お礼
いつもの角でほたると別れ、家に帰って夕食をとる。
なんとなく機嫌のいい様子が伝わったのか、母さんが「何かいいことあった?」なんて聞いてくる。ボクは笑って、「なんとなくね」とだけ言ってごまかした。
部屋に戻って満たされたお腹をさすりながら天井を見上げて思う。
中学時代はいつも悶々としていた。マスコットづくりやぬいぐるみづくり、好きなことを自由にやっているようで、そんな生活にどこか息苦しく感じていた。それは多分、自分自身が「普通の中学生活」を楽しめていないことがおかしいんじゃないかと感じては、それを馬鹿にされることを怖がっていたからだと思う。
ボクは高校にあがり、青春部に入って、中学生のころよりずっと自由に、楽に毎日を楽しめるようになっていた。布施さんに誘われてやった、なれないプリンづくりもすごく楽しかった。
しみじみと思う。この部活に入れてよかったと。
そして、今部活に入って楽しく過ごせているのは、きっとほたるの後押しがあったからだ。
ほたるは、自分が後押ししてボクを部活に入らせてくれたなんて思っていないかもしれない。だけど登校初日に隣にたって、「華麗に高校デビューしよう!!」と明るく笑っていたあいつがいなかったら、ボクはきっと部活に入ろうなんて思わずにこれまで通りもやもやしていただろう。
そして何より、この部活に誘ってくれた東雲先輩。
東雲先輩もきっと、ボクが感謝の言葉を伝えても、「私がしたかったことにつき合わせただけだから」なんて言って笑うんだろう。確かにそういう面もあるとおもう。だけど確かに、ボクは先輩が誘ってくれたからこそ、今の高校生活を楽しんでいる。
ほとんど完成したイクチオステガのストラップを手にとって思う。
明日先輩にこれを渡して、感謝の言葉を伝えよう。先輩は喜んでくれるだろうか?
それから、ほたるにも、ちょっと照れ臭いけど「ありがとう」と言おう。
でもほたるはキョトンとするんだろうな。何に対してお礼を言われたのかわからなくて。
そんな想像をしながらゆっくりと眠りについた。