは、ゆっくり息を吸いこんで、そして吐き出した。


「第二講堂…間違いないよな?」


 確かにここは東雲副会長にもらった案内状に、説明会会場であるとされていた第二講堂で間違いなかった。ついでに日付と時間も確認したが、やはり誤りはない。

 ということはだ。ここは確かにあのわら半紙に書かれた通り、青春部という名のついた謎の部活動の説明会場だ。だがしかし、あの部屋には異様な雰囲気の生徒が数人いたものの東雲先輩はいなかった。


 では、どういうことだ?

 真っ先に思い浮かんだのが、青春部なる部活は怪しいカルト宗教のような部活なのではないのかということ。高校でそんな部活が許されるとも思えないが、教員たちにばれないようにやっている可能性は考えられる。

 しかし、入学式で壇上に立ち、名演説を繰り広げたクールなあの先輩が、怪しい布教活動などするだろうか?人はみかけによらないというが、あの人は見かけどおり、カリスマのあるすごい人のように思われる。

 じゃあ、東雲先輩の冗談とか?だがしかし、初対面の1年生を捕まえて冗談の部活の説明会に呼んで何か楽しいことがあるか?


 ボクが頭を悩ませていると、


「おや?君…」


 今朝聞いた凛とした声の持ち主にして、今ボクを悩ませていた張本人が颯爽と姿を現した。


「来てくれたんだな。そうか。よかった。中に入らないのか?」


「えっ。いや、その」


 どういったものだろうか?中に変な生徒がいて入れないというべきか?


「ほら。せっかく来たんだ。話だけでも聞いていってくれ」


 そう言って先輩はボクの手をとり、例の人外魔境の入り口を開けた。

 ボクが部屋に入ったときには、ボクに気がついたのは、メイド服の彼女だけだった。しかし、先輩が部屋に入ると、人外魔境の住人達は、一斉に先輩に視線を集める。

 その人外魔境の面々を見ての先輩の第一声。


「やぁ、みんな。待たせてすまない。じゃあ、予定通り説明会を始めようか」


 …えぇっ、こんなおかしな人たちだらけなのに、それだけ!?

 ひょっとしてボクの感性がおかしいのだろうか…?






 東雲先輩は、講堂の中心、黒板の前に立った。

 ただまっすぐに立っているだけで風格がある。この部屋にいる人間はみんな彼女のほうを向いていた。

 

「お待たせした。本当に申し訳ない。今日は青春部(仮)の説明会にようこそ。責任者兼、部長になる予定の東雲だ」


「…部長になる予定?」


 先ほどまで携帯ゲーム機に熱中していた、眼鏡をかけた細身の女子生徒が早速言葉のはしに食ってかかった。


「ああ、『部長になる予定』だ。この青春部っていうのは、今年私が新たに人を集めた部活だから、まだ部活として学校側に受理してもらってはいないんだ。だから、あくまで部長になる予定。現状では発案者にして代表責任者といったところだ」


「はいはーい!!しっつもーん。今年作ったって…作れるんですか?そんな簡単に?」


 今度は窓際で何か難しげな問題集を解いていた、おしとやかそうな女子生徒が質問の声をあげる。


「ああ、作れる。新規登録部員が5人以上いれば、なんとでもなる」




 (5人…)




 言われて教室を見回すと、確かにこの講堂の中には6人の人間がおり、部として申請できる条件を満たしていた。


「それって、あたしたちのほぼ全員が、その先輩のいう青春部に入るっていうことを前提に話をしてますよね?」


 眼鏡の彼女は鋭い目つきで不機嫌そうに先輩を見つめている。


「ああ、そうだね。ちょっと先走り過ぎかもしれないが、きっと君たちはみんなこの部活が気に入ってくれると思うんだ」


「…なんでそんなことわかるんです?」


 相変わらず眼鏡で細身の子がメインになって、聞きたいところを徹底的に聞いてくれるので、ボクは口を挟まずに、ただ話をきいていられた。


「それはあれだよ。なんとなく、君たちはわたしと同じ匂いがしたんだ。…ふふ。なんとなくだよ。でも、意外とわたしの勘はあてになるんだ」


 そう言って少し愉快そうに東雲先輩は笑った。

 凛々しい容姿の中にあるやわらかい笑顔は、グッとくるものがあり…ボクは思わずドキドキしてしまう。ほとんど初対面なのに、こんな気持ちになってしまうのは予想外で、なんとなく先輩から目線をそらしてしまう。


「…匂い?よくわからないんですけど…?」


「うん。わからなくてもいいんだ。すまない。これはきっとわたしにしか分からない、さっきも言ったが勘みたいなものだから。君たちはとりあえず、この部が何をする部なのか、わたしの説明を聞いてくれさえすればいい。うん。それだけでいいんだ」


 先輩はそう自信ありげに微笑み、細身の生徒は少し不服そうにしながらも黙り、ボクはボクで先輩の微笑みに心を奪われかけていた。






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