動揺
学校が近づき、ようやく朝の出会いがしらの事故のような気まずさが若干和らぎ始め、どうにかこうにかいつも通りに近い空気になり、教室の前で別れた。
教室に入って席につき、ゆっくりと息を吐く。朝からなにドキドキしてるんだろう。相手はあのほたるなのに……。
「おやおや夏樹は今日も朝から元気なさげ?」
なぜこいつはいつもいつもボクが機嫌が悪い時を狙ったように入ってくるんだろう?
友人の関川雄二は、今日も相変わらずさわやかにも、に焼けたようにも見えるはっきりしない笑顔を浮かべていた。
「別に、そうでもないよ」
ボクのそっけない返しに、関川は表情を変えずに言う。
「ということは、例によってほたるちゃんのことですか」
いつもなら即答で否定できるところなのに、今日はなぜかすぐに言葉が出てこない。それどころかギクリと肩が動いてしまう。どうしたんだろう。今日のボク本格的におかしいのか?
「おんや、めずらしい。なっちゃんがまともに動揺してる……」
「……別に動揺なんてしてないぞ」
ごまかしの言葉を聞いてか聞かずか、関川はニヤニヤとしながら言葉を続ける。
「いやー。んじゃあまあそういうことにしておいてあげましょうか。そうかーうん。ようやく進展の兆しが」
「進展の兆しってなんだよ」
ボクの強めの問い返しに、関川は苦笑いを返すだけでなにも答えず席に戻っていった。
(……進展って、別にほたるとはそういう関係じゃない。)
高校生活が始まって、何度目になるかわからない言葉を心の中で繰り返した。
そう否定しておきながら、ほたるのことで動揺している自分には見て見ぬふりをして。