システムキッチン
そんな風に会話しながらたどり着いた台所。
台所の場所は玄関から入って廊下を歩き、2回も曲がった先にあった。恐ろしい広さである。
「これは……」
台所に入った瞬間に思わずつぶやいたボクより先に、台所へと侵入してきょろきょろし始めたのは石田メイド長。
「すごい!! しっかりしたシステムキッチンですね!! 外観から古い和風の建築家と思っていましたが、中はこんな風になっているなんて、驚きました!! ダイニング直結式のオープンカウンターに最新型調理器具収納設備!! ああ、もう完璧です!!」
ものすごいテンションで一気に話し終えた石田君。その目はきらきらと輝いていて、それは幸せそうだった。
ボクもこの部屋に入った時には驚いた。この部屋は、この家の雰囲気に似合わず、台所というよりは、キッチンと呼んだほうがしっくりくる作りだった。
ここまでの廊下はすべて和風建築らしいつやのある板張りだったし、ちらりと見えた部屋も畳ばりで障子にふすまといった純和風の作りだった。
そこまでの流れから考えて、台所もかまどがあるような、とは言わないまでも純和風の作りだと思っていたんだけど……。
「ああ、このキッチンね。あたしのお母さんが料理好きなんだけど、お父さんと結婚するって段階になって昔ながらの古い台所を見たわけ。そしたらお母さん絶句しちゃって、『こんな機能性がなくてネズミが出そうな台所で日々の料理を作るなんてもってのほか!!』なんて怒っちゃってさ」
苦笑しながら話す布施さん。
「んで、結婚できないだの、家には入らないだのいろいろグダグダあったんだけど、お父さんがお母さんにだだ惚れだったこともあって、この部屋だけ綺麗に改修されたらしいんだ」
呆れたようにやれやれと首を振る布施さん。
「んでまあ、それ以後もこの部屋はお母さんが使いやすいように改修が繰り返されてるってわけ。まあ言ってみれば我が母上様の築いた城みたいなもんかな」
「へえ……」
「布施様のお母様とは一度お話してみたいですね!! このコーディネート、きっと話が合うかと思います!!」
入った瞬間は場違いなように思えたこの部屋だけど、そうやってできた経緯を聞くと、確かにこの家になじんでいるようにも感じられるから不思議だ。
「ともかくそういうわけで、このキッチンはシステム面は完璧といってもいいと思うよ」
布施さんはそう笑顔で言った。
「……まあ、料理ど下手だから使ったことないんだけどさ。ナハハハハハ……」
ただそのあとに困ったようにほほをかく姿はずいぶんとかわいく感じられた。
「それをフォローさせるためにわたくしたちをお呼びになったのでしょう? お任せ下さいませ、布施様」
格式あふれる綺麗な動作で石田君はお辞儀をした。
「……石田メイド長のおっしゃる通りです。わたくし達にお任せ下さい」
ボクも続いて深くお辞儀をしてみる。綺麗にできているかは分からないけれど。今日は石田君の部下らしいのでこういうのも悪くないだろう。
「!! まったく君たちは……」
それに対して布施さんは、ちょっと驚いた照れたような表情を浮かべた後に、
「うむ!! よきにはからえ!!」
明るいスマイルでうれしそうに言った。