一人の部室
さて、青春部なる部活が、説明会に参加したメンバー全員の入部という形で発足したあの日から早数日、ボクらは日々の放課後を例の講堂で過ごしていた。
毎日変わらず講堂にいて、ボクたちを笑顔で出迎えてくれるのは、石田メイド長。この間まで普通のメイドさんだった石田君は、つい先日布施さんの任命(というか思いつき)により、この部活のメイド長に就任した。石田君は布施さんの任命を受け、「非才の身ですが、謹んでお受けいたします。また一歩『ザ・パーファクトメイド』に近付けた気がいたします」とか言ってずいぶん嬉しそうだった。
……まあ、就任も何も、この部に、というか、この学校にメイドさんなんて石田君ぐらいしかいないんだけれども。
最近は石田君がメイドであることにも慣れ始め、メイド姿状態の石田君は、種族メイド、性別石田、という区分でみるようになった。何事もなれが重要だ。うん。
あとのみんなは意外と来たり来なかったりする。
部長の東雲先輩は、生徒会の仕事でいなかったり、「フィールドワークに行く」といって、何やら大きなザック(80Lの重そうな奴)を背負ってふらりと消えたりする。
布施さんは県立の図書館に行くといっていなくなる時もあるし、北川君に至っては来ていない日の方が多くて、来ていない日になにをしているのかは分からない。
予想外に出席率がいいのが長谷川さん。
部活に入ることを嫌がっていた彼女だが、いざ入部すると至って真面目である。
……まあ真面目っていってもゲームしてるだけなんだけどね。
ともかくそんな風に好き勝手に講堂での部活を満喫していた、そんなある日のことである。
製作も終盤に差し掛かっていたイクチオステガのマスコット。これを先輩のに持っていてもらうためにはどうしたらいいだろうか?そんなことを考えながら、部室のドアを開けると……特に何の反応もなかった。
当たり前のことである。なのになぜこんなに違和感を感じるのか……。
「……ああ、そうか」
思わず独り言が出る。この違和感、いつもボクを迎える言葉、「お帰りなさいませ。ご主人様」がないからだ。というか……今部室に誰もいない。
珍しいことだった。出席率の高い布施さん、長谷川さんがおらず、いつもいる石田君もいない。ボク一人。
30分ほど、マスコットに向かい作業をしてみる。その間に部室に来る人は誰もいなかった。
みんなが部室にいても、やっていることはみんなそれぞれ別々だ。それでも一緒の部室に仲間がいるという雰囲気はなんとなく楽しい。今回初めて一人の部室を経験してみて、なんとなくさみしいなと思う。
さらに30分。イクチオステガのマスコットは、携帯のストラップという形で完成した。
完成した、が……。
渡す相手も、完成品を見てくれる仲間もこない。
「今日は誰も来ないのかな?」
誰にでもなく目の前の空間に呟いて、ボクは部室を後にした。