おいしいプリンを作るには
「それじゃあ早速プリンを作り始めましょう? 布施様よろしくお願いいたします」
「ああ、まかせてくれ!! 料理は下手だが、この設計は限りなく完璧に近いと思う」
……その設計と言う単語に不安をかんじるんですが。そう思い苦笑していると、
「なにを笑っているんだい? 清水メイド長補佐。すぐに準備に取り掛かりなさい!!」
布施さんの楽しげな檄が入ってきた。
「はいはい」
「『はい』は一回!!」
「はーい」
お決まりのようなやりとりを経て、ボク達はようやくプリンを作り始めた。
布施さんの指示で作り始めたプリンは至って普通のものだった。
1.最初に生クリームを火にかけて、砂糖を溶かしながらゆっくりと混ぜる。
2.とき卵黄のとき卵に温めた生クリームを混ぜ合わせていく。
3.できたプリン生地をざるでこして、バニラエッセンスを混ぜ合わせる。
とりあえずここまでの工程が終わった。この間わずかに20分。
驚くべき手際の良さで石田君がプリン作成の手順をこなしていくので、ボクはそのフォローをして用具を用意する程度でよかった。
今バターを型に塗る段階になって、布施監督から石田君に休憩指示が出て、ようやくボクにも出番がまわってきたというところだ。
「ところでさ、布施さん」
「んーなに? 清水君」
「このプリンのどこが究極なのかボクにはよくわからないんだけど……」
「あーそのことか。うん。じゃあお答えしようかな」
コホンと一つ布施さんは咳払いをする。
「清水君、食べ物のおいしさを決めるものって何かわかる?」
「えっ? それはもちろん味でしょう」
当然の答えだろう。布施さんもうなずいている。
「うん。もちろん味は大切だ。でもその他にもおいしさを決めるものがいっぱいあるだろう? 例えば香り。果物なんかは味ももちろんだけど、香りによってその食べ物らしさを感じられる。食べ物によって、どんな要素がおいしさに一番大きな影響を与えるかって言うのはそれぞれ違うんだ」
「へえ……」
言われてみれば確かにミカンやリンゴは甘酸っぱい味もそうだけど、それらしい香りというものがある気がする。
「そんな風においしさの勉強をしていたんだけどさ、それじゃあプリンの場合はどうかと思って調べることにしたんだ。あたしがプリン好きだからね」
好きなものだから、そのおいしさの秘密を調べてしまう。そんなところに勉強娘、布施うららの真骨頂を見た気がする。
「あたしが好きなお取り寄せプリンを何種類か調べてみたんだ。味、匂い、色、……そしてようやく見つけたんだ。あたしが好きなプリンは、みんな共通して同じくらいのかたさで、なめらかな舌触りだったんだよ!!」
テンション高く布施さんは語る。
「それでこの舌触りを再現するには、って頑張って調べた。それで今完璧に近い卵と生クリームの配合割合でプリンに挑戦しているわけ。つまりこのプリンは、今回のあたしのおいしさ研究の集大成なんだよ!!」
高らかにそう宣言した布施さん。その目はキラキラ輝いていた。
石田君はなんだか楽しそうに笑った後に、パチパチと拍手。ボクは作業中で手が使えなかったけど、たった一言、「すごい!!」と返した。
全力をつくして楽しんでいる人の顔はやっぱり魅力的だ。
ここでいたずら心が降って湧いてしまった。
この一言を言ったら布施さんは怒るだろう。でもボクは言ってしまう。
「すごい!! ……でも、そんなにおいしさの勉強しているのに、料理は下手なんだ」
「!? むぅ……余計なお世話!!」
ボクからの余計な一言を受けて、布施さんはうつむいて口を膨らませた。
それを見て石田君は笑いそうな顔になりながら、「こら」とゲンコツのポーズをとっていた。
ボクはボクで、いじけた様子の布施さんがかわいらしく見えて、少し笑ってしまいそうになったのだった。