お礼とともに
「おはよう~。なっちゃん」
いつもの角で、再びボクらは出会った。約12時間ぶり。懐かしくもなんともない再開。
それなのに、ちょっと緊張してしまうのは、これからやりなれないことをするからだ。
「? なっちゃん、どうかしたの?」
ほたるはなかなかあいさつを返さないボクに、気遣うような視線を向けてくる。ここで、少しだけ吹いてしまう。
「なっ、なんだよ~!! 急に笑ったりして!!」
そうなんだよな。ほたるはいつもこうしてボクのことを気にかけてくれている。
中学時代に孤立しそうだった時も、こいつだけはいつも通り接してくれていたし、強引な時も多いけれど、なんだかんだで優しいのだ。
そんな相手だからこそ、ボクはこれまで素直にお礼なんて言えなかった。ほたるに優しくしてもらっていることが当たり前すぎて、そのことがありがたいことだなんて感じていなかったのかもしれない。
「おはよう。ほたる」
「うん。おはよ~」
ようやく返したボクに、ほたるはゆるく笑って返す。
「それと……いつも、ありがとう」
「……へっ!?」
その後に続いた突然の感謝の言葉に、ほたるはほほ少し赤らめて、目をまん丸にして驚く。
「えっ!? なに? どうしたの? 一体何のお礼? ……急になっちゃんがお礼を言うなんてなんか悪いものでも食べた?」
なかなかひどい言いようだがほたるもそれだけ動揺しているということだろう。
「あ~もう、やめやめ! 特に深い理由とかないから!! とりあえず感謝されてろ!!」
「はぅあっ!?」
ボクはごまかすようにほたるの頭をなでるというよりは強引にわしわしして、ごまかした。
「はぅ、あぅ、あの、うん……」
困ったように笑うほたるの顔を何故だか直視できなかった。
妙に居心地の悪いような、慣れない空気をそのままに、ボクらはそのままぎこちなく通学路を進んでいった。