それだけっ!!
「長谷川さん…」
ボクが声をかけると、長谷川さんはぎくりと首をすくませる。
「入部しに来たわけじゃないから。…ただいろいろ思い返して、説明会の時の言い方はきつすぎたなって思って謝りに来たの。ただそれだけっ!!」
顔を赤く染めて話す長谷川さん。
こちらがなにも言いもしないうちから言い訳をする姿は、いかにも照れていますと主張しているように見えた。
「その、副会長」
「…副会長はやめてくれないか。一応ここではこの部の部長。副会長という肩書はないことにしているから」
「それじゃあ東雲部長」
「なんだい?」
「この前はすみませんでした。言い方きつかったです。なんだかあの時はイライラしてました。ゴメンナサイ」
端的な謝りの言葉。
「それだけです。ゴメンナサイ。部活続けてください。…それじゃあ」
そう言うと、長谷川さんは出ていこうとする。
去っていこうとする彼女と目が合う。その目に映った感情は、さみしさ?
何か声をかけなければと思った。ボクの口は何かを言いだそうと形を作り、しかし、声にならない。彼女はそのまま去っていこうとし、
「異議ありっ!!」
唐突にあげられた声によって遮られる。
その声の主は長谷川さんをここに導いた張本人である布施さんだった。彼女は、腰に手を当て、自信にあふれた笑顔で長谷川さんを指差す。
「意義ってなに?」
冷たい視線を向ける長谷川さんに、布施さんは返す。
「疑問なんだが、なぜに夏樹っちはあなたのお名前、長谷川だっけ?…を知ってたのかね?さっきから妙に目配せしてるし、ちみたち、なんかあったでしょう?」
ボクは布施さんの洞察力に驚き、長谷川さんはなぜか少し赤くなった。