おいしいプリンを作りましょう
究極のプリンの材料を求めてスーパーに行く。しかし、そこで買った材料は卵に生クリームにバニラエッセンスにと至って普通の材料だった。……まあ買い物している間は石田君が注目を集めまくっているのが恥ずかしくてそれどころじゃなかったんだけれど。
布施さんの言うところの究極のプリンってなんだろう?さっきも言った通り用意された材料は至って普通。確かにあの材料で作ったプリンならおいしいと思うけど、最終的にそれが究極かどうかと言われたら普通なんじゃないだろうか?結局それを究極と決めるのは個人の感想なわけで……。ボクはそんなことを考えながら歩く。
「究極のプリンとは」
唐突に布施さんが話しだす。
「我ながらなかなか実体のない難しいテーマを選んだと思う」
「そうだね。そう思う」
ボクの答えに布施さんがうなずく。
「食べ物のおいしさっていうのはそれだけで難しいテーマだ。食べ物のおいしさは、味はもちろん、香り、かたさ、そのほかいろいろなものに左右される。お菓子だから甘ければいいってもんじゃないし、いい食材を使えばいいってもんでもない。大切なのはバランスと条件」
「うん。そうなのかもね。おいしいと感じるものなんて人によって違うし……」
こうして話を聞いていると、真剣に勉強して理論に基づいて勉強している人なのだなと納得できる。
「そう。でも、限りなく究極に近い、万人が愛しやすいプリンは生み出せると思うんだ。これは挑戦だよ。あたしの、そして、あなたたちパティシエのね」
そう言って布施さんはボクと石田君におどけたウィンク。
パティシエなんてそんな大層なもん名乗れるほどお菓子を作った経験はないけれど、それでもボクは彼女の挑戦にできる限り協力してあげたいと思った。彼女の研究、青春に。
「お受けいたします。私の力など微々たるものですが」
真っ先にメイド長が名乗りをあげ、
「ああ、やれるだけ頑張るよ」
ボクがゆるゆると同意する。
「そう言ってもらえてうれしいよ。あたしに足りない調理力を補ってくれる仲間がいる。いいものだね。仲間って響き」
……へへっと照れたように笑う布施さん。その顔はかわいくて、やる気に満ちている感じがした。
この部の仲間はみんな、青春に取り組む時にはいい顔をするなと思った。