「「何よりですね」」
眠りにつけば、朝はいつでもやってきている。
今日もいつもと同じように家を出て、いつもと同じようにあの角でほたるにであう。
昨日のことがあったので、なんとなく声をかけにくい感じがしたが、
「おはよう!なっちゃん」
ほたるはいつものように明るく元気に声をかけてきた。昨日いろいろと考えて心配したのもひょっとすると徒労だったのかもしれない。
「ああ、おはよう。ほたる。今日は元気だな」
「いつも元気だよ~」
「昨日、なんかおかしかったじゃん」
「昨日は…なんとなく気分が悪かっただけ。それだけだから大丈夫なんです!」
そう言うからには、きっと大丈夫…なのかな?
心の中でなんとなく疑問符をつけながら、ボクはうなずく。
「そうか?まあわかったよ。うん。それじゃあ行こうか?」
「うん!」
いつもの調子でうなずき合い、足並みをそろえて学校へと向かう。
「ところで部活の調子はどうですか?昨日初部活だったんでしょう?」
「ああ、まあね。いろいろ大変だったよ…」
ボクは昨日の部活の風景を思い浮かべる。
朝の男バージョン石田君との接触事故に始まり、講堂でのメイドバージョン石田君のお出迎え、先輩のイクチオステガの講義に、ゲームセンターでの一幕…なんとなくため息が出るが、なぜかその口元はニヤけていた。
「大変という割には、なかなかいい顔してますな~なっちゃん?」
それに目ざとく気がついて微笑んで見せるほたるは、さすが幼馴染といったところか。
「そうだね。大変だけど、すごく楽しんでるよ。まだ一日目だけど。なんとなくうまくやっていけるような気がしてる」
「そうか。う~ん。そいつは何よりだね~」
背伸びをしながらくるりとこちらを振り向いての明るい笑顔。
一瞬どきりとする。普段ほたるにどきどきすることなんてないけれど、時々、本当にときどき見せる彼女の仕草にどきりとさせられることがある。
「どうしたの?なっちゃん」
一瞬固まっていたボクの顔を不思議そうにほたるが覗き込んでくる。
「いや…いやなんでもないよ。うん。ほたるの方こそどう?ソフトボール」
「当然頑張ってますよー。先輩曰く期待の新戦力らしいから、今後とももっと頑張っちゃいますよー」
「それはそれは…」
ボクがそこまで言ったとき、ほたると目があった。
なんとなく予感がする。
「「何よりですね」」
先読みされた。なんとなく悔しい。でも不思議と楽しい気もする。
なんだかんだいってほたるとのこんなやり取りをボクはとても楽しんでいる。