2P?
「それじゃあ、その、どのゲームがいい?どれでもいいよ。お礼の意味も込めて、今の手持ち分からいくらかはおごるから」
「…別に。あんたがえらんだらいいじゃない。好きなの選びなさいよ」
「いや、でもお礼なんだし、長谷川さんが好きなゲームがいいよ」
「いいわ。別に。どのゲームでも。あんたも一緒にやる気なんでしょう?あんたが好きなのを選んでいいわ」
長谷川さんの返しに、困ってしまうボク。
相手が好きなゲームもわからないのに、やるゲームを決めなければならない。うーん…。
2人でできるゲームを考える。
格闘ゲームはボクと長谷川さんで戦うことになる。そうなると、普段あまり格ゲーなんかやらないボクは一瞬でぼこぼこにされてしまうだろう。長谷川さんが格ゲーが得意かどうかはわからないが、なんとなくそんな気がした。それではとてもじゃないが彼女も楽しめないだろう。
仮に長谷川さんがあまり格ゲーが得意じゃなかったとしても、お礼なのにボクが勝ってしまって「ハイ終わり」ではあんまりなきもする。
それじゃあ2人で協力してできるゲームがいいだろう。
そんな時目に付いたゲームが…。
「あっ、あれ。あれにしよう?あのシューティングゲーム」
ボクの言葉に、長谷川さんがピクリと反応する。
ボクがやろうといったゲームは、古めかしいデザインのシューティングゲーム。
戦闘機からビームやミサイルが出てくるタイプのスタンダードな縦シューティングで、隣同士に座り、2人プレイができる
「あっ、ソニストか。うん。いいね。久しぶりにやってみるのもいいかも」
そう言って言葉少なに言う長谷川さんは少なくともそのゲームが嫌いなようには見えなかった。
「うん。じゃあ2人プレイ。はい百円。ボクもこっちでやるから」
2人で並んで席に座り、100円を入れる。
さっそく機体選択画面。1Pのボクは、一番使いやすいらしい、全方位万能型の機体をチョイスした。
2Pの長谷川さんは前方集中型高威力装備という、玄人向けの機体をチョイス。さっきもやったことあるみたいなことを言っていたし、きっといろいろやってこの機体が彼女にとって使いやすいと感じたということなんだろう。
ゲームがスタートし、オープニングアニメーションが流れる。
どうやら高い技術力により作られた空母が、何者かによって乗っ取られ、危険な状態にあるため、国から密命を受けたエージェントが操る戦闘機(つまりボクたちの操作する機体だ)が、空母と戦っていくというようなストーリーらしい。
1面が始まる。始めは敵の数も、攻撃も手ぬるく、このゲームを始めたやったボクでも余裕を持って…
「へっ?」
ボクは呆けていた。いや、敵の攻撃ではなく、長谷川さんが操作する機体の動きに。
まるで敵が出てくる位置をすべて把握しているかのような動き。アイテムを無駄なく回収し尽くし、ボクがやることは、正直言って何一つなかった。
「チッ。P取り損ねた。あんた拾って」
長谷川さんは舌打ちするとボクにそういう。
一瞬何を言っているのかわけがわからなかったが、どうやらパワーアップアイテムを1つ取り逃したのが不満であり、なおかつもったいないからボクに取れということらしい。
どういうことだよ…。っていうかどんだけこのゲームのこと把握してるの?
何もできず後ろでフヨフヨしているだけのボクの機体と、一機で獅子奮迅中の長谷川さん。
もはや2人でゲームというか、1人がゲームしてるのをスティックとボタンを構えながらみているだけという作業だった。
そんなこんなで一面のボスにたどり着く。
ボスは全方位型のミサイルを散発してくるが、その密度は薄く、ボクにも簡単に回避が…
「あほ!!そこにいたら死ぬ!!」
「あほっ?」
長谷川さんがそういった直後、ボスから2本の主砲が繰り出され、事前のモーションもなく突然画面左と右が白いビームに埋め尽くされ、はじのほうでミサイルを回避していたボクの機体は消し炭になった。というか、初見殺しもいいところである。
初見殺しに消し炭にされて落ち込んでいるところに長谷川さんが追い打ちをかけてくる。
「ヘタクソ!!あんたのプレイだめ!!全然ダメ!!ちょっとかしなさい!!」
長谷川さんはそういうと、なんと、右手で自身の機体を操作しながら、左手で復活したボクの機体を操作し始めた。
えっ?っていうか、何その曲芸プレイ…。
彼女が左手で操作する機体の動きは、ボクのそれよりもはるかにスムーズに敵の主砲にダメージを加えている。そして…
「うそ?」
彼女は1人で2機を操り、あっさりと1面のボスを倒してしまった。
「これくらい、やって見せなさい」
そう言って長谷川さんは不敵に笑って見せた。
正直言って…無理です。