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青春部(仮)に入りませんか?  作者: 夏野ゲン
青春部(仮)に入りませんか?
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交渉という名の脅し



「さて困った。どうしたらこの面白くてかわいい生物をこの部活に引き込めるだろう?」


「生物って……せめて人間扱いしてあげようよ」


 ボクの弱い抗議はないものとして扱われる。


「やはり何か餌になるようなものが必要なのではないでしょうか?」


「餌?」


 石田君の提案に布施さんが首をかしげる。


「例えば面白いゲームとか……この間も部活の説明会の前に熱心にゲームをやってましたし」


「……それだっ!!」


「……それだっ!! ……じゃないっ!! 私はゲーム機買ってもらったばかりの小学生か何かか!!」


 おおっ!! 長谷川さんのキレのいいツッコミ!! ……ってボクはなにを感心しているんだ?


「……ともかく、私はこの部活入らないですから」


 長谷川さんが再び背を向けて帰ろうとした時、予想外の人物が声をあげた。


「話すぞ」


「……北川君?」


 これまでぼそりと何かをつぶやいただけで、ダンマリを決め込んでいた北川君が無愛想な声をあげた。


「……話すって、なにを?」


 こちらも無愛想さでは負けていない、鋭い視線の長谷川さんがこちらをにらんでくる。


「お前がコイツをゲーセンで逆ナンしてカップルになったって」


「にゅっ!?」


 北川君がどえらいことを言いだしたぞ。


「ふざけるな!! そんな事実はないし!! ましてや、その……逆ナン? なんてしてないし!! デートでもないし!!」


「この写真をみてもまだそう言えるか?」


「……はいぃぃっ!?」


 北川君が差し出した写真は、3枚。


 どことなくふてくされたような顔をしながら、ボクと会話している長谷川さん。

 UFOキャッチャーに真剣になっている長谷川さん(とボク)。

 そして、景品をとり終わった後の笑顔満面でボクと見つめ合っている時の長谷川さん。


「あんた、なんでこんな写真撮ってんのよ!? 肖像権の侵害!? ストーカー!? 盗撮!?」


 長谷川さんは言葉を連ねて北川君を非難するが、彼はそんな彼女を一蹴して一言。


「趣味だ。昨日のお前はいい構図、いい観察対象だった。それだけだ」


 うわぁ……たちが悪い。趣味の一言で開き直るんだもん…。


「これまでの会話を見る限り、お前の純情っぷりを見ると誰かと恋愛関係がウワサになるなんて堪えられないことだろう? ウワサを流されたくなかったらこの部活に入ればいい。そうすればデータと写真は全てくれてやる。削除するなり好きにしたらいい」


「うぐっ……そんな写真なんかでみんな信じないもん!! 私は普段から男に興味ないですよーって空気を出すように努力してるし、きっと信じないもん!!」


 テンパリすぎて長谷川さんの口調がかわいくなってる!?


「甘いな。長谷川和泉」


 ……なぜフルネームを知っている?

 ボクの心の中のツッコミはさておき、北川君は続ける。


「真実とは作り上げるもの、だ。この3枚を見たら、誰もがお前が逆ナンに成功したようにしか見えないだろう。ついでに言えば男に興味がなさそうな奴が逆ナンする方がウワサする側も盛り上がる。それが真理だ。この際事実かどうかは関係ない」


「ふぐぅ……」


 北川君の最後の一言は長谷川さんにとどめを刺すには十分な威力があった。

 半分泣きそうなような顔で崩れ落ちた長谷川さんの頭を石田君がよしよしとなでる。


「あんた、今のは交渉というより脅しでしょうよ……」


「別に。ただ俺は自分が昨日偶然撮った写真の内容を、客観的にウワサするといっただけだ。別にどうということもないだろう」


 布施さんはあきれたような目で北川君をとがめ、北川君はそれを意に介さぬとでも言うように、再びカメラの画面の方に向きなおった。


 北川君にやりこまれ、ひどく落ち込んでいる様子の長谷川さん。

 そんな姿は気の毒で、しかし妙にかわいかった。





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