エゴ
長谷川さんを見送ってから、後悔がやってくる。
ボクには、長谷川さんに偉そうに語る権利なんてなかった。長谷川さんが気を悪くして帰ってしまうのも無理のないことだ。
だけどあの時のボクは、長谷川さんにああ言わずにいられなかった。だって長谷川さんのあの顔は、中学時代のボクに、友達もいなくて、好きなものを押し込めて、無理してソフテニをやっていた頃の息苦しかったボクにそっくりだったから。
フィギュアの箱を眺めながら思う。
明日、会えたなら長谷川さんに謝りたい。余計な口出しをしてしまって申し訳なかったと謝りたい。そしてできることなら、もう一度部活に入らないか誘いたい。
少なくとも、ゲームをしている時の彼女も、UFOキャッチャーをやっている時の彼女も、不機嫌な顔をしてふてくされているのより数段魅力的で楽しそうだった。もし、もしも部活であんな風にもう一度笑って、真剣な顔をして、本気でゲームをできるのなら、それは彼女とにとっていいことに違いない…。
ここまで考えてボクは首を横に振る。
いや、違う。彼女にとっていいことだなんてそんな押し付けがましい考えをボクは持っているんじゃない。そんな風に考えるのは、おかしい。
彼女にとっていいとかじゃなく、ただ『ボクが』彼女に気持ちよくゲームをやってもらいたいだけなんだ。
似ているようでそれは全然違う。ボクは彼女の意思とは無関係に、もどかしい気持ちでいっぱいだった過去の自分を彼女に重ね合わせているだけ。彼女を部活に誘うことで、過去に感じた自分のもやもやした気持ちを一緒に解消したいと思っているだけ。
ため息が出る。
ボクの本音は、考え直してみたら、ひどくエゴイスティックだった。
しかし、考え直して、そこまで自覚して、それでもボクは、長谷川さんに青春部に入ってもらいたいと思っていた。
理由ははっきりしている。やっぱりもやもやしたままは気持ち悪いんだ。