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青春部(仮)に入りませんか?  作者: 夏野ゲン
青春部(仮)に入りませんか?
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君、臭うな。

 入学式後のクラス分け、自己紹介もつつがなく終わる。

 これまでのようにマスコット作りだけにかまけて、クラスの中で浮いてしまうのは、この歳になってはさすがにボクも嫌だった。

 そんなわけで、自己紹介ではマスコットの話などに触れずつつがなく、印象に残らない程度に簡潔に済ませた。




 入学の式典やもろもろの準備が終わると、部活動紹介のシーズンとなり、仮入部期間が始まる。

 一度、部活でマスコット作りをやるのもいいかと思い、手芸部という部活動をのぞいてみたのだが、まさしく女の園といった感じで居心地が悪く、とても入部しようとは思えなかった。


 隣のクラスになった幼馴染のほたるは即決一択のソフトボール部入部。

 仮入部での歓迎試合で早速一発でかいのをうったらしく、朝から上機嫌だった。


 そんな彼女の様子を見てますます焦ったボクはその後も、中学時代の仲間に誘われてソフトテニス部の見学に行ったり、そのほかいろいろな部活動の勧誘を受けては、「キミ、いいセンスしてるね。入らない?」といったようなことを言われたのだが、どれをやろうにもイマイチ気持ちがのらず、ということで入部に踏み出せずにいた。






「…で、まだどこの部活にも入ってないわけか」


「うん。まぁ、そういうこと」


 これまでの経緯について登校しながらほたるに話す。

 今日は部活動紹介兼仮入部期間最終日だった。このままでは高校生活も中学時代の悶々した生活の二の舞になると焦り始めたボクに、ほたるはあきれたような様子のほたる。


「なぁ、別にそんなに無理して部活に入らなくてもいいんじゃないか?確かになっちゃんは何をやらせてもそれなりに様になるし、テニスしてるときは結構いい感じだったけど、楽しくないんじゃしょうがないじゃん?」


「まぁそうなんだけどさ。でも、部活とかそういう居場所が学校の中にあるっていうのは居心地がいいしさ」


 ボクは小学校時代のマスコットを作っては喜んでもらえていた頃のことを思い出していた。


「難しいかもしれないけど、そういう居場所が学校生活でも作れたらいいなぁ…ってないものねだりしてみたかっただけなのかもしれない」


「…はぁ、よくわっかんないなぁ。なっちゃんのそういうものの考え方。学校は学校で部活は部活じゃん?」


「…うん。まぁそうなんだけどね」


 そんな会話をしながら正門を通り二人で歩いていると、向かいから一人の先輩が歩いてきた。

 その先輩は遠目に見ても目立つ美人で、そして恐らく入学式に参加した人間なら、だれしもが覚えているだろう先輩だった。




「…君」




 すれ違いざまに声をかけられたので、最初は自分に声がかけられていることに気がつきもしなかった。

 これまで接点もなかった先輩で、そのうえ生徒会の副会長だ。まさかこの間入ったばかりのボクみたいなのに声をかけてくるなんて思うはずもないだろう。


「なぁ、そこの君」


 とんっ、と肩を叩かれて、ようやくボクはその先輩に声をかけられていることに気がつく。

 振り向いて、目と目があってはっとなる。振り向いたすぐ後ろに美人の顔があるというのは、かなりのびっくり体験だった。


「はぁいっ!?」


 突然のことに動転して、声が裏返ってしまう。

 隣に立っているほたるも同じように立ち止まり、驚いている様子だった。


「君…臭うな」


「…へっ!?」


 同じ年頃の美人に言われた第一声が「臭うな」。この言葉は、思春期真っ只中のボクの心に静かに浸透していって、一撃のもとにハートに深い傷を残した。


「うん。君、これを読んでくれ。そして興味があったら、そこに書いてあるけど、今日の放課後に第二講堂に来てくれ。まぁ、興味があったらでいいから。それじゃあ」


 それだけ言ってボクの手に、一枚のわら半紙を押し付けると、彼女は背を向けて颯爽と歩き去っていった。




 凍っていた時間が解凍され、時間が動き出す。そして、同じぐらいのタイミングで解凍が終わったほたるがボクに尋ねる。


「ねぇ、なっちゃん。なっちゃん、副会長さんと知り合いだったの?」


 ほたるの問いかけに、ボクは首を横に振って答える。 


「なぁ、ほたる。ボクも一つ聞いていいか?」


「…なに?」


「ボク、臭うか?」


 ボクの真剣な問いかけに、彼女は首を横に振った。


「ねぇ、そういえば何もらったの?」


 ほたるの問いかけで、やっと気がつく。そういえば先輩に何かもらったんだった。

 ボクは先輩にもらったわら半紙を広げ、そして、そのわら半紙の一番上に大きく書かれたタイトルを読み上げた。


 「青春部(仮)に入りませんか?」


 …青春部。よくわからないが、ボクはその音の響きに惹かれた。

 何故なのかはいまだによくわからないけれど。






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