待ち遠しい
バターをすべて塗り終えて、カラメルソース、生地の順に型の中に流し込み、余熱しておいたオーブンで蒸し焼きにする。待ち時間は30分。
自分がいない間にお兄さんとボクらの間であった会話について教えてもらえなかった布施さんは不機嫌そうにふくれっ面で座っていたけど、少しずつおいしそうな甘いにおいが、キッチンの中に広がって来ると、ソワソワしたようにオーブンの前に移動した。
「いくらオーブンの前で待ってせかしても、早くできたりしませんよ」
そんなふうに石田君が微笑みながら言うと、
「それぐらいはわかってる!!」
ちょっと赤くなりながら、布施さんは答え、
「……でも気になるじゃないか。あたしの研究の成果がどうなっているのか。せっかくてっちゃんにもなっちゃんにも手伝ってもらったのにうまくいかなかったりしたらとか」
「布施さん、マジメなんだね」
「マジメってわけじゃないよ。ただ自分がやりたいと思ったことくらいは思った通りにしたいだけ」
(……そういうのをマジメって言うんだと思うよ。)
心の中でだけ思って言葉には出さない。
それから20分して、プリンはきれいに蒸しあがった。
さすがに石田メイド長が監修しただけあって、表面に泡もないし、''す''も入っていないように見える。布施さんはわくわくした様子で今にも試食、というか研究成果の検証をしたそうだ。
「あとは荒熱を取ってから冷蔵庫で冷やして完成かな?」
「そうですね。1時間くらい室温で放置してから2,3時間も冷やせばいいんじゃないでしょうか?」
「ということは、うわ、8時くらいか」
8時過ぎまでプリンができるとの待つというのはさすがに初めてお邪魔する家、しかも女の子の家では気が引けた。
「うん。大丈夫だ。あとはあたしに任せておいてくれ。できたプリンは明日あたしが責任を持って部室に持っていくから」
「大丈夫?」
ボクの問いかけに、
「ああ、最初から食べるのは明日にしようと思っていたんだ」
「……そんなこと言って一人で全部食べたりしたら怒るからね」
「……するか! そんな小学生みたいなこと!!」
「ハハハッ! わかってるってば!」
そんなボクたちのやり取りを見て石田君がクスリと笑う。
「それじゃあ、今日のところはこれで帰るよ。お菓子作りもたまにやると楽しいね。それじゃあ」
「お暇させていただきます。布施様。明日もし運ぶのが大変なようでしたらおよびください。お手伝いいたします」
「ああ、2人ともありがとう。また明日部室で!!」
こうして、唐突に始まった布施さん発案の『究極のプリン作り』は一旦終了し、ボク達はそれぞれ帰路についた。