いじめられる方にも原因があるとはよく言ったもの。
引き続き過去の話を続ける無礼を許してもらいたい。
今度は小学校高学年、5年生になってからの話である。
小学校5年生。
物心つき始め、周りの目線が気になったりする思春期入り始めの年頃。
そして何より気になり始めるのが、異性との違いについてだろうと思う。
どこがどうというわけではなく、ただ違う。
そう感じ始める年頃。そんな風に思う。
そんな変化の年頃にさしかかり、ボクも一つ変化を遂げていた。
そう。一番に興味を持つ対象が変わったのだ。
こんな言い方をすると、恋愛フラグがたった!!と思いになるかもしれないが、まったくもってボクは期待を裏切らない変な小学生だったので、折り紙から異性に興味がうつったということはないから安心してもらいたい。
折り紙の次にボクが心を奪われたもの、それはボクがいまだに情熱を燃やし続けている、マスコット作りだ。
某国営放送TVの15分番組、「趣味の時間」その趣味の時間で紹介されていたのが、フェルトを使ったマスコット作りだった。
趣味の時間の10回の放送で、ボクはすっかりマスコット作りに骨抜きにされてしまい、これまで使い道のなかったお小遣いのほとんどを、マスコット制作のための裁縫道具につぎ込んだ。
始めたら一心不乱。猪突猛進。ハマったらズッポリはまりっぱなしのボクである。
寝る間も惜しんでフェルトに針を刺し続ける姿は、これまでのほほんと息子の成長を眺めてきた放任主義の両親にまで、
「この子大丈夫かしら…」
と言わしめたほどだった。
ともかく、ボクは熱中して、情熱のすべてをマスコット作りに注ぎ込んだ。
そしてようやく完成した、納得できる出来栄えのマスコット「てってこカピお君」を、嬉々としながら筆箱につけた。
そして、自らが火種を持ち込む形で、ボクは再びいじめの火を浴びることになる。
突然だが、小学校高学年ともなると、クラスの中にマドンナ的な女の子というものがいたりする。
ボクのクラスにおいて、そのマドンナ的で、リーダー的な存在の佐藤さんは、何の因果かボクの隣の席だった。
そして、マスコットをつけていったその日、隣の席の彼女は気がつくのである。
「…あれ?それって、『てってこカピお君』?」
「…あっ。うん。そうだけど…」
異性と話すことになんとなく抵抗を感じ始める年頃。なんとなく気恥ずかしい気がするが、作ってきたマスコットに気がついてもらえてうれしくなる。
「あたし、『カピお君』好きなんだ。へぇ…清水君も好きなんだ。なんだか以外」
「…うん、そうだよね。以外だよね」
マスコット作りが好きなだけで、カピお君はそこまで好きじゃない、とか言って話の腰を折るほど、ボクは空気の読めない子ではなかった。
「ねぇ…これ、ひょっとして手作り?ずいぶんよくできてるけど、売ってるの見たことないし」
ここで、「いいや、違うよ」と言えば、この先の展開はたぶん変わって、ボクがいじめられることもなかったと思う。だけど、ボクは一生懸命作った、初めて納得できるように仕上がった宝物が、よくできているとほめられて、思わずうれしくなり、言ってしまった。
「うん。これ、ボクの手作り…」
「えっ!?ウソ?マジで?本当に?スゴイスゴイ!!へぇ…清水君が作ったんだぁすごいねぇ…。いいなぁ。わたしも欲しいなぁ」
まさかこんなに喜んでもらえるなんて!!まさかこんなにほめてもらえるなんて!!
これまで同級生にすごいなんて言ってもらったことなかった。欲しいなんて言ってもらうことなかった…。
ボクはうれしくて、うれしいのがとまらなくなって…。
「…いいよっ。あげる。カピお君。」
思わず佐藤さんのやわらかい手のひらに、頑張って作ったカピお君マスコットをのせていた。
キョトンとしたような佐藤さんの大きな目。その後にその目がきゅっと細くなって、
「いいの?本当に?ありがとう!!でも、本当にいいの?頑張って作った大切なものじゃないの?」
「…いい。また作ればいいし、作るのが好きだから」
何より作ってあげてこんなに喜んでもらえるなら、ボクの宝物を、大切なことをすごいとほめてくれるなら、それよりうれしいことは他になかった。
「…ありがとう!!大事にするね?」
そう言って笑った佐藤さんの眩しい笑顔に、胸の奥がキュンとする。
思えばこれが初恋だったのかもしれない。
その日、ボクはこれまで感じたことがないほど満たされた気持ちで家に帰った。
でもボクは気がついていなかった。そんなボクたちの様子を同級生の男子たちがどう思って見ていたかなんて、これっぽっちも気がついていなかった。
次の日から、ボクの席のまわりはすごいことになっていた。
昼休み、ボクのところに集まる女子の同級生たち。
「聞いたよ!!清水君すごくかわいいマスコット作れるんだって?ねぇ、じゃあ、これ!!これ作れる?『カイワレさん』わたし、カイワレさん好きなんだけど、かわいいマスコットおいてないの」
「ねえ、カピお君わたしにも作って~」
こんなこと初めてで、ボクは混乱し通しで、でもうれしくて、順番に注文を聞いていった。
注文を聞くたびに頭の中にはマスコットのイメージが浮かんで来る。それはすごく幸せな時間だった。
でも、こうして女子との距離が近くなると、今度は男子との距離が遠くなっていくのも、この年頃のお決まりみたいなもの。
何の因果か、またあのいじめの主犯格、飯塚君とは同じクラスにだった。
彼はこう言ってボクを笑った。
「おとこおんな」
今度は何も言い返せなかった。ボク自身そう感じていたから。
そんなふうに過ごすうちに、ボクは男子に露骨にはぶられるようになった。
低学年の時のような実力行使ではない、壁を作るいじめ。
同学年にわずかにいた同性の友達も、気がついたら誰ひとりいなくなっていた。
そんな中でも、女の子たちはボクからマスコットをもらうと、ありがとうと言ってうれしそうにしてくれた。ボクは自分の宝物を認めてもらえて幸せだと、そう思っていた。