兄といじりとエロサイト
玄関から家に上がり、布施さんのお兄さんが去って行った方を見る。
苦しげに去っていた布施兄。一体なにがあったって言うんだろう?
「台所はこっち。ついてきて」
布施さんに案内されて進む廊下は、思った通りとても長くて、どこが台所なのかわからない。
「あのさ、布施さん」
「なんだい?清水のなっちゃん」
「えっと、お兄さんと仲悪いの?」
「そう見えたかい?」
ニヤニヤしながら問い直す布施さん。
「いや、そうは見えなかったけど……」
ボクはそう言って石田君の方を向く。石田君はコクコクとうなずいている。
「ああ、そうだろうね。実際そこまで仲悪くないしな。あたしたち」
「えーっとね。確かに仲悪そうには見えなかったけど、じゃあなんであんなふうにお兄さんのことを使用人みたい扱ってたの?」
「ほー。聞きたい?」
顔に浮かんだニヤニヤをさらに強めて布施さんは言う。
さっきまでお兄さんは布施さんに何か言わせないように口止めしようとしていたようだけど、やたらと口止めされると真相が気になってしまうというのは世の中の習いというもので……。
ボクと石田君はゆっくりとうなずいた。
「そうかー聞きたいか―。そこまで言うんじゃ仕方がないなー教えてあげよう」
……クスクス。
完全にいたずらっ子の笑い方の布施さん。
「実はだなー。にーちゃんがこないだノートパソコンを買ってもらったんだよ」
「ノートパソコン?」
「ああ、にーちゃん大学生なんだけども、計算とかプレゼンテーションとかレポートとかでパソコン必要だからってさ」
それはそうかもしれない。大学生にノートパソコンは必需品というイメージはある。
「そんで、こないだあたしもパソコン使って調べものがしたかったからさ、勝手ににーちゃんのパソコン借りたんだ」
やばい。なんでだろう。不思議とオチが読める気がする……。
「そして面白半分にサイトの閲覧履歴を見たらさ。もうエロサイトが出てくるわ出てくるわ。お年頃だし当たり前だけどね」
(うわあ……!!)
ボクは心の中で絶叫していた。妹にエロサイト見られた兄の気持ちを考えると……やりきれない。
「……でもなぜそれがあの執事コスにつながるのです?」
大きな精神的ダメージを受けたボクとは違って、石田君は意外と冷静。
メイドモードのときは身も心もメイドだってことだろうか?
「うち、見ての通り結構でかい家でしょう? だから妙にプライド意識が高いって言うか、父親が変に教育に厳しいの。レポートに使うなんて条件で買ってもらったもんをエロサイト見るのに使ってたなんてばれたらそれこそパソコン没収もの」
「えーっと、でもそれは布施さんが黙っていればいいんじゃない?」
ボクの冷静な意見に、いたずらっ子全開の布施さんが、チッチッチと指を横に振る。
「そんなの面白くないじゃん!! にーちゃんをいじれるネタがあるんだもん。フルにいじって遊ばないと!! ということで今回は1週間の間あたしの執事を務めるということで手を打ったの。面白いでしょ?」
面白いというか、あまりの扱いに布施さんのお兄さんが憐れに思えた。
確かにこの兄弟は仲が悪いわけじゃないみたいだけど……。
ボクは心の中で静かにお兄さんに同情した。