豪邸
「それで、材料を買ったはいいけど、どこで調理するの?」
「うむ。とりあえずあたしの家でやろうかと思ってたんだ」
「そうか」
確かに実験的に調理するなら自宅がいいかな。
そこでふと気がつく。
「……えっ? あれ? っていうことは石田君はメイド服で布施さん家にあがるってこと??」
「ああ、そうだね。まあ大丈夫でしょう。ほらいまどきメイド服来て歩いてる子なんて珍しいもんでもないでしょう。お母さんがいても『あらかわいい』ぐらいのリアクションだろうし」
「珍しいよ!! というか、おおらか過ぎるよ、布施さんのお母さん!!」
もはやおおらかというより、逆に不安である。
「えーっと石田君はいいの?」
「ええ私はかまいませんよ。布施様にご満足いただけるならそれは私にも喜ばしいことです」
何か問題でも? というように、小首を傾げ微笑む石田君。
……なんてできたメイドさんでしょう。この人たちの感覚はなかなかぶっ飛んでいる。
「ああ、ここだよ。あたしの家」
そう言って布施さんが指差した先にあった建物。それはどこからどこまでが敷地なのかもわからない、ひどく大きな和風の建物だった。
「えっ? ここ?」
「ああ、ここ。驚いたかい? このあたりだと我が家はたぶん一番でかいんじゃないかな?」
そう言って苦笑を浮かべる布施さん。
「昔は友達をよんで遊んだりしたこともあったけど、この歳になると、このサイズの家は引かれちゃうんだよね……正直引いた?」
「いや、引いたっていうか、驚いた」
「……ええ、少々驚きました」
その回答を聞いて、布施さんはさらに苦笑する。
「正直な解答ありがとう。でもまあだだっ広いだけで中は普通の家だから適当にくつろいでほしい」
そう言って布施さんは門を開けた。
布施さんは広いだけで普通の家だと言った。
だけどボクは、手入れされた日本庭園が広がっていて、玄関まで数十メートルもあり、その間に石畳がひかれている家は普通の家とは呼ばないと思う。